277ー心強い
俺達を追い出したあの叔父と言った人は、ちゃんと領地を管理していないのだろう。それは放ってはおけない。
でも領主様やクリスさんに、お願いしている事がちゃんとしてからなのだ。そう、レオ兄が話していた。
なんだか、最近色んな事が起こる。領主様やクリスさん、ウィルさん達とあんな話になっている事も俺は知らなかった。
まさか隣国にある母様の実家から、態々探しに来てくれるなんて想像もしていなかった。
俺は覚えていないけど、執事だったウォルターさんも心配してくれたのだろう。
今は良くても自分達がどうなるのか、あのお邸に帰る事ができるのか? そうリア姉やレオ兄は思っていたはずだ。そこで育って両親の思い出もあるのだから。
俺にはそれがない。覚えていない。覚えているのは、雨が窓を打ち付ける家の中でレオ兄に抱っこされて泣いていた自分だ。
自分達の足元を固める。きっとそれは大切な事なんだ。頭では分かるのだけど、心が嫌だと言うんだ。ここをまだ離れたくないと。
「にこにい……うぇッ……ヒック」
「ロロ、何泣いてんだ」
「らってぇ……びぇ……」
そんな事を考えていたら、涙がポロポロと流れてしまった。ほっぺが涙で濡れていく。
泣くつもりはないのだ。泣いたら駄目なのだ。そう思えば思うほど、涙が止まらなくなってしまう。
「ロロ、泣くなよ」
「にこにい……えぇーん」
「ロロ、無理に連れ帰ったりしないから」
「うん……ヒック……ておしゃん、ごめんなしゃいぃ」
テオさんが俺の頭を撫でてくれる。心配してこんな遠くまで来てくれたのに、ごめんなさいなのだ。
一緒にピカに乗っているニコ兄が、後ろから俺のお腹に手を回してギュッてしてくれる。ニコ兄はどうなんだろう?
ニコ兄もやっぱ帰りたいのかな? ドルフ爺達と離れるのは平気なのだろうか?
「リア姉とレオ兄が、俺達の嫌な事をするわけないだろう?」
「にこにい……」
「ほら、泣いてたらリア姉が心配するぞ。またほっぺにスリスリされるぞ」
「しょれはいやなのら……グシュ」
ジルさんが俺のお顔を拭いてくれた。ニッコリして優しい手つきで。
心配いらないよと、言ってくれているみたいなのだ。
「先ずは、少し落ち着いたら一度遊びに来るといい。父上やお祖父様達も心配している」
「えっちょ、おじーしゃまとおばーしゃま?」
「そうだ、ロロ達のお祖父様とお祖母様だ。会いたいと待っているよ」
そうか、俺達にはお祖父さんとお祖母さんがいるのだ。テオさんのお父さんは、俺達の母様のお兄さんで母様の両親もいる。どんな人達なのだろう。
「食べるよ~! 帰っておいでー!」
ディさんがエプロンをつけたままで、家の前で呼んでいる。
「ぴか、ごはんらって」
「わふん」
家に戻ろう。さっきクッキーを食べたのに、お腹が空いてきたのだ。
――キュルルル
しまった。お腹が鳴ってしまったのだ。だって良い匂いがするのだもの。
「ぶふふ」
「じるしゃん、しかたないのら」
「ふふふ、お腹が空いたんだね」
「しょうなのら」
「ロロ、さっきクッキー食べただろう?」
「しょうなのら、ボクはちびっこらから」
「アハハハ! ちびっ子と関係あるのか?」
「ちいしゃいのら」
何がだよ。自分で言っておいて意味不明だ。
さあ、戻って夕ご飯を食べよう。
「沢山食べてよ! 僕お手製のサラダだ!」
ジャジャジャーン! と、ディさんがいつもの野菜サラダを披露している。
「ここのお野菜は本当に美味しいんだ! おかわりあるからね!」
いや、サラダをおかわりしたりしない。俺はこれだけでも多い。
最近はお客様が多いなぁ。でもこうして一緒にご飯を食べるのは楽しいのだ。
「ロロ、ほら溢すぞ」
「うん、にこにい」
いつも通り、ニコ兄が俺の世話を焼いてくれる。
俺専用のちびっ子用の椅子に座って、大きなスプーンでスープを飲む。
今日のディさんのサラダには、細かく切ったカリカリベーコンがトッピングしてある。
「まりー、これうしゃぎのおにく?」
「はいはい、そうですよ。ロロ坊ちゃまはお好きでしょう?」
「うん、しゅき。やわらかい」
この辺りだとごく普通のお肉だ。鶏肉に似ている。マリーが上手なのだろう、柔らかくてとってもジューシーだ。ナイフを入れると、透明な肉汁が流れ出てくる。
マリーの特製ソースもとっても美味しい。今日はバジル風味のトマトソースなのだ。
テオさんとジルさんには、コッコちゃんの卵のオムレツ付きだ。俺達は毎朝食べているから良いのだ。
「うわッ、テオ様。この卵」
「ああ、うまいな!」
「これがフォリコッコの卵ですか!?」
「はいはい、そうですよ。美味しいでしょう?」
「はい! とっても!」
ジルさんは感激しているらしい。そんなに食べたかったのか。
「だって、昨日も今日も食べられなかったのです」
「アハハハ、そうだったな。しかし、美味しいな。こんなまろやかな卵は初めてだ」
「しかもコクがありますね。それに、フワフワでトロトロだ」
それはマリーの腕なのだよ。ふふふん。マリーは大雑把だけど、お料理は上手なのだ。
「リアも料理するのか?」
「え?」
「クフフフ」
レオ兄、そこで笑ってはいけない。じっと我慢だ。
お口にギュッと力を入れて我慢なのだ。
「ロロ、変なお顔になってるぞ」
「らってにこにい。りあねえは、りょうりれきないのら」
あ、言っちゃったのだ。思わずお口を手で隠す。




