260ー僕達の事 2(レオ視点)
「そうなんだ……」
「どういう事ですか? ならどうして私達は、追い出されなくちゃならなかったんですか!?」
「姉上、それは領主様に聞いても分からないよ」
「だってレオ、悔しいじゃない!」
姉上が怒るのも無理はない。俺達はやっぱり貴族のままだったんだ。
でも驚いたのはそこじゃなかった。叔父だと言っていた人物だ。僕達の家系には叔父はいなかった。貴族簿には、領主代理として届けてあったんだ。
「ふざけているわ! どういう事なのよ!」
「リア落ち着いて聞きなさい。私達もおかしいと思って詳しく見てきたんだ」
領主様が胸元からメモを取り出して、それを見ながら説明してくれた。
きっと貴族簿を見ながらメモしてくれたのだろう。そこまでしてくれる気持ちが嬉しい。
僕達を追い出した叔父だ。父の弟だと話していた。
実際に父には、一時期弟と呼べる人がいた。ただし、血が繋がっていなかったんだ。
父の父が早くに奥さんを亡くして、一時期後妻を娶っていた事があったらしい。だが一年も経たずに、直ぐに離縁をしていた。その後妻の連れ子だったんだ。
僕達から見た祖父だ。祖父もどうしてそんな事をしたのか、今となっては知る者もいないだろう。
その後妻の連れ子がどこから聞きつけたのかは分からないけど、僕達の両親が亡くなってから乗り込んできたという事らしい。
いや、厳密に言うと叔父でも何でもない。正式に離縁しているし、実際に血縁関係がある訳でもない。赤の他人だ。
だから領主代理が精一杯だったのだろう。
「そうなんだ……」
「リア、レオ、どうしたい? とにかくその自称叔父という人物を追い出したい。今すぐ帰りたいと言うなら、調査を通り越して法的な手段を取る事もできる」
法的な手段か。そうしたら、僕達の方が勝つという事なのだろう。だって血縁関係にはないのだから。
「そんなの決まっています!」
そういいながら、姉上はバンとテーブルを叩いて立ち上がる。
姉上は直ぐに熱くなるから。気持ちも分かるのだけど。
「姉上、待って」
「レオ、どうしてなの!? 家に戻れるのよ、レオが領主になれるわ。お父様の跡を継げるのよ!」
そんなの僕だって分かっている。僕もそれを望んでいるんだ。だけど。
「姉上、ロロとニコの気持ちも考えたいんだ」
「どういう事なの?」
「ニコは未だしも、ロロはこの家しか知らない。覚えていないんだ。この家に来た頃のロロを覚えている?」
「もちろん覚えているわ。一人で外に出られなくて、家の中でも誰かの服の裾を握っていて、毎日夜泣きして見ていられなかったもの」
「そうだよ。それが、マリーやドルフ爺、セルマ婆さんのお陰で一人でも平気になったんだ。歩いて教会にも行けるようになった。ピカに乗って畑を走り回れるまでになったんだ」
そのロロが、今この家を離れるとなるとどう思うか。
少し前にロロが僕に言っていた事がある。ベッドの中で、僕にくっつきながら言ったんだ。
何かを感じ取っていたのかも知れない。
「みんないっしょがいいのら」
その『みんな』には、きっとディさんやドルフ爺達も含まれているのだと思う。
邸に戻るとなったら、ロロはきっと嫌だとは言わない。自分の気持ちを抑え込むだろう。
また悲しい思いを、させるかと思うと……僕は考えてしまう。
せめて、ロロがもう少し大きくなるまではと。少しずつ慣れるようにできないかと考えてしまう。
「だって……レオ!」
「分かっている。姉上、分かっているんだ」
ここまで分かったんだ。ずっとこの家にいる訳にはいかない。僕達は帰るんだ。両親と一緒に暮らしたあの邸へ。
お墓参りの時にも思った。このまま任せてはおけないと。
領地の人達が困っている事も分かっている。でも、それでも僕はロロの気持ちを守りたい。
そうしながら、領地に関わる事はできないのかと考えてしまう。
「慌てて決める事もない」
黙って聞いていた王弟殿下が口を開いた。穏やかな声だった。余裕のある大人なんだ。
「殿下……そうでしょうか?」
「ああ。今回フォーゲル卿が確認してきた事で、申立てをするにも有利な状況になった」
確かにそうだ。調査の申立て、それも目的だった。どうしてこんな事になったのかも知りたいんだ。
「その調査の申立てなんだが」
領主様がこれからする事を話してくれた。
「アウグスト卿、私、ギルマス、これで申立てができる。殿下が仰ったように、君達の貴族籍が残っているのに不当に追い出されたという事実がある。以前よりずっと有利になったんだ。まさかこれで申立てを不受理にするなんて事はできなくなった。今すぐ法的手段を取れるくらいなのだからな」
不受理、そんな可能性もあったのか。僕はそこまで考えが及ばなかった。
とにかく申立てさえすれば、後は自分達の思う通りになると思い込んでいた。
「それで早速進めても良いかな?」
「はい、宜しくお願いします」
「私も少しは力にならせてほしい。まさか不受理になんてしないとは思うが、円滑に進むよう目を光らせておくよ」
有難い。王弟殿下がそう言ってくださるのなら安心だ。それ位しかできないがと言いながら王弟殿下は続けた。




