322ードルフ爺のおみやげ
そこへ声の大きいフリードお爺さんが、ズズイとお顔を寄せてくるから圧が凄いのだ。
「なんだぁッ!? ランベルトだけズルイぞぉ! ロロ、私もフリード爺で良いぞッ!」
「ふりーろじい」
「そうだ! ワッハッハッハ! 可愛いぞ!」
俺の頭をグリグリと撫でる。大きな硬い手だった。ずっと剣を持っている人の手だ。
こんなにガタイの良い人ばかりに囲まれるのは初めてなのだけど、俺は人見知りも緊張もせずにすんでいる。きっと温かく迎えてくれたからなのだ。
「ロロ、失礼だよ」
「レオ君だったか? 構わない。君達もラン爺と呼んでくれると嬉しいな」
「そうだぞ、レオ!」
ほら、良いって言ってるじゃないか。ラン爺は筋肉モリモリなのに、落ち着いていてとっても優しく話してくれる。
「ワッハッハ! レオ、そんなに畏まる必要ないぞ。フリード爺にラン爺だ。ワシの事もドルフ爺と呼ぶだろう?」
いやいや、家がお隣さんのドルフ爺と一緒にしてはいけないのだ。
「ロロ、ワシも貰って良いか?」
「うん、どるふじい。たくしゃんあるから、いいのら」
そうだ、ドルフ爺とセルマ婆さんにも作れば良かった。俺ってば気が利かないのだ。
辺境伯のイシュトさんとドルフ爺はハンカチを、息子のユーリさんはおリボンを選んだ。
気に入って貰えて良かったのだ。
「ディ、この子達は宝でっす」
「先輩、そう思うだろう?」
「はい、みんな良い子達でっす。エルフの国に連れて帰りたいくらいでっす」
エルフの国かぁ。大きくなったらディさんに連れて行ってもらおう。
「ワシからも土産があるんだ」
ドルフ爺が持ってきていた大きな袋を持ち出した。そこからドルフ爺ご自慢のおみやげを堂々と出したのだ。
「ちょ、ちょっと、ドルフ爺!」
「おう、クリスティー先生。良いだろう?」
「何てことですかッ! まさか育てられるのですか!?」
「おう、そうなんだ。ニコと一緒に育てているんだ」
ドルフ爺が取り出したのは、俺達が森で採取してきてドルフ爺とニコ兄が栽培に成功したリカバマッシュだ。真っ白で大きなマッシュ。
リカバマッシュを幾つも持ってきていた。だから大きな袋だったのだ。
それと忘れてはいけない、マンドラゴラ。
「ええぇッ! マンドラゴラですかッ!?」
さすがのクリスティー先生も、眼を大きく開けて驚いていたのだ。だからここで言っておこう。
「おいしいのら」
「な、美味いよな」
「はいはい、ポトフがお勧めですがサラダも美味しいですよ」
なんてマリーまで言っている。どうだ? つかみはオッケーじゃないか?
「どうしてマンドラゴラなんて!?」
「クリスティー先生、畑に出るんだ」
「ドルフ爺の畑にですか?」
「そうなんだよ」
「ばしこーんしても、れてくるのら」
「んん?」
はい、ドルフ爺。説明して欲しいのだ。
もうディさんは使い物にならないからね。さっきからずっとお腹を抱えて笑っている。それも嬉しそうに笑っている。こっちまで笑顔になってしまうのだ。
そこでドルフ爺が説明してくれた。リカバマッシュの栽培方法とマンドラゴラの事を。
「本当に、君達はどうなっているのですか? これはとっても凄い事なのでっす」
「アハハハ!」
ほら、またディさんが笑っている。レオ兄もクフフと笑いを堪えているけど、身体が震えているのだ。
まさかドルフ爺がマンドラゴラを持ってくるなんて、思っていなかったのだ。
「フォリコッコだけでも、珍しい事なのだ! なのに、リカバマッシュにマンドラゴラか!?」
「あなた、声が大きいですわ」
「お、おう。すまん」
あらら、夫人に叱られちゃった。途端に身体を小さくしている。それでも大きい事には変わりないのだ。
やっとみんな落ち着いた頃に、辺境伯のイシュトさんが思い出したように話し出した。
「そうだ、忘れていた。君達のお祖父様とお祖母様は、2〜3日で到着されると思うぞ」
それは大切な事なのだ。どうして忘れていたのかな?
「それまでゆっくりするといいわ。みんな領地を観光すると良いわよ」
「クリスティー先生、俺教えて欲しい事があるんだ」
「おや、何でしょう? ニコ君」
ニコ兄の隣りで俺をずっとお膝に乗せて、ご満悦なクリスティー先生が聞いた。
「俺も薬草を育てているんだ。だから色々教えて欲しいんだ」
「はい、なんでも教えましょう」
「しぇんしぇい、ボクもなのら」
「ロロも薬草を育てているのですか?」
「ちがうのら。ぽーしょんなのら」
はい、今度はレオ兄に説明をお願いしよう。だって俺は舌足らずな喋り方で遅いから。
「ロロはポーションを作っているんです。それで薬湯の作り方も覚えたいと言っているんです」
「ちょっと待ってください。ディ、あなたですか?」
「アハハハ!」
「ディ、笑い事ではありません」
「ごめ、ごめん。おもしろくって。いや、ロロと会った時はもうポーションを作っていたんだ。しかも中級ポーションだ」
「まあッ!」
まあッ! て。クリスティー先生って楽しい人なのだ。怖い人だったらどうしようと思っていたのだけど、とっても楽しい人だった。ふふふふ。
思わず手をお口に当てて笑ってしまった。
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