238ールルウィン祭 2
「坊主、上手だな。ほら、飴ちゃんだ」
「なんだ、飴かよー」
「ええー、にこにい。しゅごいのら」
「そうか! アハハハ。これくらいどうって事ないぞ!」
残りの矢も的に当てて、飴ちゃんを幾つかもらった。
ほら、とニコ兄が俺に飴ちゃんを分けてくれた。白くて鳥さんの形をした飴ちゃんが先端についている、ペロペロキャンディだ。あの精霊様を模しているのだろう。
何味なのだろうと思いながらパクッとお口に入れた。
「んん! パインあじ!?」
「な、俺はミルク味なのかと思っていたぞ!」
しかし、景品が飴ちゃんなのか。俺の感覚だとプラモとかおもちゃだった記憶がある。それは前世なのだけど。
それから串に刺して焼いてあるお肉も買ってもらった。カットして売られているフルーツと、最初に見つけたいちご飴も忘れない。
広場でみんな一緒に、フルーツジュースを飲みながらベンチに座って少し休憩だ。
「ロロ坊ちゃま、ルルウィン祭の名物ですよ」
と、マリーが買ってきてくれた。真ん中に鳥さんの焼き印があるミニパンケーキ。白いホイップクリームを挟んである。
どら焼きのホイップクリームバージョンといった感じだろうか。
「とりしゃんら」
「可愛らしいでしょう?」
「うん、かわいいのら」
可愛いけど、パクリと食べちゃおう。ホイップクリームが甘くて美味しいのだ。
今日は騒がしいから、教会のコッコちゃんの鳴き声も聞こえてこない。
こんなお祭りなんて、前世でも行かなくなっていた。
それでも前世だと、タコ焼きに、焼きそば。綿菓子。
幼い頃に母と一緒に行ったような気がするけど、あんまり覚えていない。
だから今日はとっても楽しいのだ。見る物全部が珍しくて目が回りそうだ。
世界がとっても騒がしくて、でもウキウキして。いつもより鼓動が早い様な気もする。
きっと俺のプクプクしたほっぺが、ピンク色になっているだろう。
「みんな注目してくれるか!」
ギルマスが広場の中央に作られている、簡単な舞台の様なところに乗って大きな声で叫んでいる。隣には領主様とクラウス様がいた。
舞台にはお花で飾り付けられた『ルルウィン祭』と書いた看板まで設置してある。
広場にいた人達が、何事なのかとみんな注目している。俺達もベンチに座ったままそっちを見ていた。
あのギルマスが、まさかまさかの貴族だなんて。
相変わらず、パッツパツのシャツに無精ひげ、大きなサングラスをツンツンした赤い髪の上に乗せている。どう見ても、貴族には見えない。
「ロロ、どうした? 疲れたかな?」
「れおにい、ちがうのら。ぎるましゅ、きじょくにはみえないのら」
いちご飴を食べた後の、いちごのようにほんのり色づいているお口で言った。いちごの赤じゃなくて、周りの飴が赤かったのだ。
パリッとして、ジュワッと果汁が溢れてきてとっても美味しかった。もう一個食べたい。
「アハハハ、それは言っては駄目だ」
「でも、絶対に見えないわよ」
「姉上まだ言ってるの?」
「だって、どこをどう見たら貴族なのよ」
リア姉、それはあまりにも失礼なのだ。
リア姉もいちご飴を食べたから、まるで薄く口紅を塗ったみたいな唇をしているのだ。
いつもより、ちょっぴり綺麗に見えたりするのはお祭り効果なのかな?
「おう、もう回ったのか?」
「ドルフ爺、遅いじゃん」
「パレードはまだでしょう?」
「おう、まだだぞ」
ドルフ爺とセルマ婆さんがやっとやって来たのだ。
「しぇるまばあしゃん、しゅわって」
俺の隣を手でペシペシと叩く。人が多いから、セルマ婆さん気をつけて。
「あら、ロロちゃんありがとう。何飲んでいるの?」
「ふるーちゅじゅーしゅなのら」
ギルマスが大きな声で話し出した。
「今年は急遽、特別に領主様から褒美が出る事になった。皆も知っていると思うが、フォリコッコを捕獲し飼育した四兄弟。それに、リカバマッシュの栽培に初めて成功したドルフ爺だ。ドルフ爺! リア、レオ、ニコ、ロロいたら前に出て来てくれ!」
え……呼ばれた? もしかして、俺達呼ばれちゃったのかな? 俺はまだフルーツジュースを飲んでいるのに。急いで飲んでしまおう。
「ドルフ爺、どうしよう?」
「呼ばれたんだから行くしかねーだろう」
「そう? そうだよね」
「やだ、レオったら緊張しているの?」
「だって姉上、まさか自分達が呼ばれるなんて思わないだろう?」
「ふふふ、そうね。ご褒美ですって。何を貰えるのかしら?」
そんな事を話しながら、広場の真ん中へと出て行く。
俺はレオ兄に手を引かれて、トコトコと付いて行く。
ご褒美を貰うような事をしたかな? してないよな?
「ロロ、どうした? もうジュースは飲んだ?」
「うん、のんら。れおにい、ろうして、ごほうび?」
「ああ、コッコちゃんだよ」
「こっこちゃん?」
余計に分からないのだ。どうして、コッコちゃんでご褒美を貰えるのだ?
「アハハハ! ロロは分かってねーぞ」
「ドルフ爺のリカバマッシュはやっぱ凄いんだな」
「ニコ、大したことねーぞ」
「だって、言ってたじゃん。初めて成功したんだって。ディさんも凄いって言ってたぞ」
そんな事を話しながら、ごめんなさいね、通してねとギルマスと領主様がいる場所へと移動した。




