326ーなんとなく!?
それから何故かユーリさんとリア姉は、木の剣を持ち出して手合わせをし出した。本当に二人は体育会系なのだ。
「ふゅ~」
「ロロ、疲れたかな?」
「ううん、しょうじゃないのら。なんらか、どきどきしゅるのら。うれしいのら」
「ふふふ、本当だね」
「おう、心配してくれてたんだなって分かるしな」
そうなのだ。ニコ兄の言う通りだ。これは父様と母様が繋いでくれた縁なのだと思う。
「まだまだ腰が入ってないぞーッ!」
大きな声でそう言いながら、やって来たのはフリード爺だ。もうお話は終わったのかな? でも、フリード爺一人なのだ。ラン爺はどうしたのかな?
「私は堅苦しい話は合わん」
あらら、一人抜け出してきたという事だね。フリード爺も体育会系なのだ。
俺を太い腕でヒョイと抱き上げて、ユーリさんとリア姉を見ている。
「あの剣はフリード様が譲られたのですか?」
「おう、レオもフリード爺と呼んでくれ! フリード爺だ!」
「は、はい。えっと、フリード爺……様」
「ワッハッハ! まあそれでもよい。そうだな、あの剣は私が息子とアルに譲ったんだ。ちょうど良いかと思ってな」
レオ兄がフリード爺に聞いたのだ。あの剣に付いている魔石の事だ。魔法攻撃の威力を高めると。
「ん? そうなのか? 知らんぞ?」
ええ!? 知らないって!
キョトンとして、それがどうした? と、いった表情をしているフリード爺。
「ワッハッハ! 剣に関しては何も残っていないのだ。だがな、緑は息子、赤はアルと思ったんだ。なんとなくだ!」
なんとなくだって。いやもう、本当に俺は言葉が出ない。
こういう人、時々いるのだ。何の根拠もないのに、正解を選ぶ人だ。
ハンカチに刺繍し出した最初の頃、俺はそれを狙ったんだ。なんとなく駄目だと分かる。そうして危険を避けて欲しかった。
それを地で行く人なんだ。フリード爺には俺のハンカチなんて必要ない。
「ロロはまだ剣を使わないのか?」
「ボクは、ぴこぴこはんまーなのら」
「んん? ぴこ?」
「ぴこぴこはんまー。ばしこーんしゅるのら」
「アハハハ!」
あれ、レオ兄が爆笑しているぞ。だって、剣と言っても俺はおもちゃの木の短剣だし。ピコピコハンマーの方が毎日使っているのだ。
「ロロが作ったんですよ」
「なにぃッ!? 作っただとぉッ!?」
声が大きい。抱っこされて耳元で喋るから耳がキーンとなるのだ。
これって、ギルマスみたいだ。ギルマスの方がまだマシかも知れない位に大きな声だ。でも、楽しい。ふふふ。
「ぴか、ぴこぴこはんまーらして」
側でお座りしていたピカさんにそう言った。
「わふん」
コロンとピカが出したピコピコハンマー。俺のとニコ兄のと二つだ。
下ろしてもらおうと、フリード爺の腕をポンポンと叩く。
「おりるのら」
「おう」
ニコ兄と一緒に、ピコピコハンマーを持って地面を叩いてみる。
――キュポン!
「おおッ!?」
もう一度なのだ。
――キュポポン!
ニコ兄も隣で叩いている。
――ボボーン!
「ふふふ、あれで二人はマンドラゴラを叩いて気絶させるのです」
「な、なんとぉッ! ワッハッハッハ! これは凄いぞぉッ! ロロが作ったのか!?」
「しょうなのら。こねこねして」
「んん?」
コネコネだよ、コネコネ。土をね、コネコネ。
「ワッハッハッハ! それはディさんが可愛がるはずだなッ!」
なんて大らかなお爺さんなのだ。細かい事は気にしない。でも、受け入れてくれる。だってピコピコハンマーだぞ。あの音だぞ。どうみてもおかしいじゃないか。
3歳の俺が作ったのだ。なのに、そんな事疑いもしない。
大きくてかっちょいい。この人が父様に剣を教えていたのだな。
きっと父様も、この人柄が好きだったのじゃないかな?
「リアはアルによく似ている」
懐かしそうな眼をして、フリード爺が言った。リア姉の動きを眼で追っている。
アルとは、俺達の父様アルフォンスの呼び名だ。
父様がアルフォンス・レーヴェント、母様がクロエリア・レーヴェント。仲の良い夫婦だったそうだ。
リア姉は見た目も父様似らしくて、レオ兄の方が母様に似ていると聞いた。ニコ兄はリア姉程じゃないけど、どちらかというと父様似。
「ロロは両親どちらの色も貰っていて、どちらにも似ているんだ。でも性格は母上似かな?」
と、レオ兄が言っていた。
フリード爺は父様を可愛がっていたのだろう。俺達四人を順に懐かしそうな眼で見る。
「アルとクロエの事は残念だった。だが、四人が無事でいてくれて本当に良かった。事故の事を聞いた時は冷や汗が出たぞ」
そんな話をしていたのに、フリード爺はウズウズしている。ユーリさんとリア姉の中に自分も入りたいのだ。
「ユーリ! 小手先だけで斬り込もうとするんじゃない!」
「はい!」
「リアは突っ込みすぎだ! もっと相手をよく見るんだ!」
「はい!」
とうとう口出ししだした。まるで先生だ。いや、師匠だ。父様の師匠だった人なのだ。
少し父様に触れたような気がした。
こっちに来てまだ数時間なのに、心が満たされていく。どんどんポカポカして、溢れていく。こんなに温かくなった事がない位なのだ。
それをどうすれば良いのか分からなくて……どうしよう……俺ってちょっと泣きそうなのだ。




