245ールルウィン祭 9
クリスさんに教えてあげよう。あれはね。
「まんどらごらなのら」
「ええッ!? マンドラゴラ!?」
「しょうなのら。しちゅこいのら」
そんな、マンドラゴラって魔物だぞ! なんて、呟きながら驚いている。だって本当なのだ。
ほら、ドルフ爺が引っこ抜いているぞ。
そして、持っていた鉈でブスッとぶっ刺した。今日は食べる気らしい。
「えぇーッ! マジかよ! おい、フィーネ! マティ! 知っていたのか!?」
「知らないわよ!」
「いつの間にマンドラゴラなんて!」
そうそう、最近なのだよ。直ぐに増えちゃうから困るのだ。
「この辺りの人は処理方法を知っていて、もう食料ですよ」
「えぇ!? 魔物だぞ!」
「はいはい。美味しいですよ」
「マリーまで!」
アハハハ。なんだか楽しいのだ。
なんだったら今日マンドラゴラも食べていくと良いのだ。沢山いるからね。毎日どこからか出てくるから。
「アハハハ! ここは凄いなー!」
マンドラゴラなんて、食べた事がないらしい。でも、俺達だって、クーちゃんが来るまで見た事もなかったのだ。
それが今では、毎日バシコーン! だ。それもまた楽しいのだけど。
いつもみたいに、大きな声で呼んでみよう。
「どるふじぃー!」
「おう、楽しかったか?」
片手にマンドラゴラを持って笑っている。
本当、全然魔物扱いじゃない。お野菜だ。
「マリー、食べるか?」
「はいはい、良いですか?」
「おう、さっきも一匹倒したんだ」
ん? 『匹』で良いのか? 魔物だから『頭』ではないのか? なんでも良いけども。
「キャンキャン」
「アンアン」
ああ、出てきてしまった。うん、これは仕方がない。
5色のお帽子を被ったプチゴーレム達だ。ドルフ爺と一緒にお迎えしてくれた。
「な、な、なんだぁッ!?」
「えぇッ!?」
「どうして動いているんですか!?」
ふふふ、教えてあげよう。
「ぷちごーれむ。ボクがちゅくったのら」
「え? ロロが? つ、作ったの?」
「しょうなのら。ごあいしゃちゅして。いっちー、にっちー、さっちー、よっちー、ごっちー」
「ぶふッ」
あ、笑ったね。お名前で笑ったよね。だって仕方ないのだ。
「ロロが名付けたんだよ。ね、ロロ」
「うん」
ディさんがいつの間にか、いつもの麦わら帽子を被って、手には大きな籠を持っている。
お野菜を収穫する気で満々なのだ。
「もう意味が分からないわ」
と、フィーネがお庭で果実水を飲みながら言う。
「本当だよ。少し来ない間に一体何がどうして?」
と、マティもお庭で果実水を飲みながら言った。
何故なら、プチゴーレムの後にフォーちゃん達も走って来たのだ。ピューッて、フォリコッコの少し小さいのが走ってくるから、クリスさんの目が零れ落ちそうになっていた。
それに家の前には大きな大きな亀のクーちゃんと、池には子亀さん達。
ついでに言うと、畑にはマンドラゴラ。
とってもバラエティに富んでいる。
「いやいや、ありえないだろう。って、ディさんは何処いった!?」
「きっと、おやしゃいとってるのら」
「おやしゃい?」
「しょうなのら。はたけにいってみる?」
「うん、いってみるの」
ララちゃんが、自然に俺とお手々を繋いでくる。
うん、良いのだけど。なんだかとっても懐かれてしまった。
「いや、まだいるんだろう? ロロがチロって言ってたぞ」
「ああ、チロはロロのあのポシェットに入っているんですよ。蛇の赤ちゃんです」
「そうか、蛇か。まだ普通だな。いや、普通じゃないけど」
「チロもピカと同じ神獣なんです」
「……し、し、しんじゅうって言ったか!? あの神獣か?」
どの神獣だろう? まあ、いいや。ピカさん、また乗せて。
「わふん」
伏せてくれるからヨイショと乗った。
ララちゃんも自分で乗るつもりだ。ピカに手を掛けて、足を上げている。
「ああ、ララ。乗せてあげよう」
「おにーしゃま、いいのよ。ららはじぶんれのるの」
「届かないよ?」
「らって、ろろはのれるもの」
「ロロは慣れているんだよ。ほら、危ないからね」
マティがヒョイとララちゃんを抱き上げて乗せてくれた。ありがとう。
「ロロ、気を付けるんだよ。1人じゃないんだからね。走ったら駄目だよ」
「うん、らいじょぶなのら」
レオ兄に念を押されちゃったのだ。
ララちゃんと二人でピカに乗って畑の中を行く。
もう直ぐ、夕焼けの時間なのだ。お空の色が下から蜂蜜色に変わっていく時間。
いつもなら、リア姉とレオ兄が帰ってくる時間なのだ。今日はずっと一緒だった。
今は俺の家にフィーネとマティもいる。
そして、ララちゃんとクリスさん。新しいお友達ができたのだ。
「おそら、きれいね」
「うん、もうしゅぐゆうやけらね」
「ららはうれしいのよ」
「うれしいの?」
「しょうなの。ろろとぴかちゃんと、おともらちになって、とってもとってもうれしいのよ」
「ふふふ」
良い子だね。素直で可愛い。
きっと、真っ直ぐに沢山の愛情を掛けてもらっているのだろう。
だから、初対面の俺でもすぐに信じる事ができるのだ。
良い子だ。このまま大きくなってほしい。
「ろろは、もうおともらちれしょう?」
「うん。おともらちなのら」
「うふふ」
ララちゃんのポニーテールが跳ねて、少し擽ったい。
「あれ? ロロ! ララちゃん!」
ディさんだ。やっぱお野菜を収穫している。




