226ー魔王降臨
「まんどらごらなのら」
「え? またなの?」
「しょうなのら。しちゅこいのら」
「わふん」
ピカも、しつこいと言っている。このマンドラゴラ、いつの間にか池の端に移動して来るのだ。
本当、ピコピコハンマーを作っておいて良かったよ。
「ロロ、ピカに乗るのは良いけど、あんなに速く走ったら駄目だ。ピカもだよ。分かるよね?」
「え、れおにい。らいじょぶなのら」
「わふわふ」
「大丈夫じゃないよ。もし落ちたらどうするんだ?」
「ちゃんと、もってるのら」
「わふん」
俺はちゃんと手綱を持っているし、ピカも僕が落とすわけないよ。と、言っている。でも、レオ兄の目が怖いのだ。
これは、怒っている時の目だぞぅ。
しまったなぁ。まさか見られているとは思わなかったのだ。ね、ピカさん。
「わふん」
「ピカ、僕もピカの言っている事が分かるんだからね」
「くぅ~ん」
あ、またまたしまったのだ。そうだった、レオ兄も分かるようになったのだった。
ピカさん、どうするのだ? ヤバヤバだぞぅ。
目はとっくに泳いでいて、ちょっぴり変な汗が流れてしまいそうなのだ。
「それにロロ。その手に持っているのは何?」
「これは、ぴこぴこはんまー」
「え? ピコ?」
「しょう、ぴこぴこはんまー。ちゅくったのら」
ふふふん、どうだ? なかなか良いだろう? 叩いた時の音がちょっぴり予想外なのだけど。
まさかあんな音が、標準装備だとは思いもしなかったのだ。
「前に土で作っていた物かな?」
「しょうなのら。これれ、ばしこーんて」
「マンドラゴラを見つけたら、ドルフ爺を呼べば良いだろう?」
「よんだのら」
「だから、ピカに乗って走るのは駄目だ」
「えぇー」
「駄目だよ。ね、姉上」
「そうよ、あんなに速く走ったら駄目よ。ピカ」
「わふん」
大丈夫なのに。と、ピカが言ってしまった。
「だからね、ピカ」
「わふ」
ほら、怒られちゃった。
レオ兄の背後に、魔王が見えてしまうのは俺だけなのだろうか?
それから俺とピカは、レオ兄にこってり叱られたのだ。
あんなに速く走ったら駄目と、ピカは注意されていた。
俺は、乗るのは構わないけど片手を離しちゃ駄目と叱られた。両手でしっかり手綱を持ちなさいと。
なのにまだレオ兄のお小言は続いているのだ。
「ロロ、スピードアップって何かな?」
「え、えっちょぉ……」
しまった。そんな事も聞かれていたのか!?
不味いぞ、とっても不味い。こんな時にディさんはどこ行った? ヘルプ希望なのだ。
「おや、おかえり~」
大きな籠に沢山お野菜を入れて、呑気にディさんが戻って来た。いつもの麦わら帽子を被っていて、首にはタオルを巻いている。
この場に似つかわしくない格好と、爽やかな笑顔でピカピカの髪を靡かせて登場だ。
またお野菜を採りに行っていたのか。どれだけお野菜を食べるのだ?
それよりも、ディさん。ピンチなのだ。今俺はとってもピンチなのだよ。
「ディさんは知っていたんですか?」
「ん? 何かな? ああ、マンドラゴラ?」
「違いますよ。ロロがピカに乗っている事です」
「ああ、あのハーネスがあるから、上手に乗るようになっただろう? すごく速く走るようになったね。アハハハ!」
言ってしまった。
ディさん、アハハハじゃないのだ。
今それを言ってはいけない。空気を読もう。
ほら、目の前にいるレオ兄の頭に、角が2本生えているのが見えないか?
「それが問題なんですよ。もしロロが落ちたりしたら、どうするんですか!?」
「大丈夫だよ。ロロは上手に乗っているし、ピカだって気を付けているから」
「ディさん……」
「え? あれ? ロロ、僕なんか不味い事を言ったかな?」
「でぃしゃん、もうおしょいのら」
「えぇー? 何だよぉー!?」
それからまだレオ兄のお小言は続いたのだ。
リア姉はとっくに飽きちゃって、マリーにおやつをもらって食べていたりするのに。
「ロロ、分かったかな?」
「あい」
「ピカもだよ」
「わふ」
思わずレオ兄の前で、正座をしそうになってしまった。しないけど。
それでも、直立不動なのだ。ピカさんはきちんと前足を揃えてお座りだ。尻尾が情けなく体に巻き付いている。
「そんな事より、レオ」
「ディさん、そんな事ではありませんよ」
ほらまた。ディさん、空気を読もうと言っているのに。
ディさんまで、俺とピカの隣に並んで叱られている。直立不動なのだ。お野菜が沢山入った籠を抱えたままで。
「でもレオ、気付いてる? ロロの持っている武器(?)だよ」
「ピコピコハンマーでしたっけ?」
「そう、ロロが土で作ったんだよ。なのに、この強度。それに音!」
「音?」
そうなのだ。もう気付いている人もいるだろうけど。
土で作ったピコピコハンマーなのに、バシコーンと殴ると音が鳴るのだ。
どんな音なのか聞かせてあげよう。
俺はしゃがみ込んで地面を軽く叩く。
――きゅぽん!
「ぶふッ!」
あ、笑ったね。レオ兄、今笑ったよね?
俺も可笑しいとは思う。初めて聞いた時には、土製なのにこの音なの? て、思ったもの。
でも、鳴っちゃうのだから仕方がない。もう少し強く叩いてみよう。
――きゅぽぽん!
「アハハハ! ロロ、その音は何なの!?」
「らって、れおにい。なっちゃうのら」
もう1回鳴らしてみようか?
――きゅぽぽぽん!
なんてふざけた音なのだろう。もう1回いっとく? いっとこうか? それ!
――きゅぽぽんぽん!




