343ークリスティー先生もご注文
「ロロは上手だね」
「えへへ~」
「クリスティー先生……」
「なんですか? ディ」
「いや、それ何なの?」
「ピカちゃんでっす」
「わふん」
俺の側で黙って寝そべって見ていたピカが、お顔を上げて異議を唱えた。
どこをどう見ても、僕じゃない。と、文句を言っている。
「ぴか、しょう?」
「わふわふ」
「ええー」
「おや、ピカは何と言っているのですか?」
「ピカはもっとかっちょいいって」
「アハハハ! 確かに! クリスティー先生、それは下手だよー!」
ああ、ディさんがハッキリと言っちゃった。
確かにクリスティー先生が作ったのは、どこをどうみてもワンちゃんには見えなかった。どっちがお顔なのかも定かじゃない。
それを横目に、俺はそこら辺に落ちていた小さな木の枝でピカさんの尻尾の毛並みを描く。
ふさふさに見えるように、ちょっぴり拘っているのだ。
「れきた。ぴか、みて」
「わふ」
ロロは上手と言ってくれた。でもピカがジト目で、クリスティー先生の手元を見ている。
「わふぅ」
とっても残念だね。なんて失礼な事を言っている。
それにしても、動くのかな? どう見てもワンちゃんには見えないのだけど。
「アハハハ、これが動いたらホラーだよ!」
ディさんまで酷い事を言っている。
「そんなに酷いですか?」
「だって、ロロが作ったのと比べてみてよ」
「ふむ」
俺が作った土人形の隣に、クリスティー先生作が作った何かを並べた。うん、全然違うのだ。
「これって、動くのかな?」
「さあ、どうでしょうね。ふふふ」
「ええー」
まあ、いいや。次を作ろう。またコネコネ、コネコネ。
「ロロは上手でっす」
「ロロは絵も上手なんだ」
「絵ですか?」
ああ、そう言えばディさんのスカーフに刺繍する図面を見せた事があった。その事を言っているのだろう。
そのスカーフをどこからか取り出したディさん。きっとマジックバッグか……もう一つは何だっけ?
「でぃしゃん、なんらっけ?」
「ん? 何かな?」
「まじっくばっぐと、あ、あ、あく?」
「亜空間収納の事かな?」
「しょう、しょれら」
そうそう、亜空間収納なのだ。そこからとっても自然に取り出す。何もない空間から一瞬でだ。それってきっと、とっても魔法が上手という事なのだろう。
「ちょっと、ディ……」
「ね、綺麗でしょう? ロロが刺繍したんだ」
「ロロ!」
俺はコネコネしていて手が土まみれなのだけど、クリスティー先生に捕まれちゃったのだ。両腕をガシィッとだ。綺麗なエルフさんのドアップは、ちょっと迫力があるぞ。
「私も欲しいでっす!」
「ええー」
そんな事を言っても、ここには少しの間しか滞在しない。お祖父様やお祖母様が、迎えに来てくれるまでの間だけだ。そんな時間では無理なのだ。
「しゅぐには、れきないのら」
「戻ってからゆっくりで良いでっす。私もスカーフを預けておきまっす!」
あらら、そうなの? どうしよう? と、ディさんを見る。
「ロロ、ごめんね。僕が見せちゃったから」
「しょれはいいのら。けろ、ほんとうにしゅぐには、れきないのら」
「かまいませんよ! 何年でも待ちまっす」
いやいや、そんな何年も掛からないのだけど。
「でぃしゃんと、おなじのれいいのら?」
「葉っぱ以外にも刺繍できるのですか?」
「えっちょぉ、おはなとぉ、ちょうちょ」
「まあ! それは素敵でっす!」
「ちょっと、クリスティー先生!」
「だってロロが良いと言っているのでっす」
「そうだけど」
ふふふ、良いのだよ。待ってくれるのなら良いよ。
ゆっくりしかできないから、時間が掛かってしまうからね。俺はまだ手が小さいから、少しずつしかできないのだ。
「葉っぱに、少しお花と蝶々も刺繍してくれると嬉しいでっす」
「わかったのら~」
と、返事しながらまだ俺はコネコネしている。
だって、一頭だけって可哀そうだろう? あと2頭は作りたい。だから手は止めないのだ。
「これにも付与がしてありますね」
「ね、良いだろう?」
クリスティー先生はいつの間にかコネコネするのを止めて、ディさんのスカーフに釘付けなのだ。
お手々に土がついてない? クリーンしたのかな?
「ロロ、大丈夫ですよ。クリーンしました」
「ならいいのら」
「本当にロロは聡い子でっす」
そんな事はない。普通の3歳児だ。ふぅ、2頭目ができた。あと1頭作っておきたい。
「ロロ、乾かす?」
「でぃしゃん、まらなのら。もういっこちゅくってから、しゃらしゃらのしゅなをかけるのら」
「へえー、そうなの?」
そうなのだよ。サラサラとした砂を掛けて磨いておく。そしたら少し艶が出るからね、その方がかっちょいいでしょう?
ディさんとクリスティー先生が見ている中、俺はもう1頭作った。ちゃんと尻尾に小枝で筋を入れて、ふさふさ感を出している。
そして、陽が当たっている場所にトコトコと歩いて行く。
「ロロ、何?」
「しゅななのら」
「ああ、かけるって言ってたね」
「しょうしょう」
ここら辺なら良いかな? 触ってみると、さっきの場所より乾いていてサラサラしている。よし、良い感じなのだ。
ここの砂をピカさんの土人形に掛けて、手でナデナデすると少し艶が出てきた。




