330ー1巻発売記念SS リーダー誕生
長く眠っていたようで、ほんの少ししか眠っていないような……頭がボーッとしていた。
ぼくは……何をしていたっけ? ここはどこなのだろう? しばらくすると、少しずつ意識がはっきりとしてきた。
ぼくの身体を薄い膜が覆っていて、その向こうには硬い殻があった。それを嘴で突く。
もう窮屈で狭いんだ。ぼくは広い世界を見てみたい。その好奇心に突き動かされて、一心不乱に殻を突く。
――コツコツコツコツコツコツコツコツ
――ピシッ……
あ、ヒビが入った。いいぞ、あと少しだ。突き続けていると、小さな穴が開いた。そこから一筋眩しい光が入ってくる。殻の外から声も聞こえてきた。
「もう孵りそうアルね」
「がんばるアルね」
「まってるアルね」
何だ? 誰の声なんだろう?
――コツコツ
外から殻を突く音がした。
「コレ、駄目よ。自分で中から割って出てくるのをまちなさい」
「手を出したらだめだ」
「待ちきれないアルね」
「駄目アルか?」
「足で割るアルね」
「コラッ! お前達はやんちゃなんだから!」
――バシコーン!
なんだか外が騒がしい。えっと、ぼくは出ても良いのかな? 良いんだよね?
「大丈夫だから、安心して出てきなさい」
「みんな待っているんだ」
優しい声がそう言っていた。そっか、なら頑張ってこの殻を破って……。
――コツコツコツ
――ピキピキ
あ、もう少しで割れそうだ。よし、頑張ろう。僕は外へ出ようと殻を突いた。
――コツコツコツ
――ピシピシッ
ヒビが入ったところから、殻が割れた。そこに嘴を差し込み、無理矢理ぼくは顔を出す。
「ピヨ」
「あ、孵ったアルね」
「小さいアルね」
「え、この色アルか!?」
外はとっても騒がしかった。大きな白い鳥さん達……どの鳥さんがぼくの親なのかな? 取り囲んで僕を見ている。
「よく頑張った」
「はじめましてね~」
「生みの親より育ての親という」
よく分からないけど、みんな親だと思っていいのかな?
色の違う鳥さんがいる。白い親鳥より小さいから雛だろう。ぼくの兄弟なのかな?
「ロロにしらせなきゃ」
「レオにもだよ」
「みんなで呼びましょう~」
それから大騒ぎだった。大きな声で、コケッコー! と鳴いている。
大丈夫かなぁ。ぼく、この中で生きていけるのかな? これはなんとかしないといけないな。
特にあの雛達だ。見ていると、とっても自由だ。
親鳥達はみんな同じ様に寄り添っている。今は何故か、誰かを呼ぶと言って大きな声で鳴いているけど。
オレンジ色した少し小さな雛が3羽。いや、もう雛って大きさじゃないよね。
その子達が思い思いに辺りを走り回っている。これは収拾がつかないぞ。
親鳥達が大きな声で鳴くから、家の中から人が出て来た。抱っこされているちびっ子はまだ眠そうな眼をしている。
大きい人と少し小さい人。でもこの眠そうなちびっ子と、抱っこしている人はきっとぼくが入っていた卵を温めてくれた人だ。二人から感じる魔力に覚えがある。
その人達の側へ、トコトコと近寄って行った。
「なんれら?」
「この色なのか?」
「これって、どうなんだろうね?」
ぼくをジッと見る。あれ? ぼくって何かおかしいのかな?
「まっくろくろなのら」
「予想外だね」
「びっくりだ」
口々に言っている。ぼくは自分の体を改めて見てみた。羽は真っ黒だ。周りを見ると親鳥は真っ白で、煩い雛達は淡いオレンジ色をしていた。
うん、確かにぼくだけちょっと変わっている。
ぼくをジッと見ていたかと思ったら、ちびっ子が親鳥に話しかけた。
「こっこちゃん、このこ、はいぱーらって」
はいぱー? はいぱーってなんだろう?
でも親鳥がみんな得意気にしている。大成功だと喜んでくれている。
ぼくがあのオレンジ色した雛達を統率するんだって。ええー、ぼくがするの? だって、ぼくはまだ孵ったばかりなんだよ。
「しゅごいのら。おりこうなんらね」
「ぴよ」
小さな手で、そっとぼくを撫でてくれた。優しい手だった。
それだけでぼくは、このちびっ子の事が好きになったんだ。
「ロロ、大成功なの?」
「うん、れおにい」
「かっちょいいな! よろしくな、俺はニコだ」
一番大きな人がレオ、次がニコ、ちびっ子がロロ。よろしくね、と言ってくれた。
ちびっ子のロロがお名前をつけてくれた。
「りーだー」
え、それってお名前なの? そんなのでいいの?
「らって、おもいちゅかないのら」
まあいいや。ぼくはあのオレンジ色の子達をなんとかしよう。親鳥がもう諦めて放置している。それは、いけない。
親鳥よりも身体能力が高いんだ。だから親鳥は手に負えないと、諦めてしまっている。よし、ぼくがなんとかするよ。
それからぼくは雛達の後を付いて行った。お名前が、フォーちゃん、リーちゃん、コーちゃんなんだって。これもロロが名付けたらしい。
まんまだねと言いたくなるネーミングだ。
ぼくは冷静沈着で頭脳明晰なレオの魔力と、ロロの魔力の両方で温めてもらったそうだ。だから、ぼくはハイパーなんだって。
確かに、卵から孵ってまだ数日なのにフォーちゃんに追いつき、リーちゃんを窘め、コーちゃんを追い越して先頭を走る。
勝手に走って行ったら駄目だぞ。ちゃんと付いてくるんだよ。
うしろのフォーちゃん達を気にしながら走る。畑は、ドルフ爺と呼ばれている人が仕切っている。このお爺さんは強そうだ。
「ワッハッハッハ! 一番小さいのにお利口じゃないか!」
と、ぼくを褒めてくれる。当然なんだ。だってぼくはレオとロロ、二人の魔力をもらったのだから。
畑の中をみんなで走って行く。卵の外はとっても広い世界だった。
何処までも続く青い空と、キラキラしている緑の畑。その中を風を切って走るんだ。
「リーダー! 今日はなにするアルか!?」
「あっちに行きたいアルね」
「畑の野菜が美味しそうアルね」
みんな勝手な事を言っている。今日も畑をパトロールだ。プチゴーレムとも仲良くなった。
「無事に孵ってくれてよかった」
なんて親鳥に言われてしまった。みんなあの3羽には手を焼いていたのかな?
これからはぼくが目を光らせるから大丈夫だよ。
「訓練するアルね!」
「ぼくはキックするアルね!」
「ダッシュの練習もするアルね!」
はいはい、分かったよ。とにかくみんな整列しよう。もうすぐロロがピカに乗ってやってくるはずだから。
「ロロがくるアルか!?」
「ピカにのってくるアルね」
「ロロー!」
フォーちゃん達はロロに魔力を貰ったから、ロロの事が大好きなんだ。ぼくだって大好きだよ。
生まれて直ぐの頃に、ロロがぼくに言ったんだ。
「りーだー、たいへんらろうけろ、おねがいね」
「ぴよ」
任せてよ。ぼくがちゃんと見ているからね。
そんなぼくの一日が今日も始まるのだ。




