258ー帰って行った
「ロロ、ニコは偉いね」
「うん、やしゃしいのら」
「やしゃしいわね~」
俺とディさん、ララちゃんはジッと見ていた。
ディさんでさえ、逃げていたのに。ニコ兄は本当にかっちょいい。
「れもきのうとは、ちょっとちがうのら」
「本当だね。叱られたのかな?」
「らって、あぶなかったのよ」
「そうだね」
ララちゃんも分かっているのだ。昨日、ニコ兄が飛び出さなかったらリュシエンヌの命は無かったかもしれない。しかも勝手に走り出したからそうなったんだ。
ユーリアがまだ真新しい麦わら帽子を持って出て来た。それをリュシエンヌに手渡す。
「日差しが強いですから、被ってください」
「あ、ありがとう」
ぎこちなくだけど、それを受け取って被った。
「よし、行くぞ。ユーリアも行こう」
「私はいいわよ」
「なんでだよ、一緒に行こうぜ」
いやいや、ニコ兄。ユーリアは一緒に行き辛いと思うのだ。そこはそっとしておこう。
「いいわよ。ニコ行ってらっしゃい。私はおばあちゃんの手伝いをするわ。あんまり遠くに行ったら駄目よ」
「おう、分かった。行こう」
「え、ええ」
「ニコ、有難う。お願いね。言う事を聞かなかったら叱ってくれて良いのよ」
「アハハハ。カナリーさん、大丈夫だぞ」
ニコ兄とリュシエンヌが歩いていった。意外な組み合わせができたのだ。
カナリーさん達は家の中へ。みんな揃ってレオ兄やリア姉と話すのだろう。
「さあ、ピカ。 僕達も行こう」
「わふん」
俺とララちゃんを乗せたピカが、ゆっくりと歩き出した。
「ぴかちゃん、かっこいいのよ~」
「ふふふ、ピカがお気に入りなのかな?」
「ぴかちゃんも、ろろもすきなのよ!」
「おやおや」
ちょっぴり照れてしまった。こんなにストレートに好きと言われた事がない。前世を合わせてもないぞ。
こんなちびっ子だけど、ちびっ子だから余計に素直で真っ直ぐなのだ。純粋な好意というものを向けられると、こんなに照れ臭いものなのだな。
「ららはね、きょうかえっちゃうのよ」
「しょうなのら」
「しょうなの。らからね、ろろにあいにきたのよ」
「ありがと」
「うん」
いやいや、照れちゃうよ。俺って中身は社会人なのに。こんなにストレートに好意を伝えられた事なんてないのだ。
「またいちゅれも、あいにくればいいのら」
「うん、くるわ」
そしたらまた一緒にピカに乗ってお散歩するのだ。
「ふふふ、仲良しになったね」
「うん、なかよしなのよ」
「うん、しょうなのら」
「可愛いね~」
そういうディさんは、今日もとっても綺麗なのだ。麦わら帽子を被っていても、綺麗な髪が靡いてキラキラしている。
昨夜はディさんがいなかったら、どうなっていたのか分からない。
「でぃしゃんが、やっちゅけた?」
「ん? 何かな?」
「きのう、ぶらっくうるふのおやだまなのら」
「ああ、親玉かぁ。ふふふ、そうだね」
「またでぃしゃんに、たしゅけてもらったのら」
「ロロ、そんな事を思っていたの?」
「らって、しょうなのら。なんかいもでぃしゃんに、たしゅけてもらってるのら」
「ロロは良い子だ。ララも良い子だ。二人共、そのまま大きくなるんだよ」
なんだかディさんが親目線になっている。
「でぃしゃん、ありがとなのよ~」
「うん、ありがとなのら」
「アハハハ。どういたしまして!」
とびっきりの笑顔で答えてくれたディさん。
この街を守ってくれて有難う。きっとこうして何年も守ってくれていたのだろう。
俺にとっては、ディさんが英雄だ。綺麗でかっちょいいヒーローなのだ。
大人達は家でなにやら難しそうなお話しをしていたのだ。
そして、みんな揃ってお昼を食べて帰って行った。
もちろんマリーが張り切って、コッコちゃんの卵料理を作っていた。
ディさんはいつも通りお野菜を沢山収穫して、いそいそと全員分のサラダを作っていた。
昨日は高飛車だったリュシエンヌも、今日は普通の女の子だった。
死ぬかもしれない体験をして、叱られて何かが変わったように見えた。
そのリュシエンヌは、ニコ兄に小さく手を振って帰って行った。
領主様とクラウス様も、また来るよと言って帰って行った。クラウス様が手を振ってくれたから、俺も振り返しておいた。
「リア、レオ、またお休みに来るわ」
「ええ。待っているわ」
と、フィーネ達。また学園が長いお休みになったら、冒険者のランクを上げたいのだろう。
だって、レオ兄とリア姉はCランクになっていたから。
「負けていられないわよ」
「姉上、勝ち負けじゃないですから」
「マティ、そこはいいのよ」
フィーネとマティならいつでも大歓迎なのだ。
「ろろ、またねなのよ」
「うん、ららちゃん」
「ぴかちゃんもまたね」
「わふん」
俺の手をキュッと両手で握りしめている。
フワフワの小さなお手々だ。俺の手も小さいのだけど。
「家の事だけでなく、なんでも困った事があったら遠慮なく頼ってほしい。いつでも力になろう。まあ、君達にはディさんやドルフ爺がいるから、私の出番はないだろうが」
「有難うございます。今回はお世話になります」
「気にしないで良い。もっと頼ってくれて良いんだ」
今度から直接文をくれたらいいと言っていた。ギルマスに渡せば良いらしい。
クリスさんがそう言って帰って行った。それって裏技だと思うのだ。堂々と言っても良いのか?
楽しいお祭りだったのだ。夢みたいで、フワフワしていた。
川でブラックウルフが出た時も、ララちゃんを守れて良かったのだ。
お外でクリスさん達を見送っていると、視界の隅でシレッと動いている奴がいた。
「ロロ」
「にこにい」
思わずニコ兄と顔を見合わせる。
「ぶふふッ」
「もう、2人共いい加減にしなさいよ。ふふふ」
そうなのだ。まるで当たり前の様に、トコトコと歩いてきて池の周りの土にズボズボと入っていく緑の奴。
「ロロ、行くぞ!」
「おー!」
ニコ兄と二人でピコピコハンマーを手に池へと走る。
また日常が帰ってきたのだ。
お読みいただき有難うございます!
明日から第5章に突入します。あんな事やこんな事が明らかになるかも!?
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