36ー遊んだのだ
ピカを狙われる騒動はあったけど、もういつも通りの毎日なのだ。
変わった事といえば、ニコ兄が育てた野菜をたいそう気に入ったディさんが、時々食べに来るようになったのだ。
「ここのお野菜が恋しくて来ちゃった!」
なんて言いながらやって来る。大好物なのだろうな。
いつも手土産を持ってきてくれるし、賑やかになって俺は大歓迎なのだ。
ディさんは、本当に沢山の野菜を食べる。あの細身の体によくそれだけ野菜が入るな、と思うくらいに食べる。お肉も食べるけどね。
「美味しいお野菜があるからこそ、お肉が引き立つんだよ~」
と、訳の分からない事を言っている。
あの後、ギルマスとディさんが連名で領主に抗議をしてくれた。
ディさんは影響力があるらしい。だってこの街で唯一のSSランクなのだから。
俺は知らなかったのだけど、SSランクって今はエルフしかいないそうだ。国に3人しかいない。その中の1人がディさんだ。凄いのだ。
一代限りの騎士爵を叙爵される話もあったそうだ。なのに、ディさんは辞退したのだ。
「僕はエルフだからね。いつまでこの街にいるかも分からないし。爵位なんて興味ないんだ。エルフの国には、爵位はないんだよ」
と、話していたのだ。
そんなディさんとギルマスが連名で、訴えた。簡単に無かった事には出来ないという事らしいのだ。
そして、実際にピカを狙ってきた男は、アッサリと事情を話したそうだ。
俺は詳しい事は知らないのだ。
でもいつも通り、マリーと2人でまた出掛けられるようになった。
今日も、ビオ爺のいる教会まで来ている。今日はピカも一緒だ。ピカは一気に有名人……じゃなくて有名犬になってしまったのだ。
教会まで行く途中で、何人もの人から声を掛けられた。
みんな、連れて行かれなくて良かったな。綺麗な犬だね。て、言ってくれる。
ビオ爺も、ピカが狙われた事を知っていたのだ。
「聞いたぞ。大変だったな」
「あらあら、もう知っているの?」
「そりゃそうだ。街でえらい噂になっていたからな。あの令嬢も、とうとう終わりじゃないかって話だ」
『終わり』て、どういう意味なのだ? 物騒だな。
「今までも散々やらかしているんだ。さすがに罪には問えないだろうが」
「びおじい、まらこどもら」
「ん? レベッカ様か?」
「しょう」
「それでも、悪い事をしたらちゃんと叱られて理解して反省しないとな」
「ん……」
ビオ爺の言う通りだ。子供だから、領主様の娘だから何でも許される訳ではない。
でも、今まで有耶無耶になっていたのではないか? だから、こんな事になっているのではないかと俺は思うのだ。
ま、今日はそれよりも……
「まりー、お肉」
「あらあら、そうでしたね」
「なんだ?」
「お肉のお裾分けがあるのよ。リア嬢ちゃまとレオ坊ちゃまが沢山獲ってきて下さったから」
「おおー、肉か! そりゃ悪いな」
「びおじい、だしてもいい?」
「ん? 構わないが、どこに持っているんだ?」
「ぴか、だして」
「わふ」
ドドンと、何もない空間から肉の塊が出てきた。ちゃんと包んであるのだよ。
ピカが収納している間は腐ったりしないんだけど、こうしてお裾分けする時は腐り難くなる葉っぱに包んでおくのだ。
「な、な、なんだッ!? 今どっから出てきた!?」
「ぴか」
「なんだって!?」
「ちゃんと血抜きもしてあるのよ。直ぐに焼いて食べられるわ。あ、そうそう。このお肉を包んでいる大きな葉っぱがね、腐り難くしてくれるのよ。うちの家の周りに生えていて……」
マリーが説明しているけど、ビオ爺は聞いていないと思うよ。だって、ポカーンと口を開けたまま固まっているから。
「ピカって、このピカか?」
ほら、聞いてないや。
「しょう。ひみちゅ」
俺は人差し指を立てて、プルンとした唇の前にもってきてプニッとくっ付けた。秘密なのだ。
「お、おう。秘密か」
「うん、ひみちゅ」
「アハハハ! そりゃ秘密だよな!」
おや、笑ってしまった。面白いか?
「肉は助かるぜ。子供達が、育ち盛りでよく食うんだ」
「リア嬢ちゃまとレオ坊ちゃまが狩ってきてくださるのよ」
「ほう、この肉はいいサシが入っているじゃないか。美味そうだ」
「うまうまら」
「そうか、美味いか! アハハハ」
うん、こんな平和が1番だ。
ビオ爺と話していると、ハンナがやって来た。猫耳の子供達も一緒だ。
「あら、マリーさん、ロロ。来ていたのですね」
「あー、ロロ」
「一緒に遊ぼうぜ」
「まりー、いい?」
「はい、構いませんよ」
俺は、猫耳の子供達の方へトコトコと走って行った。
一緒に教会の裏に出て、庭で遊ぶ。
「鬼ごっこしようぜ」
「ロロはまだちびっ子だから俺と一緒な」
「うん」
「わふ」
1番年上っぽい子に手を繋がれて参加だ。と言ってもニコ兄と同じ位だろうか? 子供と遊ぶ事なんてないから、何だか楽しい。ワクワクするのだ。
ピカは退屈そうに、木陰に歩いて行った。
「あらあら。ロロ坊ちゃま、転けないでくださいよ」
「まりー、らいじょぶら!」
俺が子供達に混ざって遊んでいるのを、マリーとビオ爺が見ていた。ハンナは女の子達と一緒に木陰で絵本を読んでいる。そのそばでピカが寝そべっている。
わふぅ~っと大きな欠伸をしている。
お読み頂き有難うございます。
今日のイチオシはロロの『ひみちゅ』です。
可愛くないですか?^^;
宜しければ、評価やブクマをして頂けると嬉しいでっす。
宜しくお願いします!




