313ーエルフの先生
ドルフ爺とディさんも、離れたところで見ながら爆笑だ。テオさんとジルさんまで外に出てきていた。
「なんでなのよぉーッ!?」
いや、だからさ。ドルフ爺が言っていたじゃないか。殺気を抑えろと。
「だって殺気なんて、出しているつもりがないんだもの!」
「アハハハ! 姉上はそうだよね」
「レオったら、何よぅ」
「いつもそうだよ。姉上はターゲットを見つけたら、ブワッと殺気立つからね」
「レオはそんな事まで分かっていたの!?」
リア姉本人が分かっていないというのに、レオ兄はちゃんと分かっていたのだ。
「ロロ、また何か考えていたでしょう」
「かんがえてないのら~」
ちょっとリア姉から眼を逸らす。眼を見たら駄目なのだ、読まれてしまう。てか、自分でポロッと言ってしまう。俺の悪い癖なのだ。
「りあねえ、めをとじて、ばしこーんしてみる?」
「ロロ、眼を閉じたら見えないじゃない」
まあ、そうなんだけど。でもマンドラゴラに、察知される位に殺気が出ちゃうんだろう?
「ロロ、もうそこにいるって分かっているから無駄だよ」
「れおにい、しょうなの?」
「うん、そうなんだよ」
それは困ったものだ。じゃあリア姉は、マンドラゴラをバシコーンできないという事で。
「りあねえは、ばしこーんれきない」
「ロロォ!」
「アハハハ!」
「ロロ、それを言ったら駄目だぞ!」
「あ、にこにい。いっちゃったのら」
思わずお口を押さえる。今更遅いのだけど。まあ、抱き着いてきたから、今日はそれで許してもらおう。
「アハハハ! もういいか? 今日は食べるのか?」
「マリーに聞いてくる!」
ニコ兄が、マリー! と叫びながら家に入って行った。
ドルフ爺がいつもの鉈を手に待っている。食べる気満々なのだ。
「ドルフ爺、何頭か欲しいって!」
「おう!」
そして、マンドラゴラを引き抜いたかと思ったらブスッと鉈でぶっ刺した。
うん、いつもの事なのだ。
――キュポン!
――キュポポン!
――キュポポンポン!
「ロロ、地面を叩かないでよ」
「えへへ〜」
「もう、ロロったら」
ドルフ爺がマンドラゴラをぶっ刺している間、俺は地面をピコピコハンマーでパコンと叩いていたのだ。やっぱこの音、改良の余地があるのだ。
「ロロ、可愛いからいいよ」
「でぃしゃん、しょう?」
「うん、とってもロロらしくて、良いんじゃないかな?」
「え……」
この音が俺らしいと? もう一度叩いてみよう。
――キュポン!
「ほら、可愛い」
「しょうかな?」
「うん、そうだよ」
なんだか納得できないのだ。まあ、良いのだけど。
「それより、テオだ。お手紙が来たって言ってたよ」
「あ、そうだ。リア、レオ、ニコ。お祖父様から手紙が来たんだ」
そうだった。余りにもリア姉とマンドラゴラが面白くて忘れていたのだ。
「ニコ、あれか。辺境伯領へ行くって言ってたやつか?」
「おう、そうだぞ」
「ワシももうちょっと若くて畑がなかったら、ついて行きたいんだけどな」
「え、ドルフ爺がか?」
「おう、辺境伯領だろう? 珍しい薬草があるぞ」
「本当かよ! ドルフ爺、それ教えておいてくれよ」
「おう」
なんだ、なんだ? ドルフ爺も行きたかったのか? なら一緒に行けば良いのだ。
「クーちゃんもいるだろう? 畑だってあるから駄目だ」
「なんら、じゃんねんなのら」
「そうかそうか」
ふふふと笑いながら、俺の頭を撫でてくれるドルフ爺。ドルフ爺も一緒だったら、楽しいだろうなと思ったのに残念なのだ。
「ニコ、辺境伯家にエルフが一人いるんだ。僕より詳しいから教えてもらうと良いよ」
「ディさん、そうなのか? それは絶対に教えてもらわなきゃだな!」
「紹介するよ。きっと喜ぶよ。先生って呼ばれているんだ」
「へえー、凄そうだな」
「うん、薬草とか詳しいよ」
「なんだ、まだいるのか?」
え、またまたドルフ爺なのだ。まだいるのか? とは?
「ワシが若い頃に辺境伯領に行った時にもいたんだ。皆から先生って呼ばれて……いや、あれは呼ばせているのか? ワッハッハッハ」
「そうだね、アハハハ」
なんだか分からないけど、楽しい人みたいなのだ。
「怖い人じゃなければ良いぞ」
「ニコ、全然怖くないよ。僕と同じ変わり者だ」
ディさんは、全然変わり者なんかじゃないのだ。
「でぃしゃんは、やしゃしいのら」
「ロロ! 有難うー!」
今度はディさんに抱きしめられた。さてさて、いい加減にテオさんが持っているお祖父様からのお手紙を読もう。
なかなかお手紙にまで辿り着けない。脱線しまくりなのだ。
「えっと……」
テオさんがお手紙を開けて読む。みんな横から覗いている。
俺は見えないのだ。ニコ兄と一緒に大人しく待つのだ。
「え……お祖父様とお祖母様、どんだけ張り切ってんだよ」
「ふふふ、大旦那様らしいじゃないですか」
「まあ、そうだけどさ」
何なのだ? 早く何が書いてあったか言って欲しいのだ。
「レオを学院に入学させる書類を一応持って来るって。リアはお祖母様が勉学とマナーを教えたいって。ニコは家庭教師をつけるか、父上に剣を習うか。ロロは一緒に寝ようと」
んん? なんだか話が大きくなっていないか?




