310ーディさんの秘密
「僕はそんな媒体は必要ないんだけどね」
「ひょぉーッ!? でぃしゃん、ちゅかえるの!?」
「実はそうなんだよー、アハハハ」
凄いのだ。笑い事ではないのだ。またまたビックリなのだ。
「でも、ロロ。これは秘密だよ」
「わかったのら、ひみちゅ」
とっても心許ないのだけど。頑張って秘密にするのだ。
最近俺のお口はとっても軽いからなぁ。思っている事を、ポロッと喋ってしまう。気を付けないといけないのだ。
「あらあら、マリーも聞いてしまいましたよ」
「アハハハ、マリーも秘密だよ」
「はい、秘密ですね」
とっても良い笑顔のマリーだ。その笑顔を見て、ちょっぴり不安が過ったのは気の所為か?
「マリーまでディさんの秘密を知ってしまいましたねー」
「まりー、じぇったいに、ひみちゅなのら」
「はいはい、もちろんです」
うん、やっぱちょっと不安なのだ。でも、余計な事は考えないで刺繍をしよう。
「僕はお野菜を採りに行ってくるよー」
いつものディさん用の麦わら帽子を被り、手には籠を持ってスキップしながら出掛けて行った。
毎日毎日、飽きないのだ。きっと今日も特盛サラダを食べるのだろう。
そうして一日頑張って刺繍をした。模様はそんなに大きなものじゃないのだけど、怪我しないように、危ない事に巻き込まれないようにと思いを込めて何枚か作った。
まだ明日もその次の日も作るつもりなのだ。
それを夕方に戻ってきたディさんが、精霊眼で見てうんうんと頷いていた。
「ロロ、上手だね。これは良いよ」
「しょうなのら」
「きっと大事にしてくれるよ」
「ふふふ、しょうらと良いのらけろ」
この世界では気にされていないのだけど、前世ではメジャーだった四つ葉のクローバー。それを刺繍したのだ。見つけたらラッキーだとか言うだろう?
だからラッキーな事が起こるように、おまじないも兼ねている。
「守りと運だね。これなら事故にも遭わないんじゃないかな?」
「でぃしゃん、しょう?」
「うん、それくらいの付与になっているよ」
「良かったのら」
ちょっぴり嬉しくて、ソファーに座って床についていない足をプランプランする。
そのディさんの話を、帰ってきたテオさんとジルさんが聞いていた。
「ロロ、僕にも何か作ってくれないか?」
「ロロ君、私も欲しいです」
え、そうなのか? えっと、じゃあ……
「まりー、おりぼんのよびあった?」
「はい、ありますよ」
マリーが俺のお道具箱から何種類かおリボンを出してくれた。
「かみをむしゅぶ、おりぼんなのら」
「おー、なるほどな。リアやレオと同じだな」
「しょうしょう。しゅきなおりぼんを、えらんれほしいのら」
色々あるだろう? マリーが買った物を取ってあるのだ。
マリーは、手芸用品店に行くとつい買ってしまうらしい。きっとエルザやユーリアにと思うのだろうけど、2人共あまりリボンは気にしないらしい。
そうか、マリー達にもこの機会におリボンに刺繍しよう。それを付けてくれていると安心なのだ。
「まりーもえらんれ。ゆーりあも」
「え? ロロ坊ちゃま、私達もですか?」
「うん、ちゅくるから」
「ロロ坊ちゃま、本当ですか!?」
ユーリアが食いついてきた。なんだ、もしかして欲しかったのかな?
「だって、ロロ坊ちゃまの刺繍は可愛いもの!」
「はやくいってくれれば、よかったのら」
「ふふふ」
遠慮していたのかな? もっと早く気付けば良かったのだ。
早速おリボンを選んでもらった。
テオさんは、レオ兄と同じ藍色の髪色をしている。選んだおリボンは黒に近い深い青だ。そこにシルバー色の糸で葉っぱの刺繍をする。
ジルさんは、ブルーシルバーの髪色だ。淡い水色のおリボンを選んだ。そこに、紺色の糸で刺繍をする。
エルザは帰ってきてから選んでもらう事にして、マリーとユーリアにも選んでもらった。
ユーリアが選んだのはベビーピンクのおリボンだ。これは絶対にマリーがユーリアの事を思って買った物だろう。だってリア姉はピンクって柄じゃないもの。
ユーリアはおさげに結んでいるから、細いおリボンを2本。
そして、マリーだ。薄紅色の髪をいつもシニヨンに結っている。シニヨンにまとめた髪の周りにシニヨンカバーというのだろうか? シャンプーハットの様な白い布を被っている。それを結ぶリボンにするらしい。
アイボリーのふんわりとしたおリボン。そこに淡い緑色の糸で葉っぱの模様がご希望なのだ。
「坊ちゃま、私は端に葉っぱの柄をワンポイントで良いんです」
「まりー、しょう?」
「はい、小さく可愛らしいのが良いです」
「ほんとに? えんりょしてない?」
「はい、してませんよ」
「ロロ坊ちゃま、私は小さなお花が良いです」
「わかったのら」
さて、これから俺は忙しくなるのだ。
ハンカチもあともう何枚か刺繍をしたいし、みんなのおリボンにも刺繍をしたい。大忙しになるぞ。これがお店なら、大繁盛なのだ。
「ええー、みんな良いなぁー」
ディさんは何を言っているのだ。ディさんが俺の一番の大作を持っているのに。
「だっておリボンも可愛いだろう?」
「ディさんがいつも髪に結んでいるリボンも、そうなんじゃないんですか?」
そうそう。俺が刺繍をしたおリボンを、いつも結んでくれている。




