294ー元Bランク
ここはご本人に、登場してもらわないといけないだろう。
俺は立ち上がり、スゥーッと息を吸って大きな声で呼んだ。
「どーるーふーじぃー」
こうして、どこから俺が呼んでもドルフ爺は直ぐに来てくれるのだ。
「おう! また出たか!?」
ほら、片手に鉈を持って畑からダッシュで来てくれた。やっぱ早いのだ。
「ちがうのら」
「なんだ、どうした?」
「どるふじい、びぃらんく?」
「は? 何言ってんだ?」
「ほら、冒険者ランクの事よ〜」
「ああ、昔の事だ」
ここは大切なところなのだ。はっきりしておかないと。
「けろ、びぃらんく?」
「まあ、そうだな。もう十年位更新してねーけどな! 元だ、元! ワッハッハ」
「カッコよかったのよ〜」
「へえー」
驚き過ぎて、反応ができない。人って驚き過ぎると、無反応になってしまうものなのだね。知らなかったのだ。こんなところに猛者がいたぞ。
「セルマ、何でそんな話になったんだ?」
「ロロちゃんがね、誰が一番強いかなぁって言うからなのよ〜」
「なんだ、そりゃディさんだろうよ」
「だから、ディさん以外よぅ。リアちゃんと、レオくんでしょう? それに、何てお名前だったかしら?」
「ておしゃんと、じるしゃんなのら」
「ああ、その四人か。そりゃレオだろう?」
「え、けろじるしゃんは、びぃらんく」
「そうなのか? だが、実戦ならレオじゃねーか? あいつはブラックウルフを仕留めていたからな。驚いたぜ」
「へえー」
ふむふむ、レオ兄なのか。それは、リア姉が悔しがるのだ。
「ロロ、リアか?」
「しょうなのら。くやしがるのら」
「いや、リアも分かっているだろうよ」
「しょお?」
「ああ、そうだ。リアもレオに支援魔法を掛けてもらったら、Bランク位になるんじゃねーか?」
なんですとッ!? ドルフ爺、やっぱ普通の爺さんじゃない。そんな事まで分かるのか?
「どるふじぃ、しえんまほー?」
「そうだな。レオが攻撃力アップと防御力アップを掛けているだろう?」
そんな事知らなかったのだ。いやいや、ドルフ爺はどうしてそんな事を知っているのだ?
「そりゃブラックウルフが出た時に、見ていたんだ」
あの時ドルフ爺は、クーちゃんを乗せた荷車を引くので必死だと思っていたのに、そんな事も見ていたのか?
「俺も鉈で殴っていたからな! ワッハッハ」
「ええー」
「あらあら〜」
セルマ婆さんがこんなにおっとりしているのに、旦那さんのドルフ爺はこれだよ。
もう爺なんだから、鉈で殴るとか止めるのだ。アグレッシブすぎるぞぅ。
「あの時はニコもよくやったじゃないか」
ニコ兄が、あの王弟殿下の孫娘を助けに出た時だ。俺はそれはもう驚いた。心臓がキュッてなったのだ。
「うん、ぴゃッてドキドキしたのら」
「何言ってんだ、ロロだって頑張ったじゃないか」
「ふふふん。ららちゃんをまもったのら」
カッコよかったぞと言いながら、頭を撫でてくれる。
このドルフ爺がBランクとは。リア姉とレオ兄が聞いたら、きっとびっくりするのだ。
「あら、みんな知ってるわよ〜」
「えー、ボクしらなかったのら」
それは、あれだ。ここに引っ越して来た当時、俺は外に出るのが怖くてずっと家の中にいたかららしい。だから、知らなかったのだろうと言われた。
「大きくなったな」
ドルフ爺が、感慨深そうな表情をして俺の頭を撫でる。
だから俺は堂々と短いプクプクの指を3本立てて言った。
「しゃんしゃいなのら」
「おう、そうだな! ワッハッハ」
「ドルフ爺! またサボッてんのかよ!」
あ、ニコ兄だ。見つかってしまったね、ドルフ爺。
「サボッてねーぞ。ロロと話してたんだ」
「それをサボッてるって言うんだよ」
ワハハハと、笑いながらドルフ爺は畑に戻って行ったのだ。
そろそろお昼なのではないかな? ディさんはどこ行った?
「ロロ! 見てみて! このお野菜! ほらッ!」
はいはい、今日はどこまで行っていたのかな?
「ドルフ爺が育てたお野菜だよーぉ!」
いつも食べているじゃないか。
「こ~んなに新鮮で元気なお野菜を食べられるなんて、幸せだぁーッ!」
毎日同じ事を言っていると俺は思うのだ。
「ディさん、ロロ坊ちゃま、お昼にしましょうか?」
ほら、マリーが呼びに来た。俺のお腹も鳴ってしまいそうなのだ。
「マリー、僕サラダ作るよ!」
「まあまあ、今日も沢山収穫したのですね」
「そうなんだよー! もうどのお野菜も素敵でさぁ!」
ほう、お野菜に素敵なのと、そうじゃないのがあるのかな? 俺は区別がつかないぞ。
「まりー、おなかしゅいたのら」
「はいはい、食べましょうね」
ピカさん、チロさん、お昼ご飯なのだ。
「わふん」
「キュルン」
そして、呼んでいないのにコッコちゃん達も一緒に家に入って来る。もうそれが普通になってしまったのだ。
フォーちゃん達はどこまで行ったのだろう? リーダーはもう慣れたのかな?
「でぃしゃん、りーだーみた?」
「ん? ああ、コッコちゃんのリーダーだね。うん、フォーちゃん達と一緒にいたよー」
お野菜をバッシャバッシャと洗いながら、ディさんが教えてくれた。
リーダーはまだ卵から孵って間もない。それでも。フォーちゃん達にちゃんと付いて行くそうだ。
最初はさすがに孵ったばかりの雛だから、後を追っかけている感じだったらしいのだけど。




