315ーディさんがしていた準備
「ひょぉー! もうむかってるのら!?」
「ロロ、ほらお口の周り」
「あ、にこにい。ありがと」
つい驚いて大きな声を出したら、一緒にお口の周りにも飛んだのだ。
お祖父様はもう辺境伯領へ向かっている。お祖父様の家から、辺境伯のお家までどれくらいかかるのだろう?
「ておしゃん、とおいの?」
「ん? うちの邸からって事か?」
「しょうなのら」
テオさんが言うには、お祖父様は馬車で辺境伯領へ向かっている。本当だったら馬で駆けたいらしいのだけど、帰りに俺達を乗せる事を考えてと。
「なんとお祖母様も一緒に来られている」
うんうん、それはさっき聞いたのだ。
「テオさん、お祖母様は馬車での長旅は大丈夫なのですか?」
「大丈夫だろう。お祖母様もお元気だし。何より早くレオ達に会いたいんだよ」
ニコ兄は驚いていないのだね。
「にこにい、びっくりしないのら?」
「ん? 驚いてるぞ。けど今は食べているからな」
「あい」
ニコ兄ったら大人なのだ。
俺はさっき先に聞いたのに、まだソワソワしてしまうというのに。
「ロロ、美味いぞ」
「うん、にこにい」
ふぅ~、ちょっと冷静になろう。
そう思って、果実水をゴクゴクと飲んで夕ご飯をモグモグと食べるのだ。
「ロロ、なんだよ。驚いてくれないと」
「らってたべるのら」
「ふふふ、テオ様。それで何と書いてあったのですか?」
「おう、お祖父様とお祖母様が馬車で辺境伯領へ向かっている」
だからそれはもう聞いたのだ。もしかしてテオさんも驚いているのかな?
テオさんの家は隣国だ。そこから辺境伯領まで馬車で移動すると10日は掛かるらしい。辺境伯領に入って領主邸に到着するのは、そこからまた何日か掛かる。
だからその頃に、俺達はディさんに送ってもらって辺境伯のお邸に行く。
「しょんなにかかるのら」
「おう、隣国だからな。それでもまだ近い方だ」
この国の端っこから端っこにいくよりは近いらしい。
と、いう事は俺達はいつ位に出発するのだ? まだまだなのか?
「早めに行って領地を観光してみればどう? 向こうにいるエルフにも紹介したいしね」
ディさんの都合が良いのなら俺達は全然構わないのだけど。ね、レオ兄。
「僕達はいつでも構いませんよ」
結局その日直ぐには決められなくて、翌日ディさんがギルマスとも相談して決めた。
俺達は1週間後に出発だ。早めに行って、お祖父様とお祖母様を出迎えることになった。
「ふふふ、たのしみなのら~」
「ロロったら、可愛いわ」
リア姉、それは関係ないのだ。
出発まで俺は何かをする事もなく、いつも通り日向ぼっこをして、お散歩をしたり。
俺は全然用意する事もないので、もう少しハンカチに刺繍をしておこうかなと思ってお道具箱をマリーに出してもらっていた。
そこにいつもの様に、お野菜を入れた籠を持ったディさんが戻ってきた。
「ロロ、もうハンカチは何枚も刺繍したんじゃなかったっけ?」
「うん、けろボクしゅることないし」
「じゃあさ、おリボンも作っておいたらどうかな?」
と、バシコーンとウインクをした。おリボンか。髪を結んでいる人も多いし、それも良いかも知れない。必要なかったら持って帰ってくれば良いのだし。
「ふむふむ」
「ロロが付与したおリボンをいらない人なんていないよ」
「え、しょう?」
「うん、そうだよ」
いつもの様に笑顔のディさんなのだけど、出発する日が決まってからうちに来る時間が遅くなった。そして、時々夕ご飯を食べずに帰って行く。
少し忙しくしている。やっぱディさんはこの街に必要な人なのだ。
「でぃしゃん、いしょがししょうなのら」
「え、僕? そんな事ないよ~」
ほんの1日ルルンデの街から離れるだけなのにね。
「まあ、色々とね」
と、言葉を濁して笑っていた。その時俺は、全然知らなかったのだ。
出発が明日という日になって、ディさんが大きな封筒を出してきた。
その日はリア姉とレオ兄、テオさんとジルさんもギルドには行かずに家にいたのだ。
ニコ兄とユーリアは畑に出掛けて行ったけど。
「これはね、フォーゲル子爵に取り寄せてもらったリア達の貴族簿の写しだ。これをオードラン侯爵に渡しておこうと思う」
「ディさん、そんな事いつの間に……」
「だって君達の現状を、全部知っておいてもらう方が良いだろう?」
ディさんが出発が決まってから忙しそうにしていたのは、この書類を集めてくれていた事もあったのだ。貴族簿だけじゃなくて、それまで調べてくれた事も全部まとめてあるらしい。
フォーゲル子爵が、調査の申立てをしてくれた内容と同じものだ。
そしてその書類の最後には、フォーゲル子爵のサインだけじゃなくウィルセント・テンブルームとサインがあった。
「これ、うぃるしゃん?」
「そうだよ、ロロ。偉いねー」
なんて言いながら俺の頭を撫でるディさん。いや、待って。ウィルさんは王弟殿下だ。そんな偉い人がどうしてなのだ?
「ディさん、王族は介入できないと聞きました」
「実はね、レオ。この事は陛下の耳にも入れてあるんだ。王族も把握している事だという証明だ」
び、び、びっくりなのだ。陛下って王様だよな。この国の王様が一貴族の事を知っているって?
ディさんが報告したらしい。両親の死因が事故ではないと、その報告をした時に一緒に話したそうだ。




