314ー知りたいのだ
今回は遊びに行くだけなのだぞ。それに、俺だけ「一緒に寝よう」って何だよ。心外だな。俺だって何かないのか?
「僕はロロと時々一緒に寝ているもんね~」
ね~ってディさん、俺のお昼寝の時に一緒に寝ているのは確かなのだけど。それが自慢になるのか? 俺ってやっぱちびっ子だからなのだ。
「ロロ、それだけ可愛いって事だぞ」
「テオしゃん、けろあったことないのら」
「それでも可愛いのですよ」
ジルさんがそういうのなら、そうだと思っておこう。ふむふむ。
「ロロ、なんで僕だと信じなくてジルだと信じるんだよ」
「らって、じるしゃんらから」
自分で言っておいて意味が分からない。決してテオさんが、信用できないなんて意味ではないのだ。
「あらあら、夕ご飯にしますよ」
みんなでお庭で話していたら、マリーが呼びにきたのだ。
いつの間にか、お空も赤く染まっている。
この世界って蝉はいないのかな? もう夏本番だと思うのだけど、蝉の鳴く声がしないぞ。
周りにある木を見てみる。こんな遠くからだと見えないのだけど。
「ロロ、どうした?」
「れおにい、しぇみいないの?」
「ん? 蝉かな?」
「しょうなのら。なくこえがしないのら」
「まだ少し早いかな。もう少ししたら煩い位に鳴きだすよ」
「しょうなの?」
そうか、この世界にもいるのだ。俺は今が夏本番だと思っていたのだけど。
「れおにい、もっとあちゅくなる?」
「もう少しだけ暑くなるよ。そうしたら蝉が鳴きだすんだ」
ほうほう、まだだったのか。そろそろ雨の季節が終わると、ディさんが言っていた。それが終わってからなのだろう。
前世の日本だと梅雨の時期になるのだろうか? でも一日中降る訳ではないし、湿度だっていつもとそんなに変わらない様に感じる。
過ごし易いのだ。これからもう少し暑くなるのだそうだ。
俺はそんな季節を覚えていない。3歳なのだから過ごした事がある筈なのに、全然覚えていないのだ。
「ロロはまだちびっ子だからね」
「れおにい、しょう?」
「うん、そうだよ。これからだ。もっともっと大きくならなきゃね」
「うん、なるのら!」
「アハハハ、楽しみだ」
なんだかレオ兄は、親目線になっていないか? この1年レオ兄のお世話になって来たから、そうなっちゃうのだろうけど。
辺境伯領やお祖父様の領地はどうなのだろう? ここより西側だと言っていた。
辺境伯領は、この国の西側の端っこなのだ。
この国、テンブルーム王国は東西に細くて南北に長い国だ。その丁度真ん中辺りに王都がある。
王都の周りに幾つかの領地があって、その一つがフォーゲル領。フィーネ達の家が治めるアウグスト領はお隣だ。反対側のお隣が、俺達の両親が治めていたレーヴェント領になる。
その西側の辺境の地に行く。そこからお隣の国に入ると、お祖父様のいる領地だ。
ちょっとテオさんに聞いてみようかな。
「ておしゃん、おじいしゃまのりょうち」
「おう、どうした?」
「あちゅい? しゅじゅしい?」
「あん? 暑いか涼しいかって言っているのか?」
「しょうなのら」
「ここより西側だけど、そう変わらないぞ。帝国の帝都は少し暑いけどな」
帝都。えっとお隣の国は帝国だから帝都。
「おおしゃまじゃなくて、こうてい?」
「そうだ。ロロ、お利口だな」
それ位は分かる。だって前世で呼んだラノベによく出てきていたし。歴史の授業でも習った気がするのだ。
「僕の家のある地域は過ごし易い気候だよ。こことそう変わらないな」
ほうほう、変わらないと。
色んな事が知りたい。もっとお祖父さまやお祖母さまの事も聞かせてほしい。
母様のお兄さんがテオさんのお父さんだ。その人の事も知りたい。
俺と同じ歳の子がいると話していた。その子の事も知りたい。お友達になれるかな?
知りたい事がいっぱいなのだ。
「ロロ、もうすぐ会えるんだから」
「らって、れおにい。しりたいのら」
「ふふふ、ロロったら嬉しいのね」
「うん、りあねえ」
「楽しみだよな」
「にこにい、たのしみなのら」
ピコピコハンマーを持っていくよな? 木の短剣も持って行こう。俺の武器なのだ。
「おう、ロロ。俺もピコピコハンマー持って行くぞ!」
「うん!」
ちょっとニコ兄と一緒に盛り上がってしまった。知らない事を知るのは楽しい。知らない場所に行くのもワクワクする。
なにより、早く会ってみたい。ずっと連絡を取っていなかったし、隣国という遠方なのに俺達の事を心配してくれた人達に会いたいと思ったのだ。
「アハハハ! 本当に見つけられて良かったよ!」
テオさんが嬉しそうなお顔をしてそう言った。こちらこそだ。見つけてくれて有難うなのだ。
俺は辺境伯領までディさんに転移で送ってもらう事もあって、とっても浮かれていたのだ。
辺境伯領からまだ遠くなのだという事を忘れていた。そして、辺境伯領はこのフォーゲル領よりも魔獣が多いという事もだ。
ちょっと遠足に行くみたいな気分だったのだ。
沢山脱線したのだけど、夕ご飯の時にやっとお祖父様からのお手紙の話になった。
お祖父様達はもう辺境伯領に向けて出発したとテオさんへのお手紙に書いてあった。
そんな大事な事が書いてあったのに、テオさんはもっと早く言って欲しいのだ。




