265ー泣いちゃったのら
「ろうしたの?」
「コッコッコ」
「しょうなの?」
「クックー」
「たのしみらね」
「コケッコ」
ふふふ。そうか、そうなのか。
「ロロ、コッコちゃん達は何て言ってんだ?」
「にこにい、もうしゅぐたまごからひながかえるって」
「僕とロロが温めた卵かな?」
「れおにい、しょうなのら」
「それは楽しみだ」
「ふふふ」
うん、今日も楽しい。俺はパクッと大きなお口を開けてチーズケーキを頬張った。
「ニコ、ロロ、話しておかないといけない事があるんだ」
チーズケーキを食べ終わる頃、レオ兄が真剣なお顔で話し出した。
俺達兄弟の事だ。領主様にお願いしていた事に進展があったらしい。俺達の貴族籍が残っている事もはっきりした。
「なんだよ、ならどうして俺達は家を追い出されたんだよ!」
話しを聞いてニコ兄が、怒っている。そりゃそうだろう。
でも俺は、そうなのか……としか思わなかった。だって、覚えていないから。
俺達が住んでいたというお邸に、何も思い出がないからなのだ。
「ニコ、これから調査の申立てというものをしてもらうんだ。それで色々明らかになると思うよ」
「そう、そうなのか?」
これから調べて欲しいと申立てをすると言う事だな。
俺は足をプランプランさせながら、じっと聞いていた。
「ロロ、今すぐどうこうという訳じゃないからな」
「そうよ、ニコやロロが嫌な事はしないわ」
「りあねえ、れおにい」
「けど、帰れるんだろう? 俺達の家に、帰るんだろう?」
ああ、ニコ兄もやはりそんな感覚なんだ。俺だけだ。俺だけ自分の家だと思っているのはこの家だ。
そう思うとちょっぴり寂しくなってしまう。マリー、俺はこの家がいい。とマリーを見る。
「ロロ坊ちゃま、レオ坊ちゃまが仰ったでしょう? 今すぐどうこうではないんですよ」
「まりー」
「ロロ、姉上も言っただろう? ロロやニコが嫌な事はしないよ」
「れおにい、れも……」
リア姉やレオ兄の事を思うと……それに、あの領地だって放ってはおけない。それはよく分かるんだ。
だって、俺達が行った時だってスライムが増殖していて大変だった。
「まだ僕は領主を継げる歳じゃないんだ。だからどっちにしろ、領主代理をしてくれる人を探さなきゃいけない。僕はまだまだ勉強しないといけないんだ。クリスさんがね、支援してくれるそうだ」
「れおにい、がくえん?」
「うん。多分ね」
「れおにいと……ヒック、はなれるの?」
「ロロ……」
いつの間にか、俺の目からポロポロと涙が零れ落ちていた。
全然、意識していなかった。なのに、俺のほっぺが涙で濡れていく。
ほっぺを伝って、俺のお手々にポトポトと涙が落ちてくる。
「ロロ、大丈夫よ。ロロが寂しい思いをしないように考えるわ」
「りあねえはがくえんにいくのら?」
「私は行かないわよ」
「ろうして? りあねえもいくのら」
「ロロ……」
だって二人共途中で辞めて、冒険者をして俺達を食べさせてくれている。
学園に行けるのなら、レオ兄だけじゃなくリア姉だって学園に復学する方が良いに決まっている。
「そうだよ、リア姉だって行くべきだ。嫌とか言ってたら駄目だぞ」
「ニコ」
「ロロには俺が付いている。マリーだっている。ドルフ爺やセルマ婆さんだっている。毎日ディさんが来てくれる。だから大丈夫だ。リア姉とレオ兄は学園に戻る方が良いぞ」
ニコ兄が、まさかの『俺が付いている』発言。ニコ兄ったら最近とっても大人なのだ。
ブラックウルフの討伐の時だって、大人顔負けの行動力でリュシエンヌを救った。
「うえぇ~ん……にこにいー!」
「ロロ、泣くな。これはリア姉とレオ兄には必要な事なんだ。分かるな?」
「うえ、うえぇッ、ええぇーん」
俺はただ泣いていた。これじゃあ1年前に家を追い出された時と変わらないじゃないか。俺は何も成長していない。
「まだ具体的にどうこうといった事ではないんだ。ただ、そんなお話になっているよとニコやロロも分かっていてほしい」
「ロロ、泣かないでちょうだい」
「うん……ひっく」
良いお話なのに、俺が泣いちゃったから変な空気になってしまった。
ごめんなさいなのだ。だって、リア姉やレオ兄と離れないといけないと思ってしまったのだ。
翌朝、早朝、まだお空もちゃんと全部明るくなっていない位の時間。
チチチと早起きの小鳥さんが鳴いていたりする。いつもならまだ夢を見ているかも知れない位の時間なのだ。
昨日泣いちゃったから、ちょっぴり瞼が重い。
そんな事を考慮してくれる訳はなく、うちはコッコちゃんの鳴き声で朝が始まる。
「コケッコ!」
「クックック!」
「コケッコケ!」
コッコちゃんの声で、俺は目が覚めた。
ああ、賑やかなのだ。近所から苦情がきてしまうぞ。いや、こないけど。
だって、この近所はみんなコッコちゃんの卵を順に食べているから。お世話も交代でしているのだ。
それにしても、今日は賑やかなのだ。いつもはこんなに鳴かないのに。
「コケッコッ!」
「クックックッ!」
「コケッコケッ!」
本当に今日は特に煩い。目が覚めちゃって、モゾモゾと動いてレオ兄にくっついた。
「ロロ、もしかしてコッコちゃん達は呼んでいるんじゃない?」
くっついた俺を、ふんわりと抱っこして背中をトントンしながらレオ兄が言った。




