350ー朝の鍛練
「この領地で作られるワインは国で一番なのだぞ」
おー! て、辺境伯が教えてくれたけど、俺はワインを呑まないから分からないぞ。
「あなた、みんなはまだ子供ですからワインに興味はないでしょう」
「お? ああ、そうか」
ぶどう畑に行く前に、また驚く事があったのだ。
ラン爺が話していた鍛練だ。朝食を食べてのんびりしていると、朝の鍛練が始まった。
みんなどこからか集まってきて、外に出て行くから何事かと思ったのだ。
裏庭にあるだだっ広い鍛練場に、大勢の人達が集まっている。
領主隊と呼ばれている人達に混ざって、お邸の使用人として働いている人達もいる。メイド服を着たままのメイドさん達もいる。
メイドさん達がいる所為で、鍛練なのにキャアキャアと賑やかだ。
先頭には辺境伯とフリード爺が、思い思いに柔軟をしながら張り切っている。
独特の空気感に圧倒されてしまう。
「え……にこにい、ほんとにしゅるの?」
「俺、遠慮しておこうかな」
ほら、腰が引けているぞ。そりゃそうだ。まさかこんなに本格的だとは、思わなかった。これを見たら、ちょっとと思っちゃうぞ。
だけど、そんな俺達を目敏く見つけたのがフリード爺だ。
「来たか! リア! レオ! ニコ! 入りなさい!」
良かったー! 俺は呼ばれなかった。セーフだ。
「ロロ坊ちゃまは、マリーと一緒に見ていましょうね」
「うん、まりー」
マリーに手を引かれ、エルザやユーリアと一緒に鍛練場の隅に置いてあるベンチまで移動する。流石にネリアさんは、優雅にベンチで見学だ。俺とマリー達も、一緒に見学なのだ。
ふぅ~、まさか俺は呼ばれないだろうとは思っていたけど。それでもあのフリード爺だから何を言い出すのか予測がつかない。呼ばれなくてホッとした。
「ふふふ、ロロはまだ小さいから大丈夫よ」
「うん、ねりあしゃん」
大丈夫と言われてしまった。何が大丈夫なのか。そんなにハードな鍛練なのか?
フリード爺に大きな声で呼ばれた、リア姉、レオ兄、ニコ兄。リア姉は張り切って、レオ兄とニコ兄はリア姉の後ろに隠れる様にして、集まっている人達の中に入って行った。
ユーリさんがこっちにおいでと手招きしていた。よく見ると、テオさんとジルさんも参加している。
「この鍛練は全員参加なんですって」
「えるざ、しょうなの?」
「テオさんとジルさんも、来る度に参加させられるって言ってましたよ」
「ええー」
それは強制参加と言うのではないか?
「ロロ坊ちゃまは、まだ3歳ですから免れましたね」
「ゆーりあ、しょうなの?」
「はい。ニコの歳だともう参加だそうですよ」
ああ、ニコ兄。頑張ってほしい。健闘を祈っている。
「ふふふ、みんなああして参加させられちゃうのよ」
参加させられちゃうと!? 俺はちびっ子で良かったと、この時心から思ったのだ。
「整列ッ!!」
普段でも大きな声なのに、広い鍛錬場に響き渡るような大声で辺境伯のイシュトさんが叫んだ。
すると、それまでキャアキャア言っていたメイドさん達まで、ピシッと整列している。やる気だぜ。いや、きっとみんな慣れているんだ。
「にこにい、らいじょぶかなぁ」
「ふふふ、ニコはあれでも体力がありますよ」
「ゆーりあ、しょう?」
「はい。それよりも問題は、リア嬢ちゃまですよ」
ええ!? そうなのか? だって一番ノリノリだったぞ。ほら、今だって眼がキラキラして張り切っているじゃないか。
気合が入っているのが、見ているだけで分かるもの。なのに、エルザとユーリアの見解は違うらしい。
「そうよね~、リア嬢ちゃまは瞬発力はあるんだけど、持久力がね」
「でしょう? お姉ちゃんもそう思うでしょう?」
「あらあら、ふふふふ」
「まあ、そうなのね」
そうなのか? みんなはそう思っているのか? 俺って間違ってる?
俺はてっきり、リア姉だけは大丈夫なのだろうと思っていたぞ。
そして俺が見ている目の前で、鍛練が始まった。
「精神一到!!」
――おおー!!
――はぁ〜い!!
「え……」
一番前の真ん中にいる辺境伯のイシュトさんが、鍛練場に響き渡る様な大声で号令をかけた。俺は引きまくりだ。ちょっと怖い。
いやいや、はぁ~い! て、何だよ。そこはメイドのお姉さん達違うだろう?
「リアァッ! 後れているぞぉッ!」
「リア! 付いてこられなかったら休みながらでも良いぞ!」
「はいぃッ! まだまだー!」
「よぉーし! 良い根性だぁーッ!」
ええー……根性って。マリーにピトッとくっついて、お顔を半分隠して見ている俺の前で鍛練は続けられる。
「一心精進!!」
――おおー!!
――はぁ〜い!!
「一意専心!! 鍛練を疎かにするなぁッ!!」
――おおー!!
――はぁ〜い!!
鍛練を一部だけど紹介しよう。
腕立て伏せを2回し、その体勢のまま手足で右に移動する。もう2回腕立て伏せをして今度は左に移動し、また腕立て伏せを2回。そのまま続けて、両膝を高く上げてジャンプ。これを繰り返す。などなど。
見ているだけで、疲れてくる。メイドさん達はメイド服なのにスカートを翻しながら、余裕で鍛練に付いていっている。慣れたものなのだ。
そっか、戦うメイドさんなのだ。うん、きっとそうだ。
お読みいただき有難うございます!
今日の鍛練はココちゃんの頃から続けられているものです。なんだか懐かしいですね。
ココちゃんも書籍化したい!(≧∇≦)
ところで、ロロの書籍をご購入頂いた方。裏表紙は見て頂けたでしょうか?
ロロとレオの会話になっています。これは担当編集さんのアイデアなのですね〜。
何か短い会話をと言われて、何個かアイデアを出したのですが、採用されたのは担当さんの考えたセリフです。^^;
担当さん、絶対に小説書けるだろう!?と、思いませんか?^^;
書籍をお持ちの方は見てみて下さい。
いつも感想を有難うございます!
応援して下さる方、続けて読んで下さる方は是非とも下部↓の☆マークで評価をして頂けると嬉しいです!
宜しくお願いします。




