240ールルウィン祭 4
首に掛けているレイが少し大きいね。
人が多いのに、危ないのだ。
「ろうしたのら?」
「う……ひっく」
ああ、涙がポロポロと溢れだした。
「あらあら、迷子かしら?」
「どうしたの?」
「はぐれちゃったのかな?」
「ロロの服を握ってるじゃん」
そうなのだ。離してくれないのだ。仕方がない。
「まいごなの? おててちゅなぐ?」
俺は手を出した。すると、素直に手を繋いでくる。とっても柔らかくて小さな手でキュッと俺の手を握ると、大きな瞳から涙が洪水の様に流れ出した。
「うぇーん、えぇぇーん……あぁーん!」
「あらあら、泣いてしまいましたね」
マリーがしゃがみ込んで、涙を拭いてあげる。
「えぇーん……ふぇッ、ふえッ、ええーん! とーしゃまー!」
「よしよし、らいじょぶなのら」
あらら、大泣きなのだ。俺がそっと、ナデナデしてあげると、まだ涙を流しながらコクリと頷いてくれた。
俺の言う事は分かっているらしい。これは完璧に迷子だね。
人が多いから、はぐれちゃったのだろう。
「でも、貴族の子供よね?」
「そうだろうね」
「おう、綺麗な服を着てるもんな」
ニコ兄が言うとおり、見るからに俺達が着ている服とは生地が違う。シャラシャラしていそうだ。
「おなまえはなんていうのら? ボクはろろ」
「ひっく……ろろ?」
「うん、しょうなのら。おなまえいえる?」
「うん……ひっく、らら……グシュ……なのよ」
「ららちゃん?」
「うん」
そうか、ララちゃんか。て、それだけじゃ分からない。貴族なら家名があるはずなのだけど、そこまでは言えないのかな?
「ふぇーん! えぇーん……ヒック」
「なかないれ」
コクリコクリと頷く。その度にポニーテールの、ふんわりとした髪が揺れる。
俺は一番ちびっ子だから、誰かと話す時はいつも見上げていた。それが目線の高さが、俺の方がほんの少しだけ上なのだ。これはとっても新鮮だ。
それに小さい女の子って、こんなにふわふわなのか? 握っている手が柔らかくて華奢で、同じちびっ子でも俺とは別物なのだ。
「ギルマスのところに連れて行こうか?」
「そうよね。ギルマスなら知っているかも」
でもね、俺の手をギュッと握っているのだ。どうして俺なのか分からないけども。
「ららちゃん、おなまえじぇんぶいえないのら?」
「え……と、らら……えぇ~ん」
「なかないのら。いっしょにいるのら」
「わふ」
ピカさんが、お顔をズイッと出して、ララちゃんの手をペロリと舐めた。
「ふぇッ!? わ、わんちゃん!? ヒック」
「しょうなのら。おっきらろ?」
「うん……グシュ」
ワンちゃんが好きなのかな?
「なれなれして、らいじょぶなのら」
ほら、と俺が撫でてみせる。
「ヒック……ほんとに?」
「うん、らいじょぶらよ」
ララちゃんが小さな手を、恐々ピカに伸ばす。
最初はそっと、でも直ぐに大丈夫だと思ったのだろう。涙が引っ込んで、わぁッといった表情に変わっていく。
「ふわっふわなの!」
「しょうなのら」
もう涙は止まったね。
嬉しそうな顔をして、ピカを撫でている。
「わふん」
「おりこうなのね~、おおきいのね~」
大胆にピカを撫でている。もう大丈夫なのだ。ピカさん、ありがとう。
やっとララちゃんの涙が止まって、ギルマスのところに行こうかと話していた時だ。
舞台に楽器を持った人達が出て来て、演奏を始めた。軽快でリズミカルな音楽が広場に流れる。
一体どうなっているのだ? どうするのだ?
「れおにい」
「うん、凄いね。これじゃ移動するのは無理だ」
「行きましょう」
マリーとユーリアが手招きしていた。マリーはこんな時でも大雑把で呑気なのだ。
音楽に合わせて、集まっている人達が自然と輪になって踊り出した。みんな弾けるようなとっても良い笑顔だ。
パンパンと手を叩いたり、軽やかな掛け声まで聞こえてきた。
マリーとユーリアや、孤児院の子供達も輪の中に入って踊っている。
ああ、これじゃ移動するのも探すのも難しいかな。
ご褒美といい、このダンスといい、先に言っておいてほしい。俺は驚いてばかりで、ドキドキしているぞ。
「ロロ、行くよ」
「うん、れおにい」
「ララちゃんも一緒に踊ろう?」
「ららちゃん、らいじょぶ?」
「うん!」
「アハハハ、ユーリアも踊ってるぞ」
「ニコ! 踊りましょう!」
ほら、ユーリアのご指名だ。明るい音楽に合わせて、軽いステップで蝶が舞う様に踊る。
途中でパンパンと手を叩きながら、足で地面をコツコツとつま先で小突く。
手をヒラヒラさせたり、隣の人と繋いだり。踊りの輪が二重にも三重にもなっている。
俺達はマリーがいる輪に入って、真似事をする。
ララちゃんとお手々を繋いだまま、二人で踊りの輪に入るのだけど何をどうすれば良いのか分からない。
「ロロ坊ちゃま、マリーを真似てください」
「まりーはしってるの?」
「はい。この街の出身ですから」
ララちゃんと手を繋いで踊る真似事をする。俺なんてちびっ子だもの。みんなが右手を出しているから真似をしようとしても、もう次の振りに移っている。
全然、付いて行けないのだ。
「ロロ、可愛い!」
「りあねえ、わからないのら」
「ロロ、上手だよ」
「ええー! キャハハハ!」
「ララちゃん、可愛いわよ」
「うふふふ!」
ララちゃんも、もう笑顔だ。なんだか楽しくなってきたぞぅ。




