27ーディさんと昼食
それから、エルフのディさんと一緒に昼食を食べた。食べながら色んな話をしたのだ。
ディさんが連れて行ってくれたのは、街を見下ろせるような少し高台にあるお店なのだ。
お天気が良いから、景色の良いテラス席で食べる。オシャレなのだ。前世でもこんな席に座った事ないぞ。
ピカも足元で、焼いた大きなお肉を貰って食べている。わふわふと言いながら豪快に齧り付いている。
チロはレオ兄のお膝の上だ。目立たないように、レオ兄から薄くスライスしたお肉を貰っている。
俺達は、トマト味のシチューだ。鶏肉みたいな肉が柔らかく煮込まれている。
焼きたてのふわふわパンからは、香ばしい良い匂いがしている。丸いパンの真ん中を切ってあって、とろけるチーズが挟んである。
ディさんの野菜サラダだけ、超特盛りなのだ。だってサラダプレートの大きさが違う。あれはサラダプレートと呼んでも良いのか? て、位の大きさだ。
その超特盛のサラダを、シャクシャクと美味しそうに食べるディさん。
俺は先ずはシチューからだ。レオ兄が、汚れ防止の為のハンカチを俺の首に掛けてくれる。
「んまい」
「だろう? ここは僕のお気に入りの店なんだ。この兎肉が入ったトマト味のシチューは大好きなんだ」
「うん、うまうまら」
「アハハハ、可愛いねー」
ディさんのお話を沢山聞いたのだ。
ディさんは、この国では有名なエルフさんらしい。
国の端っこ辺境伯領にも1人いるそうなのだ。でも辺境伯一家が気に入って、そこでずっと先生をしていて全然出てこないらしい。
あともう1人この国で有名なエルフがいるそうだが、その人は女性の薬師で今はエルフの国に旦那さんと一緒にいるそうなのだ。
その3人がこの国では有名なエルフさんらしい。
そんな話を聞きながら食事をしていた。食べ終わった頃、少しディさんの雰囲気が変わったのだ。
「ギルマスの前では言わなかったけど、君達貴族だね。家名のあるのが見えたんだ」
ディさんが持つ『精霊眼』は全部見える。そう言っていた。俺達のフルネームが見えていたのだ。
「え……と、あの……」
「ああ、他言はしないから大丈夫だよ。何か事情がありそうだから黙っていたんだ。貴族のご子息が、冒険者をしているなんて普通じゃないからね」
「レオ……」
「姉上……」
「ほら、レオ。その呼び方もだよ。庶民は『姉上』なんて呼ばないよ?」
「まりーは、ぼっちゃまじょうちゃまってよぶのら」
「ん? マリー?」
「マリーは、今一緒に暮らしている僕達の乳母で……」
と、レオ兄が俺達の事情を話したのだ。俺達が家を追い出され、この街に住む事になった経緯をだ。
ディさんは、黙って真剣に聞いてくれた。特盛サラダを食べながら。
「そう……だからリア。君は焦っているのかな?」
「焦っているつもりはなかったのです。でも、私達では何もできなくて……調べる事さえできないんです」
「そうだね、君達はまた子供だ」
「もう、17歳です!」
「まだ、17歳だよ。確かに貴族だと、早い人は婚姻しているかも知れない歳だけど。でも、まだ17歳だ」
いつも元気に明るいリア姉が、そんな事を考えていたなんて俺は全然気がつかなかったのだ。
レオ兄は、気付いていたのかな?
「だから、姉上。焦っても駄目だと言ったのに」
「だって、レオ……」
レオ兄は、知っていたのだ。そんな話を2人でしていたのだろう。
もしかしたら2人で何かしようとしていたのかも知れない。
俺はまだ2歳だったから覚えていないのだ。両親の顔も覚えてないし、今の暮らししか知らない。
だから、そんな事も考えた事がなかった。
「私は……私はレオが継げるようになるまで、お父様を手伝いたくて領地経営も教わっていたのです。なのに突然、叔父だという人が現れて……」
「それも、誰も知らなかった。そんな事、どう考えても納得できない」
「なるほど……そうだね。この話を知っている人は他にいるのかな?」
「びおじい」
「ん? ロロ、何て?」
「びおじい。教会のししゃいしゃま?」
「ああ、ビオ爺か。アハハハ、ロロはビオ爺を知っているんだ」
「うん、まりーと一緒にあったのら。まりーとびおじいは仲良しなのら」
「ロロ、そうなの? 知らなかったわ」
「だから、バザーなのかい?」
「しょうなのら」
「ああ、例の我儘令嬢に目をつけられたバザーだね。あの子は困った子だよ」
前に『うまいルルンデ』のご主人が話していた、見目の良い男性を、連れて帰ると言い出したという話。
その『見目の良い男性』がディさんだったのだ。確かにとびきり見目が良い。
「信じられないわね、あの令嬢」
「アハハハ! 僕も驚いたよ」
ディさんは笑っているけど、とんでもない事なのだ。
街を歩いていて、突然言われたそうなのだ。よく1人の人を連れて帰るなどと言ったものなのだ。その発想が理解できない。
「あのまま育つと、社交界デビューをしてもシャットアウトされるだろうね。それも、自業自得だ」
「しゃこうかい?」
「貴族の世界でね、あるんだよ」
「ふぅ〜ん」
よく分からないのだ。貴族は色々あるみたいだ。そうでなくても、あの性格はダメダメなのだ。
「世の中そんなに甘くないって事だよ。ロロは良い子だから関係ないよ」
ディさんはそう言いながら、俺のほっぺを拭いてくれた。悪いな、シチューが付いていたのだ。
「ありがと」
「うん、いい子だ」
そのお店で、ディさんとは別れたのだ。
「また会おう。ロロもね」
「うん」
「リア、レオ、君達も良い子だ。怪我しないように頑張るんだよ」
「はい!」
「有難うございます」
ディさんは手を振りながら、キラキラの髪を靡かせて颯爽と去っていった。去り方まで綺麗なのだ。
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