236ー見分けがつかない
「だからね、こう両太腿の内側でピカを挟むように乗るのよ」
「そうなのか?」
「そうよ、そうして乗ってあげたらピカだって安心して走れるわ」
そんな事を言っても、足の長さが足らない俺はどうしたら良いのだ?
いつも足なんて、ぷらんぷらんさせているのだ。
「ロロは足らないものね」
「あー、短いからな」
「グフフ」
足らないとか、短いとか言わない! レオ兄も笑わない!
だって身体自体が小さいのだから仕方ないのだ。
「もっと大きくなるまで、スピードを出したら駄目よ」
なんだよ、結局そうなるのか。
「それにしても、どこから来るんだ?」
「ドルフ爺、これはもう畑の野菜に紛れているんじゃない?」
「レオ、そうだよな。それしかないな」
紛れられちゃうと、分からない。だって、緑の葉っぱをしているから。
葉っぱの中に葉っぱが紛れていても、見分けがつかないのだ。
「あれから増えたんじゃないか?」
「マンドラゴラってどうやって増えるの?」
「さあ? 俺は知らないぞ」
「僕も知らないよ」
「え? レオやニコも知らないの?」
おや? そう言うなら、リア姉は知っているのか?
「私も知らないけど」
なんだよー! て、リア姉は期待を裏切らないのだ。リア姉がそんな事を、知っているはずないと思ったのだ。
「どうやって増えるのか、分かってなかったんじゃないか? またディさんに聞いてみるけどな」
マンドラゴラも一応魔物だ。生態がよく分かっていないらしい。
なら、ドルフ爺の出番なのだ。
「なんだ? ロロ」
「どるふじいの、まんどらごらはたけで、かんしゃつしゅるのら」
「おう、そうだな」
これでまた、ドルフ爺の功績が増えちゃうぞ。きっとドルフ爺なら完璧に解き明かしてくれる事だろう。ふむふむ。と、俺は短い腕を組む。
「なあに、ロロ。偉そうじゃない?」
「どるふじいに、まかしぇたら、らいじょぶなのら」
「ふふふ、そうね」
「ドルフ爺、念のために状態異常を回復させるポーションを作っておくよ」
「おう、そうしてくれるか?」
畑で作業している人達が、マンドラゴラだと分からないで引き抜いてしまったら大変なのだ。
大きな叫び声を上げるから、直ぐに分かる。
でも、引き抜いた人は状態異常を起こして気絶してしまう。この畑の中で気絶していても、危険はないのだけど。
万が一の為に、ポーションを作る。なら、俺も作るのだ。
「皆にも注意するように言っておこう」
そう言いながら、ドルフ爺がマンドラゴラを引っこ抜く。もう手慣れたものだ。
「あらあら、またいたんですか?」
マリーだ。早めにお昼を食べようと呼びに出てきたのだ。
お空もいつの間にかどんよりと曇ってきた。
「こりゃぁ、一雨くるぞ」
みんな慌ててお家に入る。ドルフ爺はマンドラゴラを持ったままだ。また食べるのかな?
「サラダにしても美味かったぞ」
なんて、昨日は言ってた。毎日食べてないか?
毎日どこからか、出て来るから減らないのだけど。
俺達が家に入ると直ぐに雨が降ってきた。ザザーッと勢いよく降ってくる。
雲の糸の様な、細い雨が畑の緑を濡らしていく。
家の中から見ていると、まるでヴェールがかけられたみたいに見える。
お花の匂いも雨に掻き消されて、雨の匂いに変わる。
「さあさあ、お昼食べましょう」
「はーい」
今日のお昼はマリー特製のサンドイッチ。中には薄く切ったお肉を何枚も挟んである。
ボリュームがあるけど、お野菜も沢山入れてあるのでアッサリと食べられる。
相変わらず一個が大きいのだけど、俺は大きなお口をあーんと開けて食べる。
早く食べて、お昼寝するのだ。パレードに間に合うかなぁ?
「ロロ、急がなくても大丈夫だよ」
「れおにい、しょう?」
「そうだよ。パレードを見たいんだろう? ちゃんと間に合うように起こしてあげるよ」
「うん」
よし、レオ兄が起こしてくれるなら大丈夫なのだ。
「ニコも一緒に少し寝るといいわ」
「えー、俺は大丈夫だよ」
「でも、夜もあるわよ」
「そうか?」
「うん、ニコも一緒に寝ておく方がいいよ」
「分かった。ロロ、一緒に昼寝しようぜ」
「うん、にこにい」
ふふふ、ニコ兄と一緒にお昼寝なんて滅多にない。ニコ兄はいつも畑に出ているから。
お昼を食べて、ニコ兄と一緒にベッドへ入ったら俺は直ぐに瞼が重くなって眠ったのだ。
ニコ兄と二人くっついて眠る。
楽しみだなぁ。今日は一日中楽しみがいっぱいなのだ。
「ニコ、ロロ、そろそろ起きようか」
「んー、レオ兄?」
「ロロ、起きよう。パレードを見に行こう」
「むむ……ねむねむ」
「ハハハ、まだ眠いね」
レオ兄が起こしに来てくれた。俺はまだ眠くて目が開かない。
ニコ兄もベッドの上で座っているけど、まだ目が開いていない。
「れおにい……」
「ん? ロロ、起きられる?」
「うん……ねむねむ」
レオ兄が俺の頭を優しく撫でてくれる。そんな事をしたら、また眠ってしまうのだ。
レオ兄の手は安心するのだ。父さまの手もそうだったのかな?
「れおにい……とーしゃま」
「ん? 父上がどうしたの?」
「とーしゃまも、こうしてなでてくれた?」
「うん、撫でていたよ。ロロが眠っているのに撫でるから、母上に叱られていたよ」
「しょっか」
ふふふ、そうなのか。なんだかそれだけで、胸がほんわかしてくる。




