324ー父様の言葉
リア姉の持っている剣と、ユーリさんが持っている剣の意匠が左右対称になっていた。
対になっていると、俺でも見れば分かる。同じ模様が彫ってあり、同じ場所に魔石が付いている。剣を収める鞘も全く同じ意匠だった。
「僕も父上から譲り受けたんだ。学園に入学する時にね」
「私もです。お祝いだと言って」
『自分の剣を持つという事は、それだけの責任を負うということだよ。学園に通うようになったら、リア一人で考えて行動しないといけない。リア、今までみたいに、思いのままに動けば良いというものではないよ。よく考えて行動するんだ。この剣を、その戒めだと思って持っていて欲しい』
と、リア姉は言われたんだって。そんな事初めて聞いた。
父様はそんな事を言う人だったのか。とても責任感のある人だったのだな。それにリア姉の性格を、ちゃんと把握していて心配しているんだ。だからこその言葉だったのだろう。
「ロロ、どうした?」
「にこにいは、しってたの?」
「父上の言った事か? 俺も知らなかったぞ」
「しょっか」
「ニコやロロはまだ小さかったからね」
「れおにい、しょう?」
「うん、そうだよ。ロロなんて生まれたばかりの赤ちゃんだったよ」
そうなのか。それなら覚えている訳ない。
「僕は今年学園を卒業したばかりなんだ」
「じゃあ私より2歳上ですね」
「そうなるかな。リアとレオは学園を退学したって聞いたけど」
「はい、僕達はもう貴族じゃなくなったと思っていましたから。それに生活していかなきゃならなかったので、高額な学費を払い続ける事はできませんでした」
「大変だったんだな。それで冒険者ギルドに登録したのか?」
「はい。姉上がそうしようって言うので」
でもリア姉とレオ兄はCランクなのだ。ふふふん。
でもユーリさんはもっと強かったのだ。なんとBランクだという。リア姉より2歳上という事は、テオさんと同じなのだ。
なのにもうBランク。それは凄いのだ。
「ひょぉーッ!」
「アハハハ、ロロったら」
「らってれおにい、ておしゃんはまらCらんくなのら」
「ロロ、それをいったら駄目だぞ」
「にこにい、しょう?」
「そうだぞ。誰だって向き不向きがあるんだ」
「アハハハ! ニコ、それは余計に酷いな」
「え? レオ兄、そうか?」
「そうだぞ! ニコ、ロロ」
噂のテオさんがやって来たのだ。
「らって、ておしゃんはCらんく」
「おい、ロロ」
「じるしゃんはBらんく」
「ロロー!」
テオさんに、ギューッてされたのだ。アハハハ、面白い。
でも、テオさんとユーリさんの話を聞いていると凄いと思ったのだ。
テオさんの家だって辺境の地を治めている侯爵家だ。国境があり森もある。だけどダンジョンがないのだそうだ。だからユーリさんの家ほど大変ではないらしい。
魔物がいるのとそうでないのとでは、全く違ってくるのだって。俺は知らなかったのだけど。
だって、ルルンデだってダンジョンがあるから。それが普通だと思っていたのだ。
それでも冒険者の多い地域なのだそうだ。だからテオさんの家でも、冒険者ギルドに登録する事は当然の様になっていると言っていた。
前にテオさんが話していた様に、お祖父様の方が強いくらいなのだから。
ユーリさんの家、辺境伯家はこの辺境の地を代々守っている家だ。隣国にも一番近い。国境があるからその警備もしなければならない。フォーゲル領より大きな森があり領地も広大だ。
その上領地の南端には海があるのだそうだ。この国で唯一の港だ。他は断崖になっていて、とても商船が停泊できる地形ではないらしい。俺はそんな事も知らなかった。
海にも魔物が生息している。それに商船が入ってくるなら、それなりにトラブルだってあるだろう。
だから武力は必須だと、幼い頃からラン爺に教わっていたそうだ。
「僕はこの家で弱い方だよ。父上やお祖父様なんて強さが違うから」
いやいや、Bランクでもとっても強い。俺の基準はレオ兄だ。そのレオ兄だってCランクだ。だからとっても強いと思うのだ。
でも、森があるという事は魔獣が生息している。そのうえルルンデの森にあるのより、大きなダンジョンがあるのだそうだ。
そこには当然魔物がいる。ダンジョンから魔物が溢れ出て来ない様に討伐しなければならない。
この領地には、辺境伯を長とした領主隊が組織されている。日々、広大な領地の警備と魔獣や魔物の討伐をしているそうだ。
「しゅごいのら」
「びっくりだよな」
「そんな人達と父上は一緒に討伐していたのですか?」
「そうみたいだよ。僕も話でしか知らないけど。父上と師弟兄弟だというから、フリードお祖父様に師事していたんだ」
フリード爺、もしかして強いのか? まあ、見るからに強そうなのだけど。
「フリードお祖父様は若い頃、剣神とか鬼剣士などと言われていたのだそうだ」
なんですとッ!? 父様が師事していたのは、あのフリード爺だ。『剣神』に『鬼剣士』だって、なんてかっちょいい二つ名なんだ。
「ロロ、びっくりしているのか?」
「らってにこにい、けんしんらって。おにけんしらって!」
「な、かっちょいいよな」
「かっちょいいのら!」
「アハハハ! お祖父様が喜ぶよ」
そんな人に師事していた父様はきっと強かったのだろうな。




