274ードルフ爺は博士?
しまった、余計な事を言わなければ良かった。
思わずクッキーを取る手が止まったのだ。
「ちゃんと生活できているから、ロロだってそう思うのだろう。ロロ、楽しいか?」
「うん、たのしいのら」
「そうか。でも僕達もロロ達の事を心配しているんだ。だから何かあったら遠慮せず頼ってほしい」
「ありがとなのら」
「アハハハ、可愛いな。ロロはご両親のどっち似なんだろう?」
「ロロは髪色や瞳も両親の両方の色を継いでいます。どっちにも似ていますよ」
「ロロは可愛いもの」
だから、リア姉。それは良いのだ。横に置いておいてほしい。恥ずかしくなるじゃないか。
そういうのを世間ではブラコンというのだ。
「さあさあ、今日はご飯を食べていってくださいな」
出た、マリーの必殺技の上級なのだ。普通なら「お茶どうぞ~」だ。次がオヤツ付き、その次が食事だ。最上級はお泊りだ。今日はそれが出そうな勢いなのだ。
「僕がサラダを作るよ!」
はいはい、ディさんはいつでもどんな時でもサラダだ。お野菜大好きなのだから仕方ない。
でも、あまり大きくなくて良いのだけど。どんどんサラダの量が、増えている気がするのだ。
俺なんてサラダだけで、お腹が一杯になっちゃうぞ。
「ロロ、もうクッキーはやめておけ」
「え、にこにい。たべたいのら」
「お腹が一杯になったら夕ご飯食べられないぞ」
「わかったのら」
椅子から降ろしてもらって、お片付けをする。
「まりー、てちゅだう?」
「あらあら、大丈夫ですよ」
「しょう?」
ならコッコちゃん達を見て来よう。リーダーが気になるし。
「コケッコ」
「クックック」
「コケ」
「ピヨ」
お、帰って来たのだ。ニコ兄を探しているのかな?
ちゃんと黒いリーダーも一緒にいる。仲良くしているみたいで良かったのだ。
「コケ」
「しょう?」
「クック」
「うん、しょうして」
「コッコ」
「きょうらいらからね」
リーダーの事を、お利口アルね。なかなかできるアルね。良い子アルね。と口々に報告してくる。
そうだよ、兄弟なのだから仲良くしてね。
「ロロは、もしかしてフォリコッコの言う事が分かるのか?」
「うん、ておしゃん。ボクはていまーらから」
ふふふん、ちょっぴり自慢気にお胸を張って見よう。両手は腰なのだ。
「ええ? テイマーだとそうなのか?」
「しょうなのら。みんなしぇいれちゅして、ごあいしゃちゅなのら。ふぉーちゃん、りーちゃん、こーちゃん、りーだー」
「え、それ名前なのか?」
「しょうなのら」
コッコちゃん達はちゃんと並んで、コケッとご挨拶している。お利口さんなのだ。
「一羽だけ黒いんだな。少し小さいか?」
「うん、きのうかえったのら」
「え、昨日なのか?」
「しょう、りーだーなのら」
「おー、リーダーか。最後に孵ったのにリーダーなのか?」
「しょうなのら。れおにいとボクのまりょくれ、あたためたのら」
「フォリコッコの卵には魔力が必要なのか。それは凄い発見だ。ロロ、近所を案内してくれないか?」
「うん、いいのら。ぴか」
「わふん」
俺はちびっ子だからね。ピカさんに乗るのだよ。ヨイショッと。
「慣れているなぁ~」
「いちゅものってるのら」
「ロロ、走ったら駄目よ」
「あーい」
リア姉はいつもそう言う。そんな無茶な事はしないのだ。俺は大人しいから。
マリーに、もう直ぐ夕食ですから遠くに行かないでくださいねと言われた。
テオさんとジルさんと一緒にお外に出ると、ドルフ爺がクーちゃんにお野菜をあげていた。
「おう、ロロ」
「どるふじい」
「あなたがドルフ氏! て、デカッ!」
うん、クーちゃんの事だね。来た時には気付かなかったのかな? こんなに存在を主張している大きさなのに。
「くーちゃん、かめしゃん」
「お、おう。驚く事ばかりだ」
「アハハハ、クーちゃんはデカイからな」
「どるふじい、ておしゃんとじるしゃん」
「俺達の従兄なんだって」
「ニコ、そうなのか?」
「ドルフ氏の野菜の研究は、我が国でもとても有名ですよ」
「おう?」
「お隣の国から来たんだ」
「隣国って事は、アナトーリア帝国か?」
ドルフ爺、知っているのだね。やっぱ博識なのだ。農家のお爺さんは仮の姿で、本当は超優秀な博士とか? 凄いのだ。
「どるふじい、はかしぇなのら?」
「ああ? あんだって?」
「ドルフ爺は野菜博士なのか? て、聞いてんだよ」
「何言ってんだ。ただ野菜を育てているだけだぞ」
「いやいや、貴方の研究は学院でも教わりますよ」
「そうなのか? それは知らねーな。ワッハッハッハ」
どうやら無自覚らしい。ドルフ爺はきっと、美味しくしようと色々考えたのだろう。それが、とっても素晴らしい事だったのだ。
「どるふじい、しゃしゅがなのら」
「ロロ、何言ってんだ。コッコちゃんにも野菜をあげといたぞ」
「ありがと」
なんだかとってもアッサリと躱された。どうやらドルフ爺は、本当にそんなつもりがなかったらしい。
そういえばリカバマッシュを育てるのも、あーだこーだと楽しんでやっている。楽しいのが一番なのだ。
「あ……にこにい」
「おう、ロロ」
「え? なんだい? どうした?」
「ククク」
ジルさんは何故か笑っている。分かっているのかな? もしそうなら、なかなか鋭い観察眼なのだ。視界の隅っこで、動いただけなのだから。




