248ールルウィン祭 夜の部 2
「でぃしゃん、ひみちゅなのら」
俺は人差し指をプニッと唇に当てた。
「そうだったね、これも秘密だ」
「とんでもない兄弟だ」
え? そう? 普通に仲良しの兄弟なのだ。
衛兵さんと一絡みして、防御壁の外に出ると景色が変わる。
草原が広がり、少し先に見える暗くなっているところは森だ。あそこに魔獣がいる。
俺達が魔魚を捕りに行った川もあの森の中だ。コッコちゃんやクーちゃんもあの森にいたのだ。
昼間とは違って、人も疎らだ。
みんな自分の都合の良い時間に行くのだろう。でも、お祭りだ。川までの街道の脇には灯りの魔石が等間隔に置かれていて、足元を照らしてくれる。
いつもなら真っ暗な闇に包まれる道だけど、今日はそうじゃない。
川までの道を、ぼんやりと明かりが照らして教えてくれる。
満点の星空の下、月明りと魔石の灯りで川までの道が幻想的に見える。
川は防御壁の外だから、みんな武器を持っている。リア姉はいつもの剣、レオ兄は槍を背負っている。クリスさんも腰に剣を差している。俺とニコ兄も、武器を持っているのだ。
俺作の、ピコピコハンマー。これに魔力を流して叩くと、魔獣だってイチコロだ。多分だけど。
川の手前に大型のテントが張られていた。運動会とかにある様なテントだ。
そこにギルマスがいた。
「おいおいおい! お前達何を連れて来てんだ!?」
「何ってギルマス。フォリコッコの子供だよ」
「そりゃ、見れば分かるさ! 色が違うじゃねーか」
「この子達はちょっと特別なんだ。行くって言って聞かないからさ」
「大丈夫よ、強いから」
「リア、そんな問題じゃねーだろう」
「あら、そう?」
「おいおいおいおい! ドルフ爺!」
今日は「おいおい」が多いのだ。
「ああ? 何だよギルマス」
「何連れてんだって言ってんだよ!」
「亀だよ。見て分かんねーか?」
「普通の亀じゃねーだろう!? その大きさは何なんだよ! 登録したのはこの亀か!?」
そうそう、ギルドに登録したのはこのクーちゃんなのだ。
「大丈夫だ。大人しいから」
「そういう問題じゃねーだろう!」
はいはい、もう良いのだ。その件は、さっき衛兵さんともやったのだ。
色々言われてしまったのだけど、無事に川に到着だ。これから夜の部なのだ。
「ロロ、ここで葉っぱとお花と魔石をもらうんだ」
「うん」
テントの中には、ギルドのお姉さん達がいた。
「ロロちゃん、こんばんは」
「こんばんは~」
笑顔で俺に挨拶をしてくれたのは、お茶を出してくれたり、フィーネとマティが怪我をした時にポーションが欲しいと言って来たお姉さんだ。
そのお姉さんから、葉っぱとお花と小さな魔石を貰った。
テントで、葉っぱでお舟を作る。茎を葉っぱにぶっ刺して、まぁるくして出来上がりだ。
お舟とかいう程のものでもないのだ。
「はい、灯りの魔石よ」
「あい、ありがと」
屑魔石と呼ばれている物だ。魔石として使うには小さすぎる、小さな小さな魔石。淡く光っている。
それと、お花だ。アルストロメリアのお花一輪。
魔石とお花を葉っぱにのせて流すんだ。
さあ、川に行こうかという時に、見かけない綺麗な人達がやって来た。護衛らしき人もいる。きっと偉い人なのだろう。
「ディさんが一緒にいるって事は、この子達なのかな?」
「そうだよ。噂の四兄弟だ」
何だ? どこかで見た様な?
「あー! ぱれーろのひとら」
「そうだよ。末っ子のロロくんかな?」
「しょうなのら。ろろなのら」
どうして俺の名前を知っているのかな? と、いうか四兄弟って言っていたから、俺達の事を知っているのだろう。
えっと、確かマリーが王弟殿下だと言っていた。とっても偉い人ではないか。
「この国の王弟殿下ご夫婦だよ」
「初めまして、ウィルセント・テンブルームだ。ウィルでいいよ」
「うぃるしゃん?」
「そうだよ」
俺は普通に話していたのだけど、レオ兄達やドルフ爺が恐縮して頭を下げていた。
この国の王弟殿下だというウィルさん。パレードの馬車にも乗っていた。
ふんわりとした金髪を後ろで一つに結んでいる。クールなアイスブルーの瞳がかっちょいい。確か、Aランクでギルマスとパーティーを組んでいたと聞いたけど。
「ぎるましゅ、なんしゃいなのら?」
「おい、ロロ。お前失礼な事を考えていただろう」
え、何で分かるのだろう?
「アハハハ、ギルマスとは同い年なんだよ」
「ええー! 見えないのら」
「ほらみろ、失礼な事を考えていたじゃないか」
「らって、ぎるましゅのほうが、おじしゃんなのら」
「こら、ロロ」
あ、レオ兄に叱られちゃった。
「ふふふ、私は妻のカナリーネ・テンブルームよ。カナリーさんと呼んでほしいわ。ロロくん、よろしくね」
「ろろれいいのら。かなりーしゃん」
「まあ、お利口さんね」
シェルピンク色のサラサラとした髪に、宝石のトパーズの様な瞳の美人さん。
「えっちょ、かなりーしゃんもAらんく?」
「そうよ。私も同じパーティーにいたの」
「しゅごいのら」
「凄いわ!」
おや、リア姉と声が被ったのだ。リア姉を見ると、目を輝かせて見ている。だって女の人でAランクだもの。リア姉としては、憧れちゃうよね。
「あら、えっとあなたはリアちゃんかしら?」
「はい! アウレリア・レーヴェントです。お目に掛かれて光栄です」
「ぶふふ」
おやおや、レオ兄が吹き出している。




