273ーここがいい
「レオ、何ずっと笑ってるのよ」
「だって姉上、ロロったら自分は関係ないみたいな顔をしているから」
「ふふふ、そうね。可愛いわ」
リア姉、そこじゃない。可愛いとは誰も言っていない。
「それで、アウレリア、レオナルト」
「あ、私はリアでいいです」
「僕はレオで。この街ではそう名乗っているんです」
「じゃあ、リア、レオ。みんなでうちに来ないか?」
俺達が知らない、会った事もないお祖父さんやお祖母さんが、心配してくれているとテオさんが言った。
「君達の父上が治めていた領地は今どうなっているんだ? それも考えないといけない。ウォルターは不当なやり方だと言っていた。あんなのは乗っ取りだと怒っていたよ。うちで落ち着いて対処法を考えないか?」
「有難うございます」
「会った事もない僕達の事を、気に掛けて下さっただけで充分嬉しいです」
「そうです。お会いした事もないのに。私達はお母様から何も聞いていなくて」
「そうなのか。婚姻する時に色々大変だったらしい。君達の母上は、皇太子殿下の婚約者候補にとの内々の話も出ていたそうなんだ。それを辞退しての事だったから、もう里帰りできないと覚悟して婚姻されたそうだ」
母様はそんな気持ちだったのか。
隣国なのだもの。婚姻するのだって大変だったのだろう。
この世界は国が違うととても不自由だから。その上、皇太子の婚約者候補なんて、とんでもない事だ。よく家が無事だったのだと思う。
「でも、この街で色々力を貸して下さる方がいるんです」
「そうなのか? て、君達だけで暮らしているのか?」
そうなのだ。リア姉とレオ兄が毎日クエストを受けて、それで俺達は暮らしている。
それに領主様やクリスさん、ギルマスもそうだ。ドルフ爺やディさんも俺達を気に掛けてくれる。だから俺達は大丈夫なのだ。
「でも、リア、レオ。君達は退学したんだろう? アナトーリアで学院に入り直さないか? まだまだ学ぶ事はあるだろう?」
「それも、今お願いしている事が片付いてから考えようかと」
ん? 何なのだろう? レオ兄が話してくれた事なのかな?
「ロロ、あれだろ。家の事だろう」
「にこにい、しょうなの?」
「ほら、ギルマスが貴族だからどうとか言ってた」
「あー、しょうら。じぇんじぇん、きじょくにみえないのら」
俺達外野の事は、気にしないでほしい。俺達が喋る度に、こっちを見るのは止めてほしいのだ。
「何かしようとしているのか?」
「はい。実は」
レオ兄が話した。やっぱりあの事だった。調査の申立てをしている事だ。
えっと、王弟殿下のウィルさんも力を貸してくれると言っていた。
そういえばあの令嬢、孫娘だっけ。なんて名前だったっけ?
「えっとぉ」
「ロロ、何だ?」
「あのれいじょう、なんらっけ? おなまえ」
「令嬢?」
「しょう、にこにいが、たしゅけたれいじょう」
「ああ、リュシエンヌか?」
「しょうしょう」
翌日やって来た時には別人みたいに大人しくなっていたけど、どうだろうなぁ。
「まあ、レベッカよりずっとマシだぞ」
「しょう?」
「ああ。まだ素直だ」
「へえー」
「アハハハ!」
俺とニコ兄が話していると、またレオ兄が笑っていた。
「マリー、君はどう思うんだ?」
この家で唯一の大人だもの。マリーの意見は大事なのだろう。
「私は、リア嬢ちゃまとレオ坊ちゃまに復学して頂きたいと思っています。でもその前に家の事をはっきりさせたいと、思っておられる気持ちも理解できます。坊ちゃま達は大丈夫ですよ。しっかりやっておられます」
「そうかい?」
「はい」
マリーのお墨付きだ。でもマリーがいてくれたから、俺達はこうして生活できている。マリーはとっても大切なのだ。
「しかし、この子達はまだ子供だ」
「大丈夫だよ。僕も付いている」
「ディさん」
なんだかよく分からないけど。
「れも、とおくにいくのは、いやなのら」
「ロロ」
「らってにこにい、どるふじいやしぇるまばあしゃんと、はなれるのはしゃみしいのら」
「お隣なんです。さっき一緒にいたのがドルフ爺で、その奥さんがセルマ婆さんです」
「そのドルフ爺って、もしかしてあの野菜博士と言われているドルフ氏か?」
ええ!? ドルフ爺って隣国でまで有名なのか? 野菜博士なのか? やっぱり博士だった。そうじゃないかと思ったのだ。うんうん。
「そのドルフ氏だよ。この街ではドルフ爺と呼ばれているんだ」
「ディさん、どうなっているのですか? この兄弟は一体!?」
「アハハハ、そう思うよね。偶々なんだ。みんなこの四兄弟が可愛いんだ」
俺達は偶々ドルフ爺のお隣に引っ越してきて、偶々仲良くなって、偶々色んな人達と出会った。
悲しい事や辛い事も沢山あったけど。でも俺は……
「ボクはここがしゅきなのら」
「ロロ、黙っていよう」
「らって、にこにい」
ニコ兄が真剣なお顔をしていた。だから、俺も黙ったのだ。
ここが良いと、みんな一緒が良いと思うのは俺の我儘なのだ。
「とにかく、今お願いしている事がハッキリするまではこのままです」
「レオ、そうなのか?」
「はい。領主様や色んな方にお世話になっているんです。その結論を知るまでは」
「そうか、分かった。だがいつでもうちを頼ってほしい」
「テオ様、良いのですか?」
「良いも何も、ロロがああ言っているんだ」
え、俺なのか?




