305ー縁を大事に
ギルドの転送装置を使っても、1日か2日位のタイムラグがあるらしい。そんなタイムラグより、お手紙が向こうのギルドに着いてから、相手に届くまでの方が時間が掛かる場合がある。ギルドが近くにあるとは限らないからだ。
普通は使えないのだけど、ディさんのお名前で使わせてもらったらしい。ちょっぴりズルした、いや違う、得した気分なのだ。
「ディさんは弓じゃなくて杖なのですか?」
弓を使うジルさんは、興味があるのだろう。
「そんな事はないよ。狩りをする時は普通に弓を使うよ。今のは特別だ」
「ディさんは剣も使えるのですか?」
「うん、テオ。一応なんでもね」
「是非、教えてください!」
「アハハハ、いいよー」
ただし、お野菜を採ってからなのだ。だってもうディさん用の麦わら帽子を被って、お野菜を入れる籠を持っているもの。
ふふふ、ディさんにとってお野菜は大事なのだ。
「テオさん、私と対戦しませんか?」
「お、リア。遠慮はしないぞ」
「当たり前です!」
ああ、体育会系だ。動いていないと駄目な病気にでも罹っているのだろうか?
「じゃ、僕はお野菜採りに行ってこよーっと」
と、ディさんはスキップしながら畑に行った。
じゃあ、俺はピカさんに凭れて日向ぼっこしようっと。
「ぴか」
「わふん」
トコトコと軒下へと移動する。そこに横になったピカにパフンと凭れる。
今日はセルマ婆さんが出てこないなぁ。俺が外に出る時間が遅くなっちゃったからかな?
「ロロ君は、いつもそうしているのかい?」
「じるしゃん、しょうなのら。いちゅもは、しぇるまばあしゃんといっしょなのら」
今日はセルマ婆さんの代わりに、ジルさんと一緒だ。ジルさんはここに座ると良いよと、軒下に置いてある小さな木の腰掛けをトントンとした。
いつもセルマ婆さんが座っている物だ。まだこの家に来て直ぐの頃に、ドルフ爺が俺の分と二つ作ってくれた。
マリーがお洗濯を干そうか迷っている。もう少ししたらきっと雨が降るのだ。
「もうそろそろ、降らなくなると思うんですよ」
もうそんな季節なのか。
来年はこの家にいるのかな? ふとそう思ったのだ。
「ロロ君、毎日楽しいかな?」
「うん、たのしいのら」
「それは良かったね」
「れも、おじいしゃまたちにもあいたいのら」
「そうなの?」
「うん」
俺は前世でも肉親の縁に薄かった。それって、仕方ないと思っていたのだ。
俺はそれなりに楽しかったし、気にしていなかった。
でも、最近思うのだ。俺の捉え方や態度で、それも違っていたのではないかと。
義父だったけど、俺には自分の子供と同じように接してくれていたし、大学だって好きなところに行かせてくれた。学費だって払ってくれた。
俺が勝手に疎外感を、抱いていただけなのじゃないかと思ったりするのだ。
もしかして、俺がいなくなって悲しんでくれているのだろうか? と、最近考える。
この世界での両親の映像を見てから、そう考える様になったのだ。
前世の俺が赤ちゃんだった時にも、母はああして抱っこして育ててくれたのだろう。だから俺は成長できたのだ。大人になれたのだ。
女神も俺が肉親との縁が薄いと言っていた。確かに薄かった。盆と正月くらいにしか連絡しなかった。
俺が縁を薄くしていたのではないか? 両親は気に掛けてくれていたのかも知れない。
俺の下にまだ学生の子供が2人もいたのだ。もう親元を離れている俺を構う時間もなかったのかも知れない。
今なら、そう思える。だけど、前世の俺はそんな事さえ考え付かなかった。
今更思っても仕方がない。だからという訳ではないのだけど、俺達を探してくれた祖父や祖母、伯父に会ってみたいのだ。
今世では、ちゃんと縁を大事にしたいと思う。ただ近所に引っ越して来ただけの俺を、気に掛けて可愛がってくれる人達に囲まれているからこそ、そう思えるようになったのかも知れない。
「ロロ君達のお祖父様は温かい人ですよ。お祖母様はきっと涙されるでしょうね」
「しょうなの?」
「はい、心配されていますから」
「しょっか……しょっか」
有難い事なのだ。よし、元気なお顔を見せるのだ。
フォーちゃん達やプチゴーレム達も一緒に行くから、きっとビックリするだろうな。
リーダーも行くって言うだろう。だってフォーちゃん達だけを行かせるなんて心配だもの。
「ふふふふ」
「ロロ君、どうしたの?」
「びっくりしゅるらろなぁ~」
「ロロ君達のお祖父様かな?」
「しょうなのら」
「きっとビックリされるでしょうね。みんなが立派に大きくなっている事もだけど。何しろ……ね」
「ふふふ」
お口に手を当てて、笑う。どんなお顔でびっくりするだろう?
まさか、コッコちゃんやプチゴーレムが一緒だなんて、絶対に予想できない。
ジルさんとそんな話をしてのんびりしていたら、ディさんが走って戻ってきた。
勿論手に持った籠にはお野菜が入っている。
「マリー! 雨が降るよ!」
「まあまあ! 大変!」
マリーが干しかけていた洗濯物を慌てて取り込む。
ジルさんとレオ兄が、マリーを手伝いに走った。
リア姉とテオさんは気付かずにまだ剣の打ち合いをしている。
リア姉、そういうとこだよ。集中していて周りが見えてないのだ。テオさんも同じタイプなのか。




