231ー早朝
池の端に、鮮やかな緑の葉っぱのマンドラゴラが二つ、堂々と生えている。なんでなのだ!? 柵を作ったのに!
マンドラゴラを見つけたら、アレしかないのだ。
「れおにい、しゃわったら、らめ! まってて! でぃしゃん、おうちにもどるのら!」
「うん! 分かった!」
俺を抱っこして、ディさんがダッシュだ。もうディさんは分かっているのだ。楽しそうな顔をしている。
リア姉とレオ兄が、ロロ! 何するの!? と呼んでいるけど、それどころじゃないのだ。
家に戻った俺とディさん。ピコピコハンマーを手に取って顔を見合わせ一つ頷く。
「ロロ、行くよ!」
「いくのら!」
ヒョイと俺を抱っこして、ディさんがまたダッシュする。いそげー!
「ロロ! ディさん!」
「何するの!?」
俺はピコピコハンマーを持った手を掲げる。とっても自慢気に!
「アハハハ!」
「ええー!」
レオ兄が爆笑しているぞ。ふふふん。
池の端に降ろしてもらった俺は、どうだ! と、ピコピコハンマーを見せる。
「やるのら!」
「ロロ! 頑張って!」
「うん! でぃしゃん、まかしぇて!」
「アハハハ!」
俺もディさんも寝起きだというのに、テンションマックスだ。
よく寝たから元気なのだ。良いコンビだと思わないか? 阿吽の呼吸だよ。
俺はピコピコハンマーを持つ手を挙げた。
「ロロ、いけー!」
「とおッ!」
と、言いながら思い切りマンドラゴラ目掛けて、ピコピコハンマーを叩きつける。
――きゅぽん!
「ロロ! こっちもだ!」
「おし! たあッ!」
――きゅぽぽん!
「これれいいのら! どるふじいをよぶのら!」
「行くよ! ピカ!」
「わふん!」
ヒョイとピカに乗せられた俺。ディさんと一緒に畑の中を爆走なのだ。
「ロロ! だから速く走ったら駄目だと言っただろう!」
レオ兄が叫んでいるけど、もう俺は止まれない。
風を切って走るピカ。俺の少し汗が滲んだまん丸としたオデコを、風がソヨソヨ~ッと撫でていく。
片手にはピコピコハンマー。よし、高く掲げよう!
キラキラした長い髪を靡かせて、笑いながら並走しているディさん。
「ロロ! ちゃんと両手で手綱を持って!」
「危ないわよ!」
そんなのもう耳に入ってこない。とっても楽しいのだ。
ほらほら、大きな声で呼ぶぞ。呼んじゃうぞ。
「どーるーふーじいー!!」
「わおーん!!」
ドルフ爺はどこにいるのだ? 緊急なのだ。
畑の中から、顔を出したドルフ爺。
「おう! ロロ、どうした!?」
「でたのら! まんどらごら!」
「なんだと!? またか!?」
ドルフ爺が走って来た。そしてまた池まで爆走だ。うひょひょひょ! とっても楽しいぞぅ!
ピカに乗った俺、ディさん、ドルフ爺が池まで戻ると、リア姉とレオ兄が仁王立ちして待っていた。ヤバッ、これはヤバイぞぅ。
「ロロ!」
「ロロ! 走ったら駄目だって言ったよね!」
「ごめんなしゃい」
ピカの背中に乗ったまま、小さくなってしまった。
「ディさんもですよ!」
「どうして態々ピカに乗せるの!? そのままディさんが、抱っこして走った方が安全じゃない?」
「つい……ごめんて~」
「何怒ってんだ? いつもの事じゃねーか」
あ、ドルフ爺。それを言ってはダメダメなのだ。余計に怒られちゃうのだ。
「「いーつーもーのーこーとー!?」」
ほぉら、リア姉とレオ兄が怒っている。しまった。魔王が二人に増えてしまったのだ。
だって、走りたくなっちゃうのだもの。
ピカに乗って走ると、とっても気持ち良いのだよ。リア姉やレオ兄も乗ってみると分かるのだ。
「昨日あれだけ言ったのに、ロロは」
「危なくて見ていられないわ」
「りあねえ、のってみる? きもちいいのら」
「え、そうなの?」
「姉上!」
ほら、リア姉は乗りたそうだぞ。
そうして、俺とディさん、ドルフ爺までレオ兄にお説教されたのだ。池の端で3人並んで直立不動だ。どんどん小さくなっていく。
「あらあら、何しているんですか? オヤツですよ」
「まりー、たべるのら」
「ロロ、分かったのかな?」
「分かったのら。れおにいもぴかに、のってみるといいのら」
「ロロ、分かってないね」
しまったのだ。取り敢えず、オヤツを食べよう。
こんななんでもない日常が、俺にとってはとっても楽しくて大切なのだ。
そして、とうとうやって来たお祭りの日。『ルルウィン祭』なのだ。
前日の夜は早く寝た。いつも俺はご飯を食べたら眠くなっちゃうけどね。
お祭りの日は、日の出と共に教会が開放されるから、早く起きてお花を貰いに行くのだ。
レオ兄に起こしてもらって、お外に出てみるとまだ薄っすらと暗かった。お空がこの世界に来て初めて見る色をしていた。
朝日の色と青空とが混ざり合っている。遠くの方から、朝の明るみがどんどん広がってくる。
地面の匂いがいつもより強い。畑のお野菜が息をしているみたいだ。
コッコちゃんが、コケッコー! と、元気に鳴いている。クーちゃん一家はまだお眠だ。
畑のどこかで、キャンキャンとイッチー達が鳴いている。ドルフ爺を呼んでいるのかな?
「あら、ロロちゃん。早起きできたのね」
セルマ婆さんだ。コッコちゃんの卵を採っている。
「おはよー」
「はい、おはよう。今日はお祭りね」
「うん、たのしみなのら」
「夜は一緒に行きましょうね」
「うん」
セルマ婆さんは、一番最初にできたお友達なのだ。
このほんわかした雰囲気がとっても好き。
ドルフ爺さんは、全然タイプが違うのに仲の良い夫婦だ。




