266ーコケッコー
俺はまだ頭が起きていない。むにゃむにゃと、もう一度レオ兄にくっついて眠ろうとする。だってまだ眠い。早すぎるのだ。レオ兄が背中をトントンするから余計だ。
「コケッコーッ!」
「クックックーッ!」
「コケッコケーッ!」
ああ、もう分かったよ。起きるのだ。どんどん鳴き声が大きくなっているじゃないか。
「れおにい、きっとしょうら。ひながかえったのら」
「ああ、そっか。言ってたね」
と、またコッコちゃんが鳴いている。これは起こそうとして鳴いているよね。
「コケッコーッ!!」
「クックックーッ!!」
「コケッコケーッ!!」
そんなに急がなくても、起きたら見るのに。
「れおにい、おきるのら」
「そうだね、ふふふ」
レオ兄も苦笑いだ。こんなに煩く呼ばれるとは思わなかったのだ。
フォーちゃん達が孵った時だって、こんな事はなかった。大人しく、俺達が起きるのを待っていたのに。
どうしたのだろう? もしかして、失敗だったとか?
レオ兄と俺の魔力で温めて、とっても凄いコッコちゃんになるはずなのだ。あのやんちゃなフォーちゃん達を、統率するような凄いコッコちゃんに。
部屋を出ると、お隣の部屋で寝ていたリア姉が顔を出した。眠そうなお顔をしている。
「レオ、ロロ、コッコちゃん達どうしたの?」
「姉上、おはよう」
「まだ早いわよぅ」
と、言うだけ言って、リア姉はもう一度眠るらしい。ベッドに戻って行った。
「レオ兄、ロロ、これって孵ったから呼んでいるんだよな!?」
リア姉と同じ部屋で寝ていたニコ兄が、交代で起きてきた。とってもテンションが高い。俺はまだ眠いのだ。
「そうみたいだね。あんなに騒いでどうしたんだろう」
「見に行こうぜ!」
ああ、本当に俺はまだ眠いのだ。と、フラフラと歩いていたら、レオ兄に抱っこされた。
「ロロ、階段だ。危ないよ」
「れおにい、ねむいのら」
「アハハハ、でも見に行こう」
「うん」
俺達は外に出てみて驚いた。
3人揃って、並んでポカーンとお口を開けてしまったのだ。
直ぐには頭が動かなかった。寝起きだからね、早くに起こされちゃったから。
そして、とっても自慢気……いや満足気な親コッコちゃん達。やり遂げたと、胸を張っている。
見に来るのが、遅いじゃないかと言わんばかりだ。
「なんれら?」
「この色なのか?」
「これって、どうなんだろうね?」
そこにいたのはフォーちゃん達の時と同じ様に、普通の雛よりも一回り大きくて色の違う雛だった。
その色というのが、とっても意外なのだ。俺は全然予想できなかった。
「まっくろくろ?」
「だな」
「鶏冠はまだないのかな? 何色になるんだろう?」
レオ兄もまだ頭が起きていないのかな? 意味の分からない事を言っている。鶏冠の問題ではない。
俺が言った様に、真っ黒なコッコちゃんの雛が一羽、ピヨピヨと鳴いていたのだ。
全身真っ黒だ。まだフワフワだけど、黒く艶のある羽毛は光の加減で緑に光って見える。足、爪、くちばしが何故か淡いピンク色をしている。それがとっても雛らしさを醸し出している。
だけど黒いからかな? どこか威厳のようなものを感じさせる。立派な雛なのだ。
あれか? 戦隊ものでもブラックって出て来るよね、特別感を出してさ。そんな感じの立ち位置なのかな?
「れおにい、これってしぇいこう?」
「ん? ああ、成功って事かな?」
「しょうなのら」
「どうだろうね」
「でも、大きいぞ」
「そうだね。アハハハ」
レオ兄、笑ってないで見て欲しいのだ。
最近、本当によく笑うようになったのは良いのだけど。
俺はその真っ黒な雛を、短い指でビシッと指差して言った。
「れおにい、みて」
「そうだよ、レオ兄」
「え? 僕が見るの?」
レオ兄が見ないで誰が見るのだ? レオ兄しか鑑定できないのに。俺が鑑定眼を持っているなら、絶対に見る。速攻で見るのだ。
「いや、ディさんが来るのを待つのかと思って」
「らって、れおにいもみれるのら」
「そうだよ」
「ん~、けど僕はディさん程じゃないよ?」
「いいのら。みて」
「おう、見て」
ニコ兄と二人で腕を組んで要求した。ちょびっと偉そうなのだ。部長クラスの風格なのだよ。ふふふん。
俺は幼児体形だけども。しかもまだお着替えをしていない。髪もピョンピョン跳ねている。
「でも、ディさんにも見てもらうんだよ」
「わかったのら。みて」
「早く見てくれよ」
「分かった分かった」
レオ兄がじっと黒いコッコちゃんの雛を見た。
ふと、その時気付いた。フォーちゃん達が遠巻きに見ている。三羽並んで、こっちをジッと見ている。
どうして、寄って来ないのかな? もしかして、新しい雛がいるからなのかな?
あれれ? ふぉーちゃん達、ちょびっとだけ鶏冠が生えてきていないか? 頭の部分にピンク色の小さな鶏冠がある。
だからレオ兄は、鶏冠がどうとか言っていたのか。気付かなかったのだ。
「そうだよ、ロロ。最近生えてきたんだ」
「しらなかったのら」
「で、レオ兄。どうなんだよ」
「ああー、よく分からないなぁー」
「ええー」
「なんでだよー」
とっても期待を込めて待っていたのに、それはないだろう?
ニコ兄と一緒にガックリとしたのだ。




