375ー餌付け?
「リア姉、何言ってんだろうな」
「りあねえは、じぇったいむりなのら」
「アハハハ! そうか?」
「そうだよ、フリード爺が言うように鍛練もまともにできないのにさ」
「ニコは厳しいな」
「ラン爺、そんな事ないぞ。普通だぞ」
そうそう、誰が見てもリア姉ができるとは思わない。あんな細い腕で、どうやって掴まるのだ。まだレオ兄の方が可能性がある。でもレオ兄はしないと思うけど。
「ニコ、ロロ、こっちに来なさい」
フリード爺に呼ばれちゃった。何だろう? もちろん俺達は乗れないぞ。
「よし、行こう」
「らんじい、あるけないのら」
「揺れるから抱っこしてやろう」
俺はラン爺にヒョイと抱っこされ、ニコ兄はラン爺に手を引いてもらいながらフリード爺のいるところまで移動した。
「フリード爺、めっちゃかっちょよかった!」
「ワッハッハッハ! そうか!」
「しゅごいのら!」
「そうかそうか! ワッハッハッハ!」
フリード爺が嬉しそうに笑った。だって、本当に凄かった。
「ランベルト、ロロを抱っこしていてくれ」
「ああ、分かった」
何をするのかと思って俺は見ていた。抱っこしてくれている、ラン爺の首元に掴まりながら。
フリード爺が持ってきていた箱の中から、大きなお肉の塊を出した。それを海にポーンと山なりに高く投げた。
そのお肉目掛けて、さっきのイルカの魔物さんが高くジャンプしてパクリと食べ、一回転してザブーンと飛沫をあげて海に飛び込んでいく。
どこかのイルカショーでも、こんな事をしているかどうか分からない。
「え!? クルッて!」
「食べたぞ!」
「見ていなさい、まだだよ」
今度はフリード爺がお肉を手に持って伸ばした。船から手を伸ばし、海面の上に出す感じだ。
そのお肉を、またイルカの魔物さんが軽くジャンプしてパクリと食べた。お肉だけを上手に食べる。まるで、餌付けだ。てか、手を食べられたりしないのか?
「フリードお祖父様! 私も!」
「おう、気を付けるんだぞ」
「はい! 大丈夫です!」
今度はリーゼさんがお肉を持って手を伸ばす。
するとそこにやってきたイルカさんの魔物。ジャンプすると、上手にパクリとお肉を食べた。
「ふふふ、可愛いわ!」
え、可愛いのか? 頭に角があるのだぞ。それでもイルカさんと言えばイルカさんだけど。
「ニコとロロもやってみるか?」
「ラン爺! 俺やりたい!」
「よし、じゃあ肉を持ちなさい」
「おう!」
「ニコ、大丈夫か?」
「そうよ、ニコ。手も食べられちゃうわよ」
レオ兄とリア姉が心配そうだ。だってニコ兄はまだちびっ子だし、大丈夫なのかな?
「らんじい、らいじょぶ?」
「ああ、大丈夫だ。ロロもやってみるといい」
「ええー」
ニコ兄がフリード爺に支えてもらいながら、手を海面の上に出す。
するとどこからかススイ~ッとやってきたイルカの魔物。そして軽くジャンプしてパクリとお肉を食べた。
「うおーッ! こえー!」
「にこにい!」
「ロロ! めっちゃ怖いぞ!」
「ええー!」
怖いと言いながら、ニカッと笑っているのはどうしてだ?
「アハハハ! こえー!」
ほら、怖いと言いながら笑っている。どっちなんだよ。
「思わず手を引っ込めたくなるんだよ。でも、そこをグッと我慢するんだ」
「ひょぉー!」
「アハハハ! 次はロロもやってみるか?」
「らって、らんじい。こわこわなのら」
「大丈夫だ。私が抱っこしているから」
いやいや、手を出すのだから抱っこは関係ないじゃないか。
「向こうも慣れているから平気だぞ」
「ふりーろじい、ほんちょに?」
「ああ、本当だ!」
じゃあ、やってみようかな? と、お肉を持つ。だけどそのお肉が重い。だって大きいお肉だから。お肉を持つ手がプルプルしちゃうぞ。
「らんじい、おもいのら」
「アハハハ、重いか。じゃあ私が一緒に持ってあげよう」
片腕で俺を抱っこして、もう片方の手で一緒にお肉を持ってくれる。大丈夫か? 不安定じゃないか? 言っとくけど、俺は怖がりだぞ。
「らんじい、こわこわ」
「アハハハ、大丈夫だ」
ススイーッと泳いできたイルカの魔物。海面から角だけが出ている。おっと、マジで怖い。間近で見ると思ったよりずっと大きい。
「ひょ、ひょぇーッ!」
「ロロ、まだだぞ」
「うん!」
ラン爺が一緒にお肉を持ってくれているからまだできた。俺一人だったら、絶対に手を引っ込めている。それ以前にやってない。だって怖いもの。
やって来たイルカの魔物が、ザパンとジャンプしてお肉を咥えていく。俺の小さなお手々は無事だった。思わず、グーとパーを繰り返してやってしまう。
「ひょぉー! しゅごいのら!」
「アハハハ! できたな、ロロ!」
「こわこわ! れきたのら!」
自分で手をパチパチと叩いて喜んでしまった。びっくりした。本当にお肉だけをパクリと持って行く。お利口だ。
元はイルカの魔物だ。イルカって知能が高い生物だからかな。
それにしても、大変なショーだった。手に汗握るし、心臓もバッコバコだ。
「ロロ、怖かっただろ?」
「うん、にこにい。めっちゃ、こわこわら」
「な! 怖いよな! アハハハ!」
また怖いと言いながら笑っている。本当に怖かったのか? ニコ兄のテンションがいつもと違うぞ。いや、みんなか? 俺もそうだ。




