261ー僕達の事 3(レオ視点)
「まあ、少し時間はかかるだろうが詳細を明らかにできるだろう。それと私はもう一つ考えて欲しい事がある。君達はまだ子供だ。本来なら学園に通っているはずだろう? レオはまだ継承ができない歳だ。領地経営も学ばないといけない。何にしろ代理は置かないといけないだろう。信頼できる人物も探さないといけない」
「私が、レオが継承できる歳になるまで代理をします!」
「リアだってまだ学園に通っている歳だろう? 君は少し落ち着きなさい」
領主様に言われた。姉上の気持ちも分かるんだ。駄目だと諦めかけていた事が、急に可能性が出てきたのだから。気が逸るのも分かる。
「申立てをするにしろ、リアが代理になるにしろ、どっちにしろ手続きが必要だ。それに、その叔父だと言っている者はもちろん調べられる。多分その者は捕らえられる」
「え、そうなんですか?」
「ああ、そうなるだろうね。不当に手続きをしたんだ。本当なら君達兄弟を追い出すなんて事はできない。そんな立場でもない。これは一貴族を乗っ取ろうとした事件なのだから。申し立てが受理された段階で、その叔父という者には監視がつくかも知れないね」
王弟殿下がそう話してくれた事で、姉上は座った。
僕達が思っていたよりも、ずっと大きな事なのだとやっと理解した。きっと姉上もそうなのだろう。
「誰かを代理として実務をさせて、レオが目を光らす事もできる。貴族籍が残っていると分かったんだ。出来れば学園にも復学してもらいたい。もっと色んな事を学んで欲しいんだ。レオが実際に領主の仕事をするのは、専門的な事を学んでからでも遅くはない。本当なら親に付いて何年も掛けて学ぶ事なんだ。だが、君達には色んな選択肢ができたという事だ」
「でも僕は学園に通うだけの……」
「それは心配しなくても良い」
クリスさんが口を挟んだ。フィーネとマティが頷いている。
「我が家が全面的に援助する。父上もそのおつもりだ。初めからそのつもりで、今回の話を承諾している」
「いえ、クリス様。そんな事をして頂く訳にはいきません」
「君達は貴族の支援制度を知らないか?」
そういえば、そんな事を習ったような。支援をしている貴族は、税を少し優遇されるのだったかな?
「そうだね。将来有望だと思った者に、貴族が支援する制度がある。それで学園には復学できる。リア、君もだ。我が家は君達を優秀だと認めている」
「クリス様、私はいいんです」
「遠慮しなくても良いんだよ? 君達二人を学園に通わせる事位、我が家には造作もない事だ」
ああ、姉上が言いたい事が分かった。裏表のない真っ直ぐな姉上らしい。
「有難うございます。でも、私はもう貴族が信じられないんです。学園を退学した時に思い知らされました。それに、冒険者が性に合っているんです。私より、ニコとロロに教育を」
「ああ、ニコとロロか。二人とも聡い子だ。もちろん、我が家が喜んで援助しよう。その内レオが領主の仕事をするようになったら、そんな心配もなくなるさ。それに君達はフィーネとマティの命の恩人だ。その恩も返させてくれないか」
ああ、僕達の未来が見えて来たと思ったら、身体が震えてしまった。
今まで闇に覆われて先が見えないと感じていた未来に、光が射した気がした。
毎日暮らしているけど、僕達の将来はどうなるのだろうと不安になる事もあった。
ニコとロロに教育を受けさせられる事は、とても嬉しい事だ。
「とにかくレオだけでも学園に復学しないか?」
それは……嬉しい。と、いうか僕には必要な事なのだろう。
今後、必要になるだろう知識を付けないといけないから。
「少し考えさせてください。どっちにしろ、先ずは家の事をはっきりさせたいです」
「まあ、そうだな」
いくら貴族籍が残っていたとしても、今は貴族として生活している訳ではない。姉上と一緒に冒険者の仕事をして暮らしている。
なにより家の事がはっきりしないのに、学園にだけ戻るというのも何か違うと思ったんだ。
「王弟殿下、もう一点宜しいですか?」
「ああ、フォーゲル卿」
「リア、レオ、母君のご実家の事を何か覚えていないか?」
母上の実家。突然どうしてその話が出てくるのか、全然分からなかったのだけど。
「父より家格が上のご令嬢だったので、本当は婚姻も難しかったと聞いてます」
「そうか」
「領主様、何か分かった事があるなら教えてください。私達は母の事をあまり知らないんです。だから知りたいです」
姉上の言う通りだ。僕だって知りたい。
僕達兄弟には、とても優しい母だった。まだ赤ちゃんだったロロを愛おしそうに見つめながら抱っこしている母。それが今でも目に浮かぶ。
でも、母の婚姻前の事や実家の事なんて殆ど聞いた事がなかった。
領主様が貴族簿を閲覧した時に引っ掛かったらしい。それが母の旧姓だ。
「オードランとあった」
「フォーゲル卿、それは本当なのか?」
「はい、殿下。確かに確認しました。私も驚いてクラウスと一緒に何度も見直したのです」
どうして驚くのか分からなかった。僕達は母上の旧姓さえ知らなかった。何も知らなかったんだ。




