235ーニコバージョン
「ロロ、どうした?」
「にこにい、またでたのら!」
「またか!?」
「しょうなのら!」
「俺も行くぞ!」
お、ニコ兄も討伐隊に参加なのだ。ならば、武器を与えて進ぜようではないか。
俺のお道具箱にこっそり仕舞っていた、もう一つのピコピコハンマーを取り出す。ニコ兄バージョンなのだ。
何が違うかって? 俺のピコピコハンマーに付いているお飾りの2枚の羽。
あれの代わりに小さな可愛らしい槍をつけた。ぶっ刺せるようになのだ。ちょっぴり強そうだと思わない?
「にこにい! ぶきなのら!」
「おおー! いいのか!?」
「にこにいのなのら。ちゅくっておいたのら!」
「ありがと! よし、ロロ。行くぞ!」
「おおー!」
二人でバタバタと出て行く。ぐふふふ、とっても楽しくなってきた。眠気が吹き飛んだのだ。
「ニコ! ロロ!」
「やだ、2人して何してるのよ」
レオ兄とリア姉が呼んでいるけど、俺達はダッシュだ。俺のダッシュなんて全然速くないけど。それでもニコ兄の後を追っかけて走る。
「マジかよ! どっから出てくるんだ!?」
「にこにい! やるのら!」
「おう!」
俺は美味しそうな葉っぱの根元を目掛けて、思い切りピコピコハンマーを振り下ろした。
「とおッ!」
――キュポン!
「俺もやるぞ! せいッ!」
――ボボーン!
「「え……」」
思いもかけない低い音がした。思わずニコ兄と顔を見合わせる。
何なのだ? 同じ音じゃないのか?
ボボーン! て、どうなのだ? 俺のよりはマシなのか?
「ロロ、とにかくドルフ爺だ!」
「お、おー。ぴか」
「わふ」
ピカが早く乗ってとばかりに、尻尾をブンブン振りながら伏せて待っている。
ピカももう分かっている。ノリノリなのだ。だってもう最近では、毎日やっているのだもの。
「にこにいも、のるのら!」
「え、俺が乗っても大丈夫なのか?」
「わふん」
ほらピカも、ニコとロロの2人くらい平気さ! なんて言っている。
「へいきなのら!」
「よし! ロロ、行くぞ!」
「おー!」
俺が前に乗って、ニコ兄が後ろから俺を支えるようにして乗る。そして、2人で手綱を持ってレッツゴーなのだ。
ピカがゆっくりと立ち上がり、徐々にスピードを上げて畑の中を走って行く。
「スゲー! めっちゃ気持ちいい!」
「しょうなのら!」
俺はまたピコピコハンマーを持つ手を掲げる。気持ちいいのだ。
風がほっぺを撫でていく。丸いオデコも全開なのだ。
そろそろ呼ぶぞ。空気をいっぱい吸い込んで、大きな声を出すのだ。
「どーるーふーじいー!!」
「ドルフ爺!!」
直ぐに畑の中から、顔を出したドルフ爺。
「なんだ!? ニコもか!?」
「ドルフ爺! またいたぞ!」
「なんだとぉ!?」
ドルフ爺が爆走だ。その後をついて、ピカも走って行く。
「きゃはははッ!」
「ロロ、めっちゃ楽しいな!」
「うん!」
ニコ兄が乗っても、ピカは軽々と走って行く。
ニコ兄と一緒に乗っているだけなのに、いつもよりスペシャルな感じがするのだ。
そして、池に着くと魔王が2人待っていた。
「こら! ニコ! ロロ!」
「何やってんのよ!」
リア姉とレオ兄が二人して腕組みをして待っていた。仁王立ちとはこの事なのだ。頭に2本の角が見えるぞぅ。
「ロロ、マズイな」
「やばやばなのら」
「ニコを乗せても、ピカは速いな!」
いやいや、ドルフ爺。今それを言ってはいけない。
またまたお説教タイムなのだ。
そう、レオ兄と……あらら? リア姉がいつの間にかいないぞ。
「姉上……」
「え? だって乗ってみたいじゃない」
リア姉が片足を上げて、今からピカに乗りますよ。て、体勢だったのだ。
ピカが困った表情に見える。
「わふん」
「ぴか、むり?」
「わふ」
無理じゃないけど、いいのかなぁ? なんて、言っている。だってレオ兄に、叱られている最中なのだから。
「ピカ、少しだけ走ってみて」
「わふ」
仕方ないなぁ。と、ピカがリア姉を乗せて走り出した。
「ピカ、凄いわ! もっと速く走れるの?」
「わふ」
ピカがスピードを上げた。リア姉は、余裕だ。大きなピカに、俺がちょこんと乗っているのと違って、なんだかかっちょいいのだ。
俺だと、ピカさんに『乗せてもらっている』と、いう表現だけど、リア姉は『乗っている』だ。この違いが分かるかな?
リア姉が手綱を両手で握り、少し前傾姿勢で長いポニーテールを靡かせて走る。疾走だ。
乗っている姿勢が良いのかな? 安定しているから、ピカも遠慮なく走っている。
「姉上! 速すぎるから!」
「アハハハ! 気持ちいいー!」
ほら、ほら! だから言ったのだ。これでリア姉も共犯なのだ。
「けど、リア姉が乗るとカッコいいな」
「うん、じぇんじぇんちがうのら」
「ニコやロロはまだ小さいからだよ」
「レオ兄、俺はもう小さくないぞ」
「アハハハ、そうだったね」
リア姉はやっぱ運動神経が良いのだ。
畑を一周してピカが戻って来た。
「姉上、何してるんだよ」
「レオ、とっても気持ち良いわよ!」
「だから、姉上」
「いいじゃない。でもニコとロロは、あんなにスピードを出したら駄目よ」
ええー! 俺達より速く走っていたリア姉に言われたくないなぁ。
「2人はまだ体が振られているでしょう? 体幹がなってないわ。筋肉も足らないのよ」
ん? なんだか専門的になってきた。




