255ールルウィン祭 夜の部 9
「でぃしゃん!」
ディさんが戻って来た頃には、ブラックウルフの討伐も終わっていた。冒険者の人達が、ブラックウルフの死体を回収したりして後片付けをしていたのだ。
怪我人も最初に上流で襲われた人達だけで、その人達もピカが持っていたポーションで回復した。
軽傷の人は、なんとカナリーさんが魔法で治したのだ。カナリーさんは回復魔法が使えたのだ。魔法で戦うタイプらしい。
夫婦で冒険者としてパーティーを組んでいただけの事はある。
俺も、いたいのいたいのとんでけ~するぞと張り切っていたのだけど、そんな出番は全くなかったのだ。
沢山のブラックウルフは取り敢えずピカが収納しておいて、後日ギルドへ出す事になった。
「ロロ、大丈夫だったかな?」
「うん! でぃしゃん、けがはないのら!?」
「大丈夫だよ。アハハハ、なんだかロロのテンションが高いね」
そりゃ、高くもなる。ララちゃんを守ったのだ。俺にとっては、一世一代の大仕事だったと言っても過言ではない。
スライム退治の時は、自分は守られる側だった。ニコ兄と一緒に討伐していたと言っても、今とは魔獣の強さが違う。
何より俺には、ララちゃんを守るという使命があったのだ。
「ろろが、たしゅけてくれたのよ」
「え? 何があったの?」
「キュポン! て」
「え?」
俺はピコピコハンマーを自慢気に掲げた。もう片方の手は腰だ。どうだ! と、胸を張ってディさんに話した。
ブラックウルフをピコピコハンマーで殴ったのだと。
その後はクーちゃんがシールドを張ってくれて、安全だった。
「アハハハ! ロロ、頑張ったね!」
「えへへ。ぴこぴこはんまー、ちゅよいのら」
「本当だね!」
みんな無事で良かったのだ。
と、思っていたのだけど、別の意味で無事ではなかった人がいた。
「ご、ごめんなさいぃ……えぇ〜ん……ヒック」
リュシエンヌなのだ。大粒の涙をボロボロと流しているけど、カナリーさんは容赦しない。
「リュシィ、あなたはこれから私がしっかり教育し直します! もう甘えや我儘は許しません! どれだけ迷惑を掛けたと思っているの!? 貴女の命だって危なかったのよ!」
リュシエンヌが、カナリーさんにこっ酷く叱られていた。それは仕方ない。それだけ心配を掛けたのだ。
「お、お祖母様! だってお祖父様がぁ……あぁ〜ん」
「あなたが行ってどうなるの!? 戦えるのかしら!?」
「い、いえ……ヒック……」
だってあの時、咄嗟にニコ兄が出なかったら、ブラックウルフにやられていたのだ。
「ニコだったかな?」
「おう」
ウィルさんがニコ兄に話しかけて来た。
「本当に有難う。迷惑を掛けてしまったね」
「気にすんな。無事だったんだからもういいぞ」
おお、ニコ兄。なんて男前なんだ。俺ならムカついていたのだ。いや、助けに出られなくて見ていただけだけど。
でも、あれだよ。本人にも、ごめんなさいと有難うを言わせなきゃ駄目だと思うのだ。
そこにカナリーさんと一緒に、泣きべそをかきながらリュシエンヌがやって来た。
「あ、有難う」
「おう」
それだけ言うとニコ兄は、その場をさっさと離れてドルフ爺の方へと行ってしまった。
いいのか? 『おう』だけなのか? ほら、リュシエンヌがじっと見ているのだ。
「ニコ、いいのか?」
「ドルフ爺、いいんだ。関わりたくないから」
ニコ兄の気持ちも分かる。でも、とっても塩対応だった。俺は驚いた。
まだ俺の女神への態度の方が、ずっとマシなのだ。
フォーちゃん達がニコ兄の側でピヨピヨと喋っている。
リュシエンヌの事を、あれは駄目アルね。と、言っているのだ。フォーちゃん達にまで駄目だと言われてしまっている。
これからカナリーさんが教育し直すと言っているし、俺達はもう会う事もないだろうし。
「みんな! もう大丈夫だ! 仕切り直しだ! 川に花を流してくれ!」
あれ、また出来るのか? 確かにあれじゃ、供養にもならないかも知れない。
「姉上、折角だから僕達も行こう」
「そうね」
「俺はもう疲れたからここで待ってるぞ」
ドルフ爺はお疲れだ。そりゃそうなのだ。もう爺なのに、川からテントまであの重いクーちゃんを荷車に載せて走ったのだから。
「わたしもドルフ爺の側にいるのよーぅ」
「ピヨピヨ」
「クックー」
「ピヨヨ」
フォーちゃん達もドルフ爺といるそうだ。
はいはい、そうして下さい。
「わふん」
「ぴか、らいじょぶなのら」
「くうぅ~ん」
「しょんなことないのら。れおにいをまもってくれたのら」
「わふ」
ピカさんが気にしていた。側にいなくてごめん、なんて言ってきたのだ。
そんな事はない。リア姉を乗せて颯爽と走って行くピカさんは、かっちょよかったのだ。
「ららちゃん、いくのら」
「うん、ろろ。いっしょにいくのよ」
もう当たり前の様に、ララちゃんは手を繋いでくる。俺も、その小さな手をしっかりと繋ぐ。
この温かい手を守れて良かった。やっとホッとして力が抜けた気がしたのだ。
「あらあら、ロロ坊ちゃま好かれてしまいましたね」
「ふふふ」
なんだか、マリーとリア姉の視線が痛いのだ。
ちびっ子二人が仲良く手を繋いでいるのだ。微笑ましいだろう?
ギルマスが言った様に、仕切り直しだ。
折角、平和にお花を流していたのにとんでもない事が起こった。
でも、みんな無事で良かったのだ。
川の端にしゃがみ込み、葉っぱのお舟に載せたお花を流す。淡い光の魔石が道を照らしてくれるみたいに流れて行く。
どうか、安らかに。もしも迷っている魂があるのなら、連れて行って欲しい。
俺達がそうしていた頃、ディさんやウィルさん、クリスさんは難しいお顔をして何か話していた。




