348ー二人が帰る

「シゲ爺は、代々この領地の果樹園を管理している一族のお爺さんですよ。ドルフ爺もその一族なのです。でも何故か果樹園を管理する長となるお爺さんは、みんな通称シゲ爺でっす」

「え、みんな？」

「そうなのですよ。本名は違うのですが、呼び名が一緒なのでっす。確か初代はシゲルーチェさんでしたか」

「ひょぉー！」

「ふふふ、凄いでしょう？」

「しゅごいのら」

　またまた大きな声の人が増えて、その日の夕食はとっても賑やかになった。

「ドルフ、まだこっちにいるのだろう？」

「ワシはこれを食べたら帰るんだ。ディさんと一緒にな」

「もう帰るのか。ちびっ子達はいるのか？」

「はい、まだ数日はいます」

　レオ兄が代表して相手をしてくれている。俺は食べるよ。夕食はハンバーグだった。

　前にマリーが、俺が教えたと言っていたけどあるじゃないか。

　きっとこの世界でもあって、マリーが知らなかっただけじゃないかな？　マリーは大雑把だから。

「ロロ、違いますよ。これは例の令嬢が考案された料理でっす」

「え、しょう？　けろ、ボクしってるのら」

「そうですね、ロロはね。ふふふ」

　あ、含みのある笑いだ。クリスティー先生も精霊眼を持っている。なら何か気付いているのかも知れない。クリスティー先生が気付いているなら、当然ディさんだって気付いているという事になる。

　そのディさんを見ると、相変わらず大きなお皿に特盛のサラダをシャクシャクと食べていた。幸せそうだ。

「ふふふ、ディは昔からああなのでっす」

「しぇんしぇいは、いっぱいたべないのら？」

「私ですか？　私はバランスよくでっす」

　なるほどね。クリスティー先生はディさんみたいに特盛サラダではない。それでもクリスティー先生のサラダは大きいぞ。

　まあいいや。俺はハンバーグを頬張る。ナイフを入れると中から透明な肉汁が出てきた。中にとろけるチーズが入っていて、デミグラスソースがたっぷりと掛かっている。王道のハンバーグだ。

「うまうま」

「な、うまいな」

「うん、にこにい」

「ロロ、口の周りがテカテカだぞ」

「うん、あとれふくのら」

「いや、今拭こうぜ。ほら、こっち見な」

「うん」

　ニコ兄が拭いてくれる。いつも有難う。

「明日はぶどう畑に来ると良いぞ！」

　ん？　とってもワクワクするワードが聞こえてきた。

「ぶ、ぶろう！」

「ワッハッハッハ！　ちびっ子、ぶどうは好きか？」

「ろろなのら」

「あん！？」

「兄貴、ロロっていうんだ。その隣がニコ、レオ、リアだ。うちのお隣さんだ」

「ぶろうじゅーしゅは、うまうまらったのら」

「あんだって？」

　どうやらシゲ爺は、まだ俺の言葉が理解できないらしい。もう少し慣れないと駄目かな？

「ぶどうジュースは美味かったぞ」

「おう、ワシが作ったんだ！　ワッハッハッハ！」

　ずっとワインのグラスを持っている。もう酔ってしまったか？　いや、あれはきっと通常運転なのだろう。辺境伯家の人達も動じないで、ニコニコしている。

「そうね、良い考えだわ。シゲ爺、じゃあ明日朝から行くからお願いね」

「おう！　奥様、任せとけ！」

　明日はぶどう畑に行く事になった。ぶどうかぁ。確かにあのジュースは凄く美味しかった。

　その日とっても賑やかな夕食を食べて、ディさんとドルフ爺がルルンデに戻る事になった。もちろん、ディさんの転移でだ。

「元気でやるんだぞ」

「ああ、兄貴もな」

　ドルフ爺とシゲ爺が、まるでこれからアームレスリングでもするかの様に、ガシッと手を組んでいる。ここからルルンデまで遠い。なかなか会う事もできないだろう。

「でぃしゃん、どるふじい」

　トコトコと二人の側へ行く。帰っちゃうなんて寂しいのだ。

「ロロ、帰りにまた迎えにくるからね」

「でぃしゃん」

「ロロ、楽しんでくるんだぞ。ニコもだ」

「おう。ドルフ爺、コッコちゃん達とクーちゃんと、薬草畑の水やりも頼むな」

「心配すんな。ちゃんと見ておいてやるよ」

　俺は二人の足元にしがみ付いて、なかなか離れられなかった。

　二人が帰るのは最初から分かっていた事だけど、俺達兄弟だけになっちゃうと思ったらとっても寂しかったのだ。

「ロロ、みんなロロ達の事が大好きだよ。優しい人達だから大丈夫だ」

「うん、でぃしゃん」

「ほら、クリスティー先生もいるから」

「うん」

　そう返事をしながらも離れられない。俺ってこんなに寂しがり屋だったのか。しかも甘えん坊だ。

「ロロ、おいで。ディさんとドルフ爺が帰れないだろう？」

「らって、れおにい」

「僕達が一緒だ」

「うん」

　渋々俺はディさんから離れた。そしてレオ兄に抱っこしてもらう。ギュッとレオ兄の首に抱きつく。いかん、また泣いてしまいそうだ。

　レオ兄にしがみ付いている俺に、ディさんが耳打ちしてきた。

「ロロ、覚えているかな？　僕を呼ぶ方法」

「えっちょ、あみゅれっとをにぎって、でぃしゃんたしゅけてって」

「そうそう、もしもの時は僕を呼ぶんだよ。今度は忘れないようにね」

「わかったのら」

　ずっと前にディさんに貰ったアミュレット。いつも首から下げて服の下に入れている。

　それは俺の居場所が分かる様になっている事と、それを握ってディさん助けてって思いを込めれば、ディさんを呼べるという代物だ。ディさんに言われるまで、コロッと忘れていた。