308ーハンカチにしよう
「え、これ、ロロが刺繍したのか?」
「しょうなのら」
「テオ様、もう流石に驚く事はないだろうと思っていましたけど」
「ああ、あったな」
んん? 何なのだ? 小さな刺繍だけど、お上手にできていると思うぞ。まあ、大人が刺繍した物には見劣りするかもだけど。
テオさんとジルさんが、俺が刺繍をしたハンカチを見つめている。テオさんもジルさんも鑑定眼は持っていないから、いくら見つめても付与の効果は分からない。
「ロロ、違うぞ。刺繍で付与する事に驚いているんだ。それに、上手に刺繍しているじゃないか」
「これはディさんが教えたのですか?」
「違うよー、ロロが刺繍をしたハンカチが切っ掛けで知り合ったんだ。僕も初めて見た時には驚いたよ。アハハハ」
「いやいや、ディさん。これって笑い事じゃないですよ」
「だからねー、ロロ」
「うん、ひみちゅなのら」
お肉を食べてちょっぴり脂でペカッとなっている唇に、短い人差し指を当てて言った。
「ロロ、指に脂がつくだろう?」
「あ、にこにい。しょうらった」
ニコ兄が、俺の指とついでにお口も拭いてくれる。いつも有難う。
「アハハハ、ロロったら」
「ディさん、もうないですよね?」
ジルさんが真剣なお顔で言った。え? 何がだろう?
「ロロ、秘密だよ」
「ひみちゅはいっぱいあるのら」
「ええー、いっぱいなのかよ」
「しょうなのら。けろ、ひみちゅなのら」
「アハハハ。テオ様、驚く私達の方が変なのかと思いますね」
「ああ、まったくだ」
だって色々秘密があって、言えないのだ。
なにしろ、俺の足元で食べているピカとチロが一番の秘密なのだから。いや、俺の加護もそうかな?
「わふん?」
「キュルン?」
「なんれもないよ。おいしい?」
「わふ」
「キュル」
「しょう、よかったね~」
ふふふ、可愛いのだ。言わなければ絶対に想像つかないと思うのだ。
「しんじゅうなのら」
「「ええッ!?」」
あ、しまった。ついお口が……思っていた事をペラっと喋ってしまう。これはいけないのだ。
「アハハハ! ロロったら秘密になってないよ」
「らってでぃしゃん、おもってたのら」
「ロロ、テオさんとジルさんは良いんじゃないか?」
「れおにい、しょう?」
「うん、お祖父様達も良いと思うよ」
「しょっか」
けど、俺は誰が良いとか判断できない。だから……。
「れおにいに、まかしぇるのら」
これを丸投げと人は言う。ふむふむ。
「アハハハ、まあ良いんじゃない?」
「ディさん、どういう事ですか!? クーちゃんで充分驚きましたよ!」
「クーちゃんは聖獣だろう。ピカとチロはもっと上位の存在だ」
「じゃあ、本当に神獣なのですか?」
「そうだよ、この世界の創造神である女神様の神使だ」
「「えぇ……!?」」
あらら、ディさんが全部言っちゃった。まあ、良いか。
「うまうま」
「な、美味いな」
どうした、テオさん、ジルさん。食べないのか? 手が止まっているのだ。
ポカンとお口を開けて、お目々を大きくしているから驚いているのかな?
ディさんがサラッと秘密を言っちゃった。それでも俺の加護の事は話していない。これは本当に秘密なのだろう。覚えておこう。
「ジル、僕は普通というものが分からなくなったぞ」
「ええ、テオ様。私もです」
「こんなので驚いているなんて、まだまだだねー」
ディさん、そんな事を言ったらまだあるって言っている様なものじゃないか。お任せするけど。
「ごちしょうしゃま」
「はいはい、おかわりは良いんですか?」
「おなかいっぱいら」
俺はここまでかな。お腹が一杯になったら眠くなるからね。
コクコクコクと果実水を飲む。
「ぷはッ」
「ロロ、口の周りを拭けよ」
「うん、にこにい」
お口の周りね、はいはい。何故かいつもソースがついてしまうからね。
ピカさんとチロはもう食べたかな?
「わふん」
「キュルン」
よしよし、もう寝る準備はできたのだ。
「ロロ、ベッドに行こうか」
「うん、れおにい。ふわぁ~」
大きな欠伸が出てしまったのだ。両手を出すと、レオ兄が抱っこしてくれる。俺はレオ兄の肩にコテンと頭を乗せる。
お昼寝もしているのに、夜は起きていられない。
前世の俺なら、まだまだ夜はこれからだと思っていたような時間なのだ。
身体を預けながら手をフリフリしておく。
「おやしゅみ~」
「おやすみなさい」
「ロロ、また明日な」
ふふふ、嬉しいのだ。
「ロロ、どうしたの?」
「れおにい、にぎやかれいいのら」
「そうだね」
階段を上って、レオ兄と一緒に使っている部屋へと入って行く。
本棚やレオ兄の机があって、ご本や俺のぬいぐるみも並べてある。
俺をベッドに寝かせて、温かい色のランプを点ける。真っ暗になると俺が怖がるからだ。
そしてレオ兄はいつも、俺が眠るまでそばにいてくれる。
この時間は、俺がレオ兄を独り占めできる。俺の頭を撫でながら、お話ししてくれるのだ。
「ロロは楽しみなんだね?」
「おじいしゃま?」
「そうだよ」
「うん、たのしみなのら。れおにいは?」
「僕も楽しみだよ。小さな葉っぱの模様で良いから、刺繍したハンカチをプレゼントしたらどうかな?」
小さくて良いのか? そんなのでも良いのかな?




