336ーラン爺と
「おしゃとうが、しゅこしはいってるの?」
「入ってないんですよ。でもほんのり甘く感じますでしょう?」
「うん、じぇんじぇんしゅっぱくないのら」
「はい、お水にレモーネを絞っただけなのに、とっても美味しいですね」
「うん。しゅっごくふるーてぃーなのら」
マリーとピカと一緒に下りて行く。庭に出るとまだお日様が高い位置にあって、とっても良いお天気だ。屋内からお外に出ると、少し眩しいくらいだ。
ルルンデのお家の庭とは違った匂いがする。緑の匂いが強いのかな? 風の中に緑の匂いがするのは、広い森があるからかな? それとほんの少しだけ、海の匂いも混じっている。
「ロロ、起きたか」
「らんじい」
外に出ると、どこかからラン爺が歩いて来た。お邸の裏側に行っていたのかな? 手に丸太を持っている。
「らんじい、なにしゅるのら?」
「ニコの木剣を作るんだ」
「えー! ボクもほしいのら!」
いやいや、欲しいと言ったけど木剣ってそんなに簡単に作れるのか? ラン爺はきっと作れるのだろうな。
「そうか? ロロは何も持っていないのか?」
「もってるのら、けろちいさいの。おもちゃなのら」
「ほう、ニコもそう言ってたな」
そうそう、俺とニコ兄は短剣の大きさの木剣しか持っていない。しかも、おもちゃなのだ。それとピコピコハンマーだ。
ラン爺が、俺の歩く速さに合わせてくれて一緒に歩く。とっても大きい。そうだなぁ、ギルマスよりまだ少し大きいかな? ちびっ子の俺が見上げると、お顔の上の方が見えないのだ。
庭を歩いて四阿のある方へ行くと、みんながいた。
リア姉とレオ兄が訓練していて、それをフリード爺が見ている。その脇に、ニコ兄とユーリさんがいた。
ディさんとドルフ爺は何をしているのかな? リーダー達とプチゴーレムもいない。あれ? それと……。
「まりー、ておしゃんとじるしゃんは?」
「中で辺境伯様とお話しなさっていますよ」
そうなのか。ずっと話しているけど、何かな? お祖父様とお祖母様が来る事なのかな?
「じゃあ、でぃしゃんとどるふじいは?」
「はいはい、裏の畑にいますよ」
「りーだーたちもいっしょ?」
「はい、そうですよ」
また何をしているのか。ドルフ爺は畑の専門家だから、きっと畑を色々見ているのだろう。
「クリスティー先生も一緒ですよ。リカバマッシュを育てるとかなんとか」
「あー、れもなぁ」
なるほどね。早速リカバマッシュなのだ。ドルフ爺はあのリカバマッシュを育てている木も、持ってきたのかな? 木が変わると駄目かも知れないぞ。
それもドルフ爺は分かっていると思うのだけど。
「何やら同じ種類の木にどうとか言ってましたよ。それにこちらにしかないお野菜があるそうで、ドルフ爺が貰って帰るらしいです」
「へえ〜」
それはまたニコ兄の出番だ。ドルフ爺とニコ兄にかかったら、育てられない物なんてないのではないか? と思うくらいに二人は凄い。
そのニコ兄が俺に気付いて手を振ってくれている。
「ロロ! もう起きたのか!?」
「うん! にこにい!」
テケテケテーとニコ兄の側へと走って行く。
ちゃんとピカも付いてくる。広いお庭だ。ルルンデのお家の周りは畑だから、こんなに何もない広いお庭はとっても解放感がある。
「ロロ、ピカに木の短剣を出してもらってくれよ」
「うん。ぴか」
「わふ」
コロンコロンと木の短剣を二本出した。
「これはまた……ピカは収納のスキルを持っているのか?」
「あ、しょうらった。らんじい、ひみちゅなのら」
短いプクプクとした人差し指をプニッと唇に当てる。あれれ? そういえばフリード爺は、ピカが目の前で出しても気付かなかったぞ。
「アハハハ。ロロ、大丈夫だ。私達は誰にも言わないさ」
「うん、わかってるのら」
「なら、秘密じゃなくても大丈夫だよ」
「しょう?」
「ああ、そうだ」
ラン爺は身体は大きいけど、とっても優しい。俺の頭を撫でる手もとっても大きい。でも優しく撫でてくれる。
「ピコピコハンマーもあるのら」
「あ、そうだ。ピカ、それも出してくれよ」
「わふん」
またピカさんが、コロンコロンとピコピコハンマーを二つ出す。
「アハハハ、これがピコピコハンマーなのか? 兄上がウケていたよ」
「しょうなのら」
「ロロが作ったんだぜ」
ニコ兄と二人で、ピコピコハンマーを持って掲げる。足を肩幅に開き、もう片方の手はもちろん腰なのだ。
ふふふん、とってもかっちょいいポーズなのだよ。
「アハハハ、かっこいいぞ」
「しょうなのら。ちゅよいのら」
「おう、ブラックウルフもやっつけたしな!」
「ニコ、ブラックウルフをか!?」
「そうなんだ! 凄いだろう?」
「ああ、それは凄い。でもニコは怖くなかったのか?」
「怖かったけど、守らなきゃと思ったんだ」
「ニコ、偉いぞ」
ふふふ、もうニコ兄がラン爺と仲良しになっている。
そして俺はしゃがんでピコピコハンマーで地面を叩く。音を聞かせてあげよう。
――キュポン! キュポポン! キュポポンポン!
「アハハハ! 兄上が話していたのはその音か!?」
「えへへ~」
「俺も、俺もー」
ニコ兄もその場でピコピコハンマーで叩いた。
――ボボーン! ボボボーン! ボボボンボーン!
「ニコもなのか!?」
「スゲーだろ?」
「ああ、凄いな! 音が違うじゃないか!」
ふふふ、つかみはオッケーなのだ。




