301ーディさんの憶測
「ディさん、どういう事ですか? 魔法を使うなんて……魔獣と戦っていたか、馬車の横転を止めようとしたのでしょうか?」
「レオ、そんな事でオーブが限界を超えたりすると思う?」
「僕は杖を持っていないのでよく分かりません。でも母の能力だと、魔獣に攻撃したり馬車を立て直す位は簡単な事だと思います」
「そうだね、僕は君達のお母上を知らないけど、レオとロロの能力から予測するときっと簡単だろうね」
ならそれは違うのだな? それ以外にオーブに罅が入る程の魔法を使うなんて、何があるのだ?
俺が貰った杖は、大きなオーブが付いているタイプではない。先端に小さな魔石が嵌めてあるけど、もしかしてその魔石も同じなのかな?
「でぃしゃん、ボクのちゅえ」
「うん、ロロの杖にも先端に魔石があるだろう? それも同じだよ。物理的な事では罅が入ったり割れたりはしない。そうなっているんだ」
ますます分からなくなってきてしまったのだ。頭がグルグルするから、ちょっと果実水を飲もう。
コクコクコクと飲んで、少し落ち着こうとしたのだ。
「ふぅ~」
「ロロ、分かっているか?」
「にこにい、むじゅかしいのら」
「でも大切な事だから、聞いておかないとな」
「うん」
ディさんが話を続ける。どうやらディさんは知り合ってまだ間もない頃に、リア姉とレオ兄から俺達の両親の死因を聞いていたらしい。俺はそんな事を、いつ話していたのかも知らない。俺自身は何も知らなかったのだし。
でもマリーが、魔法杖のオーブに罅が入っていると言った。綺麗に拭いたと。
「これはね、事故じゃない。ほんの短時間にオーブに罅が入る程の魔法を使ったという事だ」
「ディさん、そんな!」
ずっと大人しく話を聞いていたリア姉が、堪らず声を上げ立ち上がった。今まで見た事がない様なリア姉の表情だ。
リア姉の眼が、驚いているような悲しいような、なんとも言えない眼をしている。俺が見ても分かるくらいに手が小刻みに震えていた。
それを見て、これはただ事ではないと思ったのだ。
「姉上、最後まで聞こう」
「え、ええ。レオ」
いかん、いかんのだ。事故じゃない。それほどの魔法を使う必要があったという事だ。
何に対してそれだけの魔法を使ったのか? しかも母様と父様は、命を落としている。
マリーが綺麗に拭いたのは、母様の血液だったのではないか?
「普通の兵にこんな事が分かるはずない。でも、今回僕が知った。これはこの国の上層部とギルドに報告しないといけない事案だ」
「ディさん、そんなになのですか?」
「ああ、そうだね。君達のお母上は、きっと上級魔法を使える程の人だったのじゃないかな。そんな魔法をオーブに罅が入る程使ったんだ。それにお母上だけじゃないだろう? 剣を使える君達のお父上だっていたんだ。これはただ事じゃない」
まさか、あの叔父という人と戦ったとか? いやいや、そんな事はない。どう思い返してもそんなに強そうな人じゃなかった。どっちかというと、小者感漂う人だった。
「普通の人じゃない。エルフか若しくは……」
「ディさん、何ですか? 言ってください! 母様と父様に何があったんですか!?」
「リア、これは憶測だ。でも確実に言える事は、人やエルフじゃない。もちろん魔獣ではない。対人ならそんな魔法は必要ない。エルフはとても平和的な種族だから、そんな戦いはしない。僕がこの街に留まっている事自体がそうだ。守る為にいるのだから」
ああ、やっぱそうだ。ディさんはずっとこの街を守ってくれているのだ。あのお祭りの夜、川で魔法杖を出して何かをしているのを見てそう思った。
ディさんは一体どれくらいの年月を、そうやって守ってくれているのだろう。
いかん、そんな事を考えていると話についていけなくなってしまうのだ。
「じゃあ、一体何と……」
「本当に憶測なんだ。できれば間違っていて欲しいと思っている」
「ディさん、何ですか!?」
「姉上、落ち着いて」
「だって、レオ。これが落ち着いていられるの!? 得体の知れない強敵に襲われたって事でしょう?」
「いや、襲われたのかも分からない。不幸な偶然なのかも知れない」
「そんな……」
リア姉の大きな瞳が潤んでいる。身体の前でギュッと手を握り締めている。落ち着いて話を聞いている様に見えるレオ兄だって、表情が硬い。
マリーはもう真っ青だ。隣に座っているユーリアが、マリーの手を握っている。
「本当に偶然だったのだろう。僕の考えすぎであって欲しい。多分相手は……魔族ではないかと僕は思う」
それ程の魔法を使わないといけない相手。母様だけじゃない、剣が使える父様も一緒に戦ってそれでも両親は命を落としている。
魔族を、俺は絵本や昔話でしか知らない。
この国には精霊様が魔族を退けたという絵本があるのだ。約300年前に四英雄と呼ばれている人達を助けて、邪神やその眷属達と戦ったと言い伝わっているあの精霊さんの事だ。
その絵本は知っている。この国のちびっ子ならきっと、みんな読んでもらった事があるだろうという位にメジャーなものだ。
ただこの街に伝わる四英雄と、一緒に精霊さんが戦った事は知らなかった。
ルルンデの街ではお祭りがあるほどなのだから、よく知られている事なのだ。
お読みいただき有難うございます!
300話を超えましたね〜
ここまで続けて読んでいただき有難うございます!
これからも宜しくお願いします!
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