306ーお返事
「リア! テオ! 雨が降るよ!」
「はい、ディさん!」
ディさんに大きな声で言われて、やっと気付いた。
俺も家の中に入ろう。
「ぴか」
「わふん」
ヨイショと立って、ピカと一緒に家に入る。コッコちゃん達も付いて来る。
淡い青色だった空に、直ぐに重い色の雲が広がり始める。空気の中に雨の匂いが混じり始める。
あっという間に細い糸の様な雨が、ザァーザァーと降り出した。
家の中から見ると、雨に閉じ込められてしまったみたいに感じる。
「あらあら、もうそろそろ降らないかと思っていましたのに」
「マリー、もう2~3日じゃないかな?」
「ディさん、そうですか?」
「うん、そんな感じだよ」
マリーと話しながら、バシャバシャとお野菜を洗っている。もう洗うのか? まだお昼には早いのだ。
「雨が止んだら、もう一度お野菜を採りに行こうと思ってさ」
なんて言っている。まだ行くのか? もう充分な気もするのだけど。
「ロロ、何かな?」
「なんれもないのら」
ニッコリと良い笑顔のディさんだ。
「ディさんもお茶にしませんか?」
「うん、ありがとう」
マリーはもう既にみんなの分のお茶を出している。即行なのだ。これはマリーの特技と言っても良いと思うぞ。
「まりー、くっきーもたべたいのら」
「わふん」
「キュルン」
「あらあら、お昼前ですから少しだけですよ」
「うん、べりーのがいい」
「わふ」
「キュル」
なんだかちびっ子トリオみたいじゃないか。ピカさんとチロも欲しいと俺の側に座っている。
ピカとチロも甘いものが好きだね。
そんな平和な日が数日過ぎた頃、夕方に帰ってきたリア姉とレオ兄がディさんにお手紙を渡した。
「ギルドに戻ったら、ギルマスがディさんに渡してくれって言ってましたよ」
「有難う。きっと辺境伯だね」
それともう一つなのだ。
同じ様に、ギルドから帰ってきたテオさんもお手紙を持っていた。
「お祖父様からの手紙だ」
「思ったより早かったですね」
俺達のお祖父さんには二度お手紙を送っている。俺達が見つかったというお手紙の後に、ディさんが送ってくれるから辺境伯領で待ち合わせをしないかというお手紙だ。そのお返事らしい。
庭先に何故だかみんな集合して、お手紙を開封している。お家の中に入れば良いのに。
「ふふふ、辺境伯は大歓迎だって。来る日が決まったら教えて欲しいって書いてあるよ」
「ディさん、こっちもです。なんならルルンデまで、迎えに行くつもりだったと書いてあります」
「ふふふ、大旦那様らしいですね」
お祖父様も辺境伯からもオッケーが出た。これから本格的に準備なのだ。
「ておしゃん、おじいしゃまのおてがみ?」
「そうだぞ」
「みしぇてみしぇて」
背伸びをしながら、両手を出す。こういう時はちびっ子って不便なのだ。
「ロロはもう文字が読めるのか?」
「ロロは文字が読めますし、計算だってできますよ」
「レオが教えているんだろう?」
「はい、でもロロはほとんど教える事がなくて。少し基本を教えたら、どんどん自分で覚えるんです」
「それは凄いな」
そうじゃないのだ。俺の事ではなくて、お祖父様が書いたお手紙を見たいのだ。
テオさんがお手紙を渡してくれる。俺がレオ兄に勉強を教わる時に使っている、ザラザラとした厚い紙とは違ってツルツルとしていて綺麗な透かし模様が入っている。
「これは僕達の家の紋章なんだ。間違いなくオードラン家の者が出した手紙だって事だ」
ほうほう、紋章って確か両親が乗っていた馬車にも紋章があったと言っていた。貴族ってその家々に紋章があるのだな。
俺の両側に、みんな集まって来た。なんだ、みんなも見たいのだ。
「おおー」
「ロロ、綺麗な字だよな」
「にこにい、しょうらね」
「うわ、達筆だ」
「本当、達筆過ぎて読めないわ」
「姉上……」
「やだ、冗談じゃない。レオったら本気にしないでよ」
いやいや、冗談にならないのだ。本気で読めないのかと俺も思ったぞ。
「ロロ、冗談よ。ちゃんと読めるわよ」
「なにもいってないのら」
俺の周りにしゃがみ込んで、みんなでお手紙を見る。だってお手紙を持っているのが、ちびっ子の俺だから。
本当に、ルルンデまで会いに来るつもりだったと書いてある。その準備もしていたと。
俺達はどうしているのか? 元気なのか? ちゃんと食べているのか? 何が好きだろう? と色々聞いている。
テオさんがお手紙に書いたのだろう。リアはどんな令嬢なのだろう? レオはしっかり者なのだな。ニコは野菜を育てられるのか。ロロは一番小さいのに寂しい思いをしていないだろうか? と細かく聞いてきている。
心配してくれているのだと、お手紙から伝わってくる。
お祖父さんってこんな感じなのか? 俺は前世でも祖父母がいなかったから、孫は可愛いと話に聞くだけだったけど。俺達はその孫なのだな。
「ふふふ」
「ロロ、なあに?」
「りあねえ、うれしいのら」
「そうね、有難い事だわ」
「そうだね」
「うん、ちょっとな」
ニコ兄がちょっとなんて言っているけど、嬉しそうなお顔をしているぞ。
マリーやドルフ爺達が可愛がってくれているのは、よく分かっている。それも嬉しいのだ。
でも、それとはまた違う。この気持ちはなんだろう?




