232ー教会
「ピヨ」
「おはよう」
「クックック」
「らめらよ、ひるまはらめらって、どるふじいがいってたれしょ」
「ピヨヨ」
フォーちゃん、リーちゃん、コーちゃんだ。やっぱりお祭りに行きたいと言って来た。
駄目だよ、昼間は駄目。
その時、街の方から長く響く荘厳な鐘の音が聞こえてきた。合図でもするかの様に、ルルンデの街に響き渡る。
此処は街から少し距離があるのだけど、それでも早朝の空気が澄んだ静かな時間にはよく聞こえてくる。
「あら、もう鐘を鳴らしているわね」
「しぇるまばあしゃん、もう?」
「そうよ、ビオ爺が張り切っているわねぇ」
ビオ爺が、鐘を鳴らしているらしい。
朝ごはんを食べて、みんなで教会へと向かう。
エルザは残念だけど『うまいルルンデ』でお仕事だ。今日は稼ぎ時らしい。お祭りに来た人達で賑わうのだ。いつもより早く出掛けて行った。
街の中心部に着くまでの家々が、アルストロメリアの花で飾られていた。
それを見ながら、リア姉やレオ兄と手を繋いで歩く。俺達の前を歩くのは、ニコ兄とユーリア、後ろにはマリーとピカだ。
俺のお出掛け用のポシェットにはチロが入っている。まだ寝ているけど。
ちょっぴり眠いけど、初めてみるルルンデの街の景色に興味津々なのだ。
冒険者ギルドがある街の中心部はもっとだった。
どこの建物の入り口の前にも、アルストロメリアの花が飾られている。上を見ると、バルコニーにも花が溢れていた。
いつもは洗濯物を干してある場所にまで、アルストロメリアの花で飾られていたり、向かい合った家の2階の窓から、長い花の飾りが渡されている。
街中の道が、まるで花でアーチを作った様になっていてとっても綺麗だ。
こんな朝早くから、もう広場の屋台が準備を始めていた。
広場の中央にある、鳥さんの像には早くも花冠やレイが掛けられていて、その周りにある花壇には白と黄色の花が今が盛りとばかりに咲いている。
ああ、そうか。この花壇の花がアルストロメリアなのか。なんだ、いつも通る時に見ていたのだ。
教会までの道が、まるで花道の様に道の両側を花で飾られている。
そして、手に沢山の花を抱えて教会へと向かう人達。
「しゅごいたくしゃんの、はななのら、きれいら」
「凄いわね、こんなに飾るのね」
「思った以上に街中が花でいっぱいになるんだね」
去年はみんな参加していないから、俺だけじゃなくてリア姉やレオ兄も驚いている。
「まだまだ花で溢れますよ」
そうか、マリーはこの街出身だから知っているのだ。
これ以上、どこを花で飾るのだ? と、いうくらいにもう花で溢れている。
「広場の精霊様の像があるでしょう? 花で埋もれてしまうくらいに、みんな飾るのですよ」
「へぇー! ボクもかじゃりたいのら」
「はいはい、教会で女神様に礼拝したら飾りましょうね」
「うん!」
もう俺のテンションがどんどん上がっていくのだ。
「わふ」
「うん、らいじょぶなのら。ぴか、しゅごいね。きれいらね」
「わふん」
ピカが眠くない? と、気にしてくれている。眠気も吹き飛んでしまうのだ。
朝日でキラキラと街中が輝いて見える。
教会に着くと、既に大勢の人達がやって来ていて中に入るための列に並ばないといけなかった。
そんなの何度も教会に来ているけど、初めてなのだ。
ニルスが年に一回のビオ爺の出番だと言うだけの事はある。
俺達もその列に並ぶ。教会の裏からはコッコちゃんの鳴き声が聞こえてきている。
「こっこちゃん、おきているのら」
「コッコちゃんは早いからね」
少しの時間並んで、教会に入るとまた俺達は驚いた。
教会の何処も彼処もが、花で飾り付けられていた。その一番奥には、あの泣き虫女神の像がある。
その周りや前にある祭壇にまで、花で溢れていた。
朝日がステンドグラスを通して、七色の光になって細かい粒子の様に射していていつもより神々しく見える。
その光に照らされた女神の像にも花冠とレイが掛けられている。
こうして見ると、あの泣き虫女神も創造神らしいのだ。まあ、黙って動かなければそれらしいから。
「わふん」
「ぴか、しょんなことないのら」
え? もしかして、嫌いなの? なんて、ピカに言われたのだ。嫌いなんかじゃないよ。
いつも心配してくれているし、俺が傷付いた時には特別な回復もしてくれた。ただ、少し残念だなぁと思うだけなのだ。
そんな残念な女神を知っているのも、ピカと俺だけだ。だから黙っていようね、ピカさん。
「わふ」
アハハハ、有難うなんて言っているよ。神使のピカも大変なのだ。
祭壇の前で、花冠やレイを配っているハンナとニルス達がいた。俺達に気付いて声を掛けてくれる。
「ロロ! おはよう!」
「にるしゅ! おはよ~」
と、俺はフリフリと手を振る。もう沢山の花冠とレイが並べられている。これはきっと昨日から作っていたのだな。準備が大変だっただろうに。
「ロロ、ニルスのところに並ぼうぜ」
「うん、にこにい」
リア姉とレオ兄の手を引っ張って、ニルスがいる方へと進む。
「あらあら、慌てなくても大丈夫ですよ」
マリーも付いて来る。ピカが大きいから、周りの人達が避けてくれる。
――ああ、あのワンちゃんだ。
――元気になって良かったわね。
なんて、今でも言われる。俺が攫われた事件を、まだ街の人達は覚えているのだ。




