353ーお昼ごはん
「いろんな品種があるんだ。ここで作っているワインはこの国では有名なんだぞ! ワッハッハッハ!」
それは凄い。食べるぶどうと、ワイン用のぶどうは違う。
確か、ワイン用は発酵させなければならない。その為に皮が大事なのだ。それに水分が多すぎても、ワイン用には向かない。
対して、食用は水分が多くて皮は薄い方が良い。シャインマスカット等は皮も食べられる。
其々に研究したのだろう。これは途方もない事だ。
だってこの世界には、PCもないし調べる機器など何もないのだから。
「この地は元々よく育つ土地なんだ。普通に甘くて美味いものができる。だがな、もっと安定して美味いものを、とご先祖様が頑張った成果だ! ワシはそれを誇りに思っている。それを守り、もっと良くできないかと研究を続けているんだぞ」
「スゲーな!」
「おう、ニコは分かるか!?」
「分かるぞ! ドルフ爺も、同じ様な事をしているからな!」
え、そうなのか? ドルフ爺もそんな事をしていたのか?
「ドルフ爺も、野菜をもっと美味しく、虫や病気に強い品種をってやってるぞ」
「そうか! ワッハッハッハ!」
根気よく向きあい、常に良くしようと研究し続ける意欲。それは誰にでもできる事ではない。俺も研究者だったから少しは分かる。
思う様な結果が出なくて、それまでの膨大な時間が一瞬で無になった時の虚しさといったら。
そんな事を何度も何度も繰り返してきたのだろう。
「しげじいも、どるふじいも、しゅごいのら! はかしぇなのら!」
「あぁ? あんだって?」
まだ分からないか? 折角褒めているのに。
「ロロはシゲ爺もドルフ爺も、博士だと言っているんですよ」
「ワッハッハッハ! 博士か! そんな大したもんじゃねーぞ」
「しょんなことないのら」
そんな話を聞きながら、俺達は借りた籠いっぱいにぶどうを採った。
果樹園とぶどう畑の間に休憩所の様な建屋があって、そこでのんびりと辺境伯夫人は待っていた。優雅にぶどうジュースを飲みながら。
「あ! ねりあしゃん、ぶろうじゅーしゅのんれる!」
「ふふふ、ロロもいらっしゃい。美味しいわよ。搾りたてですって」
「ひょぉー!」
「俺も!」
ニコ兄と一緒にテケテケと走って行く。
地面が舗装されている訳ではないから、でこぼこしていて走り難い。でも、こんな自然の中って、とっても気持ち良い。ルルンデとは違う匂いだけど、風も爽やかだ。
俺が走るすぐ側をピカも付いてくる。俺は一生懸命走っているのに、ピカは余裕だ。
フサフサの尻尾をユラユラと揺らしながら、小走りといった感じだ。
ピカのプラチナブロンドの体毛が、お日様の光でピカピカと光って見える。
「ピカは本当にかっこいいわね」
俺達と一緒に走って来たピカを見て、ネリアさんが言った。
「珍しい毛色だし、お利口だわ。ロロを守っているのね」
「おともらちなのら」
「まあ、とってもかっこいいお友達ね」
「うん」
ヨイショとネリアさんのお隣に座る。
「ロロ坊ちゃま、ぶどうジュースですよ」
「まりー、ありがと」
お邸で飲んだぶどうジュースとは色が違う。ポピュラーな濃い紫のぶどう色をしている。
「きのうのと、いろがちがうのら」
「そうね、このぶどうジュースの方が甘くて濃いわよ」
ほうほう、ぶどうで例えると昨日のはシャインマスカット。今日のは巨峰といった感じだろうか? それをコクリと一口飲んだ。
「う、うまうまら!」
「めっちゃ濃いな!」
「ワッハッハッハ! そうだろう! 今年のは特に甘いんだ!」
シゲ爺が自慢そうだ。昨日のグリーン色したぶどうジュースは、どちらかというと爽やかな風味だった。
今日のはとってもコクがあって濃厚で、こっちの方が甘い。
これだけの広さの果樹園を管理するのは大変だろう。その上、品種改良までしている。それって、とんでもない事だぞ。
「しげじい、しゅごいのら! やっぱ、はかしぇなのら!」
「あん? あんだって?」
またどこかの、おじさんみたいになっている。
「シゲ爺、ロロはシゲ爺が凄いと褒めているのよ」
「そうか! ワシは凄いか! ワッハッハッハ!」
何を言っても笑っている。この豪快さはフリード爺と同じだ。
この広大な領地で育つと、ああなるのかな? いや、そんな事はないだろう。
それならこの領地は、シゲ爺とフリード爺みたいな人ばかりになってしまう。そんなの煩くて仕様がない。
「幼い頃は、フリード様に剣を教えたりもしたんだ。だがもうあっという間に、追い越されてしまった。あの方の剣のセンスはとんでもねー」
「ひょぉー!」
「かっけーな!」
「そうなの!?」
「もう、姉上まで」
俺とニコ兄が驚いていると、リア姉まで身を乗り出して驚いていた。剣の話になると、放っておけないらしい。
リア姉は一応、令嬢なのだからね。分かっているかな?
「リアはもっと、マナーを学ばないといけないわね。ふふふ」
ほら、ネリアさんに言われちゃった。
「え、ネリア様。そんなー」
「私が直々に教えたいわ」
「ええー」
ワッハッハッハとシゲ爺が笑っている。ネリアさんはリア姉の事を心配してくれているのだ。ちょっぴり眼が怖いけど。
「さあさあ、休憩したらお昼にしませんか?」
「まりー、たべるのら」
「お腹空いた!」
マリーとエルザとユーリア達が持ってきてくれていた。他にもメイドさんが数人。みんなで休憩場のような建屋でお昼だ。




