357ーオーク戦
でっぷりとした大きな体に豚さんの様なお鼻をしたオークが、手に木と石で作った武器を持っている。他のオークよりずっと大きい。そいつが防御壁を壊したらしい。いくら上位種だからといって、そう簡単に壊せるものなのか? よく見るとその大きな奴が3頭もいる。
「わふん」
「え、しょうなの?」
ピカさんが、防御壁のあの部分が脆くなっていたみたい。と言った。どうしてだろう?
そんな事を考えていると、子分の様なオーク達が崩れた防御壁の瓦礫を乗り越えバラバラと入ってくるのが見えた。
「うわ!」
「初めて見たな!」
「うん、にこにい」
この世界で魔獣や魔物を見た事はある。でも、二足歩行の魔物を見たのは初めてだった。
ニコ兄と一緒に外を見ていると、俺達の後ろに停まっていた馬車からマリー達が走って来た。
危ないのに、外に出たら駄目じゃないか。
「ニコ坊ちゃま! ロロ坊ちゃま! 馬車の中に入っていましょう!」
「ニコ、外に出たら駄目よ!」
「ロロ坊ちゃま!」
三人が口々に俺達を心配して叫んでいる。
馬車に乗り込んで来たマリーが俺に抱きついた。
「ロロ坊ちゃま、大丈夫ですよ」
「まりー、へいきなのら」
「あらあら、そうなのですか?」
「うん、ぴかもいるのら」
「そうでしたね。ピカは強いから大丈夫です」
それに馬車の外には出ていないぞ。マリー達の方が危ない。まさか3人が飛び出してくるとは思わなかった。でも俺達を心配してくれたのだ。
「もう、マリーは心配で心配で」
「らいじょぶなのら」
「私、オークって初めて見たわ」
「な、俺もだ」
「美味しいらしいわよ」
「マジか、そうなのか?」
ユーリアとニコ兄が呑気に話している。ユーリアも、少し気持ちが落ち着いたみたいだ。
エルザが外を気にして見ている。
「あ! フリード様とランベルト様だわ!」
もう来てくれたのか? 速いな。さっきドゴーン! て、音がしたばかりだというのに。
「あのお二人は普段からこの領地を、見回っておられるそうですよ」
「へえー」
大きな黒い馬に颯爽と乗って、フリード爺とラン爺の登場だ。フリード爺は身体と同じ位ある大きな剣を背中に、ラン爺はレオ兄が持っている槍よりずっと大きな槍を担いでいる。
あれが二人の武器だ。あんな大きな物を持って戦うなんて、俺には想像もできない。
その武器を背中に担いで、馬で爆走している。お馬さんも普通の馬より大きくないか?
フリード爺とラン爺が、近くなってきて分かった。馬の額に大小二本の小さな角が縦に並んでいる。と、いう事は魔獣だ。馬の魔獣を乗りこなしていると言う事だ。
「怪我はないか!?」
「ふりーろじい! らんじい!」
「ロロ! 馬車から出るんじゃないぞぉッ!」
大きな声でそれだけ言って、オークが入ってきた方へと走って行く。その後を領主隊の人達が続く。なんて頼もしいのだ。
「かっちょいい!」
「な、超かっけーな!」
「にこにい、ボクたちもやるのら!」
「何言ってんだよ。出るなって言われただろう?」
「しょうらった」
つい、テンションが爆上がりしてしまった。よく見ると、普通のオークでも俺よりずっと大きい。
俺みたいなちびっ子が出て行っても邪魔になるだけだ。仕方ない、大人しくここで見ていよう。
「にこにい、しゅごいのら」
「おう、そうだな」
そう言いながら、ニコ兄だってウズウズしているぞ。だって手に持ったピコピコハンマーを、ギュッと握り締めている。
「にこにいの、ぴこぴこはんまー」
「おう、なんだ?」
「しょこれぶっしゃしゅと、ちゅよいのら」
「そういってたな」
「しょうなのら。しょのときいっしょに、まりょくをながしゅのら」
「魔力もなのか?」
「しょうなのら」
そうだよ、前に川辺でブラックウルフを相手にした時、ニコ兄はきっと魔力を流していなかった。
それだけでも、ピコピコハンマーは強いのだけど魔力を流すともっと強くなる。固い武器ってだけじゃなく、魔力で攻撃力をアップさせるのだ。
「あー、魔力かぁ……」
この反応はあれか? もしかしてなのか?
「にこにい、ぽかぽかぐるぐるしてないのら?」
「やってるぞ。やろうと思うんだけどさ、昼間は畑で働いてるだろう? だからつい寝ちゃう時があるんだよ」
「ニコはほとんど毎日寝ちゃうものね」
「なんだよ! ユーリアは知らないだろう?」
「あら、知ってるわよ。だってリア嬢ちゃまがそう言ってたもの」
「ええー! リア姉なのかよ!」
結局は、魔力操作をやっていないという事だな? だから魔力を流すと言われても苦手だと。ふむふむ。
「にこにい、くりーんしゅるときみたいに、てにながしゅのら」
「おう、クリーンか。それならできるぞ」
いや、クリーンするのではないぞ。同じような要領で魔力を流すという事だぞ。
ニコ兄はそこんとこ分かっているのか?
「クリーンの時みたいに、手に魔力を流すんだろ?」
「しょうしょう」
よし、分かっていた。俺とニコ兄がそんな呑気な事を言っていたら、ピカがムクッと起きて馬車のドアの前を陣取った。
「ぴか?」
「わふん」
危ないから中に入っていてと言う。どうした? もしかしてオークがこっちに来ているのか? 俺はお外を見たいのだ。
「ぴか、みたいのら」
「わふ」
ピカの隣でお外を見る。崩れた防御壁から、なだれ込んでくるオークが見えた。




