278ーマリーの最上級
「ロロ、何か言ったかしら?」
ついポロッと言ってしまった。リア姉が目を細めて俺を見ている。ヤバイのだ。
「な、なんれもないのら」
「アハハハ! そうかリアはできないのか」
「だって、テオ様!」
「いやいや、僕達の母上だって全然できないさ」
「ほら、ロロ。聞いた? できないんですって」
「れも、ボクはれきるのら」
あ、しまった。また言ってしまったのだ。
「はいはい、ロロ坊ちゃまは器用ですからね」
ふふふ、なんだかとっても楽しいのだ。
テオさん達が来てくれて、少し安心した部分もある。だって、俺達を心配してくれる身内がいるなんて考えもしなかったから。
態々遠くから来てくれたのだ。それはとても嬉しいし心強い。
レオ兄と同じ髪色と瞳の色をしているテオさん。優しそうで明るい人だ。
人懐っこい笑顔が、とっても爽やかなのだ。
夕ご飯が済んだら、マリーの最上級が出たのだ。
「よろしければ、泊まっていかれませんか?」
いつもは、お茶どうぞ~だけど、それの最上級なのだ。これは滅多な事では出ない。
「有難う。でも僕達は宿を取っているから」
「また、明日お邪魔しても良いですか?」
「はいはい、勿論です。ウォルターさんの事もお聞きしたいです」
その日はディさんと一緒に帰って行った。
楽しかったのだ。夕ご飯も美味しかった。
テオさん達が来てくれた事で、リア姉とレオ兄の気持ちも軽くなると良いのだけど。
翌日、いつもの様に庭先でセルマ婆さんと日向ぼっこをしていた。
ピカさんに靠れて、まったりとしていたのだ。チロもピカの上に乗ってトロンとした目をしていた。
「ロロ、おはようー!」
皆勤賞のディさんだ。その後ろにテオさんとジルさんがいた。
「いっしょなのら?」
「うん、ギルドで会ったんだ」
ほうほう、冒険者ギルドの事だな。テオさん達はお隣の国の人なのに、冒険者ギルドに用があるのか?
「冒険者ギルドはね、国に縛られないんだ」
ふむ、だから?
俺が思っていたよりギルドは世界的だったのだ。
色んなギルドがあるけど、各ギルドのギルドタグは共通でしかもそれを持っている人は、ギルドに加盟している国なら入国料が免除されるらしい。
ギルドの仕事によっては、国を跨いで移動する事もあるのだそうだ。そんな時に入国料が免除される。とっても良いシステムなのだ。
「父上にギルド経由で、君達兄弟を見つけたと手紙を出したんだ。それでギルドに行っていたんだよ」
ほうほう、お手紙を。
テオさんのお父さんは、俺達から見れば伯父にあたるのかな。
どんな人なのだろう。会ってみたいのだ。
俺達を心配して、テオさんを探しに出してくれた。優しい人だったら良いのだけど。
「ておしゃんのとうしゃま、ろんなひとなのら?」
「父上か? そうだな、厳しい人だけど愛情豊かで温かい人だよ。ロロ達の事をとても心配しているぞ」
「しょっか」
ふふふ、それは嬉しいのだ。有難い事なのだ。
「リアとレオはもう出掛けたのか?」
「しょうなのら。りあねえがいくっていって。にこにいも、はたけにいったのら」
「冒険者ギルドで会わなかったな」
「リア達は早いんだよ。早く行かないと良いクエストが無くなってしまうからね」
「ディさんは受けないんですか?」
「僕? 僕はロロと遊ぶんだ」
俺と遊ぶというよりも、ディさんがお好みのお野菜を吟味する時間なのだけどね。
「ロロちゃん、話していた人なのかしら?」
「しょうなのら。ておしゃん、じるしゃん、しぇるまばあしゃんなのら」
俺はテオさんとジルさんにセルマ婆さんを紹介した。ドルフ爺さんの奥さんだよと。俺の日向ぼっこ友達なのだ。
はじめまして~と、お互いに挨拶をしていたのだ。
「ロロちゃん、良かったわね~」
セルマ婆さんがニコニコとしながら、俺の髪を撫でてくれる。温かくて優しい手なのだ。
「態々探しに来て下さったのでしょう? 心配してくれる大人がいて良かったわ~」
「うん」
このセルマ婆さんの、おっとりとした雰囲気がとても好きなのだ。
俺が怖くて一人でお外に出られない時に、とってもお世話になったのだ。
「ロロ、今日はロロの魔法杖を作ろうと思ってね」
「でぃしゃん! ちゅえ!」
「そうだよ。色々材料を考えたんだけどさ」
話しながら、家に入る。
「あらあら、ご一緒だったのですね」
マリーが出迎えてくれた。
手にはディさんの麦わら帽子を用意している。いつもの事だから。
「マリー今日はロロの魔法杖を作るんだ」
「魔法杖ですか?」
キョトンとしていた。マリーは魔法杖と言われても分からないかな?
「奥様が立派な杖を持っておられましたよ」
「ああ、叔母上は魔法が得意だと聞いた事がある」
叔母上……そうか、俺達の母様の事なのだ。
「そう、やっぱりレオとロロの魔力量の多さは母親譲りなんだね」
「ディさん、そうなのですか? レオとロロが?」
「そうだよ。この兄弟は見ていて本当に楽しいんだ」
楽しいとは? 俺達はいつも普通に生活しているだけなのだ。
「でぃしゃん、ふちゅうなのら」
「ロロ、普通のちびっ子がゴーレムを作ったりしないよ?」
「え、しょう? コネコネしない?」
「コネコネはするけど、それがゴーレムになって動いたりはしないね」
「しょう?」
アハハハとディさんが笑った。俺もゴーレムを作ったつもりはないのだ。




