368ーあたッ!
「お父様! お母様! もう来ているのですって!?」
びっくりしちゃった。ちょっぴり身体が、ビクッと跳ねたくらいだ。
シチューをお口に入れたばかりの俺は、パンパンに膨れたほっぺのままでびっくり目になって固まってしまった。いや、モグモグとお口だけは動いている。
「やだ! なんて可愛いの!」
あ、俺ロックオンされちゃった。ドアをバンッと開けて入ってきたお姉さんと、眼がバチッと合ってしまったぞ。
ドレスでもワンピースでもなくて、乗馬服のようなものを着ている。パンツ姿だ。絹の様なストレートのブルーブロンドの長い髪に、ネリアさんと同じガーネット色の瞳はまんまるでパッチリとしてるキュートな感じのお姉さんだ。
その長い髪をキリッとポニーテールに結んでいて、パンツ姿がかっちょいいはずなのにどこか決まらないように思えるのは何故だろう。
「これ、リーゼ」
「会いたくて、急いで馬を飛ばして帰って来たのよ!」
「リーゼ」
「あ、私はリーゼネリアっていうの。リーゼって呼んでちょうだいね! よろしくねッ!」
そう言ってポニーテールを揺らしながら、ツカツカと入ってくるのだけど何もないところで盛大に躓いた。まるで漫画に出て来るみたいにだ。
「あたッ!」
「リーゼ! 静かになさい!」
「はいッ! お母様!」
躓いたものの、おっとっととよろけながら転けるのをギリ堪える。そしてその場でピシっと直立不動だ。ネリアさんに魔王が降臨しているからだ。いつもはフワリとした印象の優しいネリアさんが、背中に魔王を背負っているかの様に怖い顔をしている。
何度も声を掛けられていたのに、ガン無視で一方的に捲し立てていた。ネリアさんに大きな声で叱られて、やっと気付いたらしい。周りが見えていないのかな? どうして何もないところで躓くかな? 俺でもそんな事はしないぞ。
俺はお口をモグモグさせたまま、そのまま待機だ。ちょっぴりタコさんのお口になっている。
「もう、貴方はどうしてそうなの!?」
「はい、ごめんなさい」
今度はシュンと小さくなっている。さっき自己紹介していた様に、この人がこの家の長女リーゼネリアさんだ。隣国の学院に通っていて寮に入っている。俺達が来ると知って、直ぐに馬を飛ばして帰って来たらしい。
「ごめんなさいね、騒がしくて。この子はいつもこうなのよ。そそっかしくて。リーゼ、みんな食事中なのよ」
「はい、すみません」
どんどん小さくなっていく。それでも俯き加減にはしているものの、眼はチロチロと俺達の事を見ている。ウズウズしているのが隠しきれていない。
「バタバタしてすまないな、紹介しよう。娘のリーゼネリアだ。リアと同い年の17歳だ」
「初めまして! リーゼよ! とっても楽しみにしていたの! 心配していたのよッ!」
ほら、もう復活している。俺の頭をちょびっと過ってしまった奴がいる。このドジさ加減といい、立ち直りの早さといい、どこかの女神に似ていないか? 俺はもうあのタイプのキャラは満腹だぞ。
そんな事を思いながら、エビフライにサクッと良い音を立てて齧り付く。俺の一口なんて小さいのだけど。
「ロロ、ちょっと待つんだぞ」
「ふぐ」
「また口いっぱいなのかよ」
「ふもも」
お口いっぱいに頬張ったエビフライの所為で、お話できない。だって美味しいのだもの。タルタルソースをたっぷりと付けてお口に入れてみな? 甘いエビとほんのり酸っぱいタルタルソースのハーモニーだよ。
ニコ兄が俺のお口の周りを拭いてくれながら言った。
「分かったから、ちょっと口に入れるの待つんだぞ」
「ふぐ」
分かったと頷いておこう。モグモグと食べる。俺の足元でピカとチロが冷めた眼で見ていた。え、そんな感じなの? ピカだってお口いっぱいに頬張るのに。
「わふ」
「ふぅ、もうらいじょぶなのら」
「わふん」
「キュルン」
「ええー」
お行儀が悪いよ、なんて言われてしまった。
そんな俺達をじぃーッと見ていたリーゼさん。ツカツカと俺の側にやって来た。躓くのじゃないだろうな。
「貴方がロロくんね!」
「ろろれいいのら」
「きゃわいいぃーッ!」
俺はちびっ子用の座るところが高くなっている椅子に座っているのに、そのままギュッと抱きつかれてしまった。何がなにやら、俺はまた固まる。その上初めてだというのに、俺のお腹をぷにぷにしてきた。これはいかん。リア姉より強敵かも知れない。
「に、に、にこにい!」
「おう、我慢だ。ロロ」
「ええー!」
「これ! リーゼ!」
「あ、ごめんなさい」
ネリアさんが注意してくれて、やっと離れてくれた。俺はこういう運命なのだろうか。よく抱きつかれる。それは良いのだ。駄目なのはその手だ。まだ触りたそうにワシワシと動かしている。
「とっても綺麗なワンちゃんだわ。ロロのワンちゃんなの?」
「しょうなのら。ぴかなのら」
「かわいぃー!」
そう言いながらピカに抱きつこうとしたのだけど、ピカがヒョイと避けた。え、ピカさん避けちゃうのか?
「わふ」
「ええー」
ピカったら、だってちょっと汚れているから。なんて言っている。そうか? それほどじゃないだろう? 幸いリーゼさんは、どこかの女神の様にスライディングはしなかった。ちゃんと堪えている。
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