239ールルウィン祭 3
「ロロ、何してんだ?」
「らって、ぎるましゅ。いやなのら」
「何言ってんだ!? お前がメインだろうよ」
「ちがうのら。れおにいなのら」
「ギルマス、ワシも遠慮しとくぞ」
「何言ってんだよ! いいからみんな上がってくれよ」
ギルマスが、おいでおいでと手招きしている。ちょっと焦っているのかな?
仕方ないのだ。ギルマスを困らせたいわけではない。
「ロロ、抱っこしようか」
「うん、れおにい」
段差があったのだ。俺はそこを、ヨイショと登っていたのだけど、レオ兄に抱っこしてもらった。
ピカさん、付いて来ている?
「わふ」
「ぴかもいるのら」
「おう、ピカも来い」
ほら、ギルマスもそう言っているだろう?
「わふん」
僕は目立ちたくないんだけど。なんて言いながら付いて来る。ピカさん、俺だって目立ちたくないのだ。
広場の中央、鳥さんの像の前に作られた舞台の上に俺達とドルフ爺が上った。
クラウスさんがニコニコしている。いやいや、こんな事をしなくても良いのに。
「ロロ。久しぶりだね」
「うん」
「レオ、久しぶりだ。みんなも元気そうだな」
「領主様、僕達こんな事をしていただかなくても」
「そういう訳にはいかない。もうフォリコッコの卵は、ルルンデの街の名物になっている」
そんなになのか? でもまだ『うまいルルンデ』でしか出していないのだろう?
「卵を私の知り合いにも分けているんだ」
ああそうか、そんな事を言っていたな。
それにしても、この舞台の上から見たら本当に沢山の人が集まっている。ルルンデの街にこんなに人がいたのかと思うくらいなのだ。地面が人で見えなくなっている。それに、みんな花冠とレイを付けている。お花畑みたいなのだ。
あ、ニルス達がいた。手を振ってくれている。孤児院のみんなも花冠とレイを着けている。
因みに、領主様やクラウス様も白い花冠をしている。なんだか、ほっこりするのだ。なのに、ギルマス。
「なんだ、ロロ」
「ぎるましゅは、はなかんむりしてないのら」
「ああ? そんなの小っ恥ずかしくてできるかよ」
「ええー」
なんだよ、お祭りなのに。堂々とすれば良いのだ。そうしたら恥ずかしくない。
後ろを見ると、直ぐ近くに鳥さんの像があった。
俺は小さい。だからいつも見上げる事になるから、お顔もちゃんと見えなかった。
これがこの街を救った光の精霊様。
「ドルフ爺、リカバマッシュの栽培に初めて成功した功績は、陛下も大層褒められていた。素晴らしい事だ。リア、レオ、ニコ、ロロ、フォリコッコを飼育する事ができるのは君達兄弟のお陰だ。卵を売った収益で、小さな子供の命を救う事ができる。ありがとう」
領主様はそう言って、小さな包みをくれた。綺麗なおリボンが付けられている。
リア姉がここではちゃんと令嬢の様にしている。そうしていれば、とっても美人さんなのだ。
ドルフ爺とリア姉がそれを受け取ると、集まっていた人達から湧き立つような拍手と、おめでとー! と、声が掛かった。広場を拍手が包んでいく。ワーッと歓声も聞こえる。
恥ずかしい。俺は美味しい卵を食べたかっただけなのに。
「私もまたお邪魔しても良いかな?」
「いつでもいらしてください」
「ええ、気になさる必要はありませんよ」
「おう、クラウスさんも来てるしな」
「うん」
領主様が俺の前にしゃがんで目線を合わせた。そして俺の頭を優しく撫でながら言った。
以前、家に謝罪に来た時の様な、辛そうな目ではない。落ち着いた優しい目をしている。
俺には分からないけど、領主様なりに乗り越えてくれたのだろうと思う。
「ロロ、ルルウィン祭は初めてか?」
「うん」
「楽しむといい」
「うん、ありがと」
ヨシヨシと撫でてくれた。大きな温かい手だった。クラウス様が小さく手を振ってくれている。
俺には辛い出来事だったけど、でも今は俺達の力になってくれている。
これも、縁なのだ。大切にしようと思う。
「よし! みんな祭りを楽しんでくれ!」
ギルマスが大きな声でそう言うと、ワーッと歓声が起こった。まるでギルマスのライブみたいなのだ。
俺達は舞台から降りて、人の少ない方へと移動する。全然知らない人達から声を掛けられた。
俺は、無事で良かったと沢山言われた。なんだか胸がほっこりするのだ。
その時だ、クイッと何かに引っ張られて振り返った。
「あれれ? なんら?」
振り返ってみて驚いた。全然知らない女の子が、俺の服を引っ張っていたのだ。俺より少しだけ小さな女の子。
アルストロメリアの花が溢れている中、たった一輪だけどそこにひなげしの花の精が舞い降りたかの様に思えた。可憐という言葉が似合う女の子が、俺の服をしっかりと掴んで立っていたのだ。
可愛らしいおリボンとフリルのついた、ふんわりとした淡いオレンジ色のワンピースを着ていて、同じ色味のおリボンで髪をポニーテールに結んでいる。
温かいくるみ色の髪に、淡いオレンジ色のおリボンがとっても良く似合っている。お人形さんのように可愛らしいのだ。
首に掛けているレイが少し大きいね。
人が多いのに、危ないのだ。
「ろうしたのら?」
「うぅ……ひっく」
吸い込まれる様な深い海のブルーの瞳に、今にも溢れそうな大粒の涙が溜まっている。




