331ー1巻発売記念SS プチゴーレム
ロロが作ったプチゴーレムが目覚めた時のお話です。
パチッと眼を開けた。え、開けた? なんで眼が開くの? ここはどこなんだろう?
僕はロロが作った土人形。眼が開くはずがない。なのに、眼が開いた。試しに手を動かしてみよう。あれれ? 動くぞ。尻尾も勝手に揺れている。
周りを見ると、並んでいる土人形が同じように眼を開けていた。
「ねえねえ、動けるよ」
「な、どうしてだろう?」
「俺達って土人形だよな?」
「でも動けちゃったよ」
「ロロが作ったからかな?」
自分でもよく分からないのだけど、とにかく僕達は動けるらしい。
ゆっくりと前足を一歩前に出す。土の感触が伝わってくる。これは……
「よしッ! 動けるぞ!」
「キャンキャン!」
「え? 鳴いた?」
「鳴けたね」
「僕も動けるよ!」
5人……いや、5体なのか? みんなでゆっくりと手足を動かして、その場で跳ねてみる。
動く……自由に動ける!
「やったーッ!」
「凄いぞ!」
「信じられないんだけどぉ!」
「こんな事ってあるんだな!」
「行こう! 走ろう!」
みんなテンションマックスだ。動ける事が嬉しくて、それでもまだ信じられなくて、確かめるように僕達が置かれていた周辺を走ってみる。
小さな体だけど、尻尾を振りながら地面を力強く蹴って勢いよく走る。
「キャンキャン!」
「アンアン!」
僕達が嬉しがって外を走っていると、お隣の家からお爺さんが出て来た。
「なんだ、騒がしいなぁ……なんだとォッ!? ふがッ!」
動いている僕達を見て、眼をまん丸にして驚いていた。最後の『ふがッ!』ていうのは、お爺さんの入れ歯が出そうになっちゃった声だ。
アハハハ、面白い。このお爺さんは確か、みんなドルフ爺と呼んでいた。この辺りの畑のドンだ。
「お前達動けるのかッ!?」
「キャンキャン!」
「アンアン!」
そうなんだよ! 動けたんだ!
ねえねえ、ドルフ爺。僕達にも仕事を頂戴!
5体みんなドルフ爺の前に整列だ。短い尻尾をフリフリしながら命令を待っている。
「スゲーな! アハハハ!」
ふふふ、凄いでしょう? 笑っちゃうよね。僕達だってまだ信じられないもん。
「ロロが作ったんだよな?」
「アン!」
そうだよ、僕達を作ったのはロロだ。
「ロロはとんでもねーな」
「キャン!」
「おう? なんだ?」
「アンアン!」
ドルフ爺は僕達の言っている事が分からないんだ。そうか、それは仕方がない。
「ピカの子分って言ってたか。なら畑をパトロールするか?」
「キャンキャン!」
「アンアン!」
よし、お仕事をもらったぞ! みんなー! 畑をパトロールだ!
僕達はピューッと、畑の中を転がるように駆けて行く。なんて気持ち良いんだ。風がほっぺを撫でていく。もちろんほっぺも土なんだけど。
僕達は小さい。ちびっ子のロロが作った土人形だから、とっても小さいんだ。それでも、風を切って速く走る事ができる。僕達のモデルが、あの神獣のピカだからだ。
身体能力だって、普通のワンちゃんには負けないぞ。
「ピヨヨ!」
「ピヨピヨ!」
あれれ? この子達は僕達が眠っている間に孵ったコッコちゃんの雛達だ。何かを訴えている。どうしたのかな?
「まずいアルね!」
「やばいヤツアルね!」
「大変アルね!」
この子達が喋っている事は分かるぞ。なら僕達の事も分かるかな?
「どうしたの?」
「やばいヤツがきたアルね!」
大丈夫だ、喋れるぞ。やばいヤツ? どうしたのだろう?
「守るアルね!」
「出動アルね!」
「行くアルね!」
口々に言って走って行く。速いなぁ~。あれで本当に雛なのか?
いや、そんな場合じゃない。やばいヤツが来ていると言っていた。僕達も行こう!
だってドルフ爺にパトロールを任されたばかりだ。僕達だって守るんだ。
雛達についていくと、畑に大きな魔獣が入ろうとしていた。畑のお野菜を狙ってやって来たのだろう。
これは放っておけないぞ。やっつけるんだ!
と、思ったらもう雛達が魔獣の背中に乗って、キックをしている。えぇ!? だって雛だろう? 何をしているんだよ。
僕達は小さいからそんな事はできない。なら下からだ。
「いくぞー!」
「おおー!」
みんなで走って行く。そして魔獣の下に入り込み、お腹を目掛けてジャンプしてキックだ。
小さな足で、バシコーンと魔獣のお腹に蹴りを入れる。いけー! みんなでガンガン蹴るんだ!
「ええー! なんれうごいてんのー!」
ロロがやってきて、僕達を見て驚いていた。ふふふ、だってロロが魔力をくれたじゃない。
それから僕達と雛達は魔獣を倒した。と、いってもとどめはピカが魔法でやっつけたんだけど。
僕達は嬉しくて、ロロの周りに整列だ。
「ちゅよかったねー」
ロロに褒めてもらえた。僕達はロロが作った土人形だ。ロロの魔力を貰って動いている。
だからもう少し馴染むまで毎日ロロの魔力をちょうだいね。
僕達が畑を守るよ。任せてよ。
そんな事を伝えたくて、尻尾を振る。後からエルフがやって来た。
エルフなら僕達の事も分かるだろう。
僕達はピカの子分だ。この畑を守る。
嬉しいよ。ロロと会えて、とってもとっても嬉しいんだ。
動けるようになって嬉しい。
ロロ、これからもよろしくね。




