250ールルウィン祭 夜の部 4
もしかしてまだピカが、持っていないかと思ったのだけど。
「わふん」
「しょうらよね」
「わふ」
とっくに全部食べちゃったよ。と、言われた。そりゃそうだ。帰ってきて、ドルフ爺やディさんも一緒に焼いて食べたもの。
「またこんろ、とったらのこしておくのら」
「うん、ありがとう」
さて、川に流そう。と、思ったら、ザブーンと音を立ててクーちゃんが川に入って行った。
「くーちゃんら」
「クーちゃん、泳げるんだな」
「ねー、にこにい」
大きな身体でススイ~と泳いでいる。気持ち良さそうなのだ。
お花を倒したら駄目だぞ。
「何なの!? 亀じゃない! 何あの大きさ!」
と、孫娘が騒いでいたけど放っておこう。
「僕達も流そう」
「れおにい、ろこれ?」
「ドルフ爺の側に行こう」
川に沿って、等間隔に人がしゃがんでいる。みんな、お花を流しているのだ。
俺達も同じようにしゃがむ。
お花を乗せた葉っぱのお舟が、少しユラユラと揺れながら川の流れに乗って流れて行く。
昼間はあんなに賑やかだったのに、夜はみんな静かに葉っぱのお舟を流している。
このルルンデの街では、邪神との戦いを語り継がれているのだ。
もしかしたら、自分のご先祖様が戦ったという人もいるかも知れない。
だからこうして、お花を流す夜は供養なのだな。
「戦いじゃなくても、亡くなった人の魂も連れて行ってくれるのかしら?」
「リアそうだよ。どの魂もだ」
「そう、なら安心だわ」
リア姉は両親の事を思っているのだろう。なら、マリー達もそうだ。
隣りで静かに葉っぱを川に流している、マリーとユーリア。エルザがお仕事で一緒に来る事ができなくて残念なのだ。
ララちゃんが小さな手で川にそっと流す。俺もだ。隣にしゃがんでそっと。
もしまだ迷っている魂があるなら、天国に連れて行ってほしいと思いながら。
ディさんは何かを呟きながら、流していた。
そしてディさんが立ち上がると、いつの間にか魔法の杖を出していた。魔法杖のオーヴが光っている。
俺は何も分からないけども、何か大切な事をしているのだろうと思ったのだ。
それはそれは神秘的だった。ディさんの髪がふわりと揺らぎ、身体が仄かに光っている様にも見える。
ディさんが魔法杖を掲げて静かに何かを呟いている。
邪魔をしてはいけない雰囲気なのだ。もしかして、ディさんは毎年ここでこうしているのではないかな? その為にルルンデの街にいるのかも知れない。
そう思いながら、俺やララちゃんも大人しく黙って見ていた。なのにだ。
「お祖父様、お祖母様、ディさんは何をしているの!?」
ああ、もう黙っていようよ。みんなが黙って見守っているのに。偶々近くにいたお年寄りなんて、跪いている人だっている。それほど、近寄り難くて幻想的な感じだったのだ。
「これ、リュシィ。黙りなさい」
「だって、お祖父様」
「リュシィ、言う事が聞けないならもう連れて来ないわよ」
「お祖母様までそんなことを言うの!?」
それでも黙らないから、カナリーさんが手を引っ張ってテントに戻って行ったのだ。
なんだか誰かを思い出しちゃった。
あれ程酷くはないのだろうけど。誰だか分かる? 俺を攫ってピカを手に入れようとしたあの令嬢だ。領主様の娘だ。
貴族の令嬢って、あんなのが多いのか? いや、でもリア姉は違う。ララちゃんだって素直で可愛い。親の育て方なのか?
「ね、僕が避ける気持ちも分かるだろう?」
終わったらしいディさんが言った。もう魔法杖も仕舞っている。
「れも、まらましかも」
「アハハハ、マシってどうなの?」
「いや、ディさん。申し訳ない」
「あれは早く教育しないと駄目だよ」
「はい、それはもう。口酸っぱく言っているんだ」
もうしばらく様子を見て、まだ変わらず甘やかすようなら引き取って再教育するつもりだとウィルさんが言った。
まあ、俺には関係ない事だ。もう会う事もないだろうし。
「ロロ、興味ない?」
「らってもう、あわないのら」
「ロロ、そんな事を言わないでくれ。また会ってやってくれないか?」
「え、らってみぶんがちがうのら」
王弟殿下の孫娘なんて、もう全然世界が違うのだ。もし貴族だったとしてもそうだ。
「うちだとあんな事をしたら、げんこつが飛んでくるわ」
「確かに。張り倒されますよね」
フィーネとマティが物騒な事を言っている。武官家系ってそうなのか?
「うちの父は、そうなんだ。許せないんだよ」
ほうほう、それは良い事だ。クリスさんやフィーネとマティも良い人だし。
「でも本当に怖いのはお母様よ」
「ええ、本当に」
「おう、ぞっとするな」
ええ、そんなになのか!?
「アハハハ。でも良い子達に育っているじゃない」
そうなのだ。ディさんの言う通りなのだ。
その時、ご機嫌に川で泳いでいたクーちゃんが慌てて戻って来た。そして、フォーちゃん達が騒ぎ出したのだ。
「え? なんなのら?」
「ピヨピヨ!」
「クックー!」
「ピヨヨ!」
フォーちゃん達が口々に、マズイアルね! と言っている。
「れおにい」
「うん、何かあるのかな? 戻ろうか」
「うん」
クーちゃんが川から上がり、ドルフ爺に荷車に乗せてもらっている。でも重いからドルフ爺だけでは乗せられなくて、レオ兄が手伝いに行った。




