316ー知らないのだ!
ディさんが言っていたこの国の上の方の人って、王様なのか? それって上の方の人じゃなくて、一番上の人じゃないか。ディさんは王様と会える人なのか?
ディさんの報告を聞いて、王はそれを重く見た。一貴族の乗っ取りではすまないのではないかと。
「この国の王はね、代々直感に優れているというのかな。僕の精霊眼で見てもそんなスキルは持っていないんだけど、何故か国の危機に繋がりそうな事には反応するというのかな」
「ディさん、僕達の両親の死因と叔父という人が関係しているという事ですか?」
「レオ、それが王や僕にもまだ何も分からないんだ」
なんだか雲行きが怪しくなってきたのだ。両親の事故は魔族が関係している可能性があるのだろう? それにあの叔父も関係しているのか?
ディさんがまだ分からないというのだから、俺達に分かる筈もない。ディさんに任せるしかないのだ。
「まだ調べるからさ」
「はい。ディさん、お願いします」
この事をお祖父様とお祖母様が知ったら、どう思うのだろう。自分達の娘夫婦の事なのだ。
自分の娘が魔族に倒された可能性があると知ったら……?
だからといって、どうにもできないのだ。それはとっても悔しい事なのではないか?
俺は思わず短い腕を組んで、ぷにぷにの顎に手をやる。
「ロロ、難しい顔をしてどうしたんだ?」
「らってれおにい、おじいしゃまとおばあしゃま、ろうおもうかとおもったのら」
「そうだね」
「まだ確実な事は分かっていないんだ。この事は僕が話すからね、君達は心配しなくて良いよ」
うん、ディさんに任せるのが良いと思うのだ。
そしてとうとう出発の日だ。張り切っているのは、フォーちゃん、リーちゃん、コーちゃん、そしてリーダー、それにプチゴーレム達。何故かこの子達が一番張り切っている。
朝早くから、ピヨピヨ! キャンキャン! と、煩いくらいだ。
何か号令でも掛けているのか? と、思うくらいなのだ。
それにもう一人張り切っていたのが、これまた何故かドルフ爺。
「おう! おはよう!」
俺達が起きたら、もうコッコちゃん達にお野菜もあげていて、プチゴーレム達にも朝ごはんを食べさせてくれていた。クーちゃんの甲羅まで洗い終わっていたのだ。
その上、ドルフ爺の着ている服がいつもと違う。小綺麗な恰好をしているのだ。
一緒に行かないのにどうしてなのだ? 俺達はいつもの服装なのに。
「おはようー!」
いつも綺麗なディさんが、今日は早くにやってきた。
「今日は、朝ごはんを一緒に食べようと思ってさ」
なんて言っている。キラッキラな笑顔でだ。
まあ、いい。それは良い。問題はドルフ爺なのだ。
「ん? ロロは知らなかったか? ディさん話してないのか?」
「話したよ、どうして?」
「でぃしゃん、どるふじい」
「一緒に行くんだよ。僕と一緒にその日の内に帰って来るけどね」
なんだよー! 俺は知らなかったのだ! どうしてだ!? びっくり仰天なのだぞ!
「ええー!?」
「ああ、ロロは寝ちゃってたからだね」
「しょんなぁー!」
だって俺は、眠気に抗えないのだから仕方がないのだ。
もしかして、他にも俺が知らない事があるのではないか!?
「じゅるいのら!」
プンプンと腕を組んで怒っておいた。ね、ピカは知ってた?
「わふわふ」
「しょっか、ピカもいっしょにねるから」
ピカさんも、知らなかったと言っている。だって一緒に驚いていたものね。
「ワッハッハッハ! ワシがディさんに無理言ったんだ」
ドルフ爺は笑っていたけど。これはレオ兄を問い詰めないと!
「れおにいー!」
「ん? ロロ、どうしたんだ? あ、ディさん、ドルフ爺、おはようございます」
おはようじゃないのだ。レオ兄に話を聞こうではないか!
「れおにい、ボクはしらなかったのら!」
「え? なに? ロロ」
何ではない。ドルフ爺も一緒に行くって知らなかったとレオ兄に言った。俺だけ知らなかったのは酷いとプンプンと怒りながらだ。
「ああ、ロロは寝ちゃっていたからね。忘れてたよ、ごめんごめん。アハハハ」
笑っているのだ。最近よく笑うようになったのは良い事なのだけど。これは笑ってはいけないぞ。忘れていたではないのだ。
「ボクらけ、なかまはじゅれなのら」
「ロロ、そんなつもりじゃないんだよ。ごめんね」
「れおにい、もうない?」
「うん、ないない」
「いやいや、レオ。あるだろう。あの事も話してないんじゃないのか?」
「え? ドルフ爺、あの事って何だっけ?」
俺の側に親コッコちゃんが2羽やってきたのだ。なんだ? 今真剣なお話をしているのだ。もしかして一緒に行くつもりなのか?
「ほら、コッコちゃんだ」
「ああ、ロロ。コッコちゃんを2羽、辺境伯様に譲る事になったんだ」
「ええぇーッ!」
て、良いのだけど。コッコちゃんの卵は美味しいからね。卵を孵して増やすと良いのだ。
あれれ? でもコッコちゃんの卵は、ルルンデの産業にするのではなかったっけ?
「ルルンデだけでは、到底足らないという状況になっているんだそうだよ」
「へえー、おいしいから?」
「ハハハ、そうだね」
コッコちゃんの卵は美味しいだけではない。栄養価も高い。それに大きい。卵一つで何人分もの食事になる。
だからもっと流通させて国民の栄養状態を良くしようという事らしい。




