223ー手紙(レオ視点) 1
「レオ、リア、ちょっといいか?」
クエストを終えて、ギルドに戻って来たらギルマスに呼ばれた。何だろう? 思わず姉上を見た。
「姉上?」
「何? 私何もしていないわよ」
そんな事は言ってないよ。少しだけ思ったりしたけど。でも、一体何だろう?
もしかして、またロロが何かやらかしたのかな? なんて思いながら、2階に上がりギルマスの部屋へと向かった。
「おう、家じゃない方が良いかと思ってな」
という事は、ニコやロロのいないところでって事か。何の話なんだろう。
姉上と僕はギルマスの向かいに座る。いつもお茶を出してくれるお姉さんが今日はいない。
果実水でいいよな? と、ギルマス自ら入れて出してくれた。
これはもしかして、人払いをしていると言う事なのかな?
「いや、別にニコやロロがいても構わないとも思うんだけどな」
と、前置きしてギルマスが二通の封書を出してきた。ちゃんと家紋が刻印された、シーリングをしてある淡いブルーの上質な紙の封筒だ。
こんな上質な紙は貴族しか使わない。久しぶりのツルツルとした手触りだ。
両親が生きていた頃は、そんな事を考えもせずに当たり前のように使っていた紙。庶民はこんな上質の紙は使わないと、この街に来てから知った。今は僕達も、もっと手触りのザラザラとしたペンの滑りが悪くて、インクの馴染みも悪い茶色っぽい紙を使っている。
フィーネに文を書く時に、少し紙質の良いレターセットを態々購入したくらいだ。
その綺麗な淡いブルーのを封書を手に、少しの間見つめてしまった。
「これは?」
「フィーネからだ。フィーネの兄さんからのもある。ギルド経由で送って来たんだ。その方が早いし確実だからな」
そんな事ができるのか? 貴族だからだろうか? 武官家系だと言うし、融通が利くのかも知れない。
「まあ、あいつらの父親や兄貴は偉いさんだからな。そんな裏技も有りって事だ」
フィーネとマティだけでなく、家族全員が冒険者ギルドに登録していると言う。しかも、母親もだ。それに全員Cランク以上だと言うから、本当に武官家系なんだ。
まさか母親までCランクなんて思いもしなかった。
フィーネには例の、調査の申立てをするのに力を貸して欲しいと文を出していた。きっとその返事なのだろう。
調査の申立てには「何人かの貴族が連名」で必要なんだ。
「中は見てねーぞ」
そんな事、言わなくても信頼しているのに。
「ここで読んでいっていいぞ」
「そう? じゃあ……」
僕は先ずフィーネからの文を開けた。少しドキドキする。姉上にも見えるように、文を読む。
その文には、お兄さんに話を付けてくれたとあった。そのお兄さんが手を貸してくれるから、いつでも言って欲しいと。
有難い。良かった。ホッとして、小さく息が漏れた。肩の力が抜けた。
フィーネは協力してくれるだろうけど、そのお兄さんとなるとどうなのか? 自分で思っていた以上に、不安だったみたいだ。
もしも、フィーネのお兄さんが協力できないとの返事があったら、他の貴族なんて僕達にはもう当てがないのだから。
問題が一つ解決できたような気分になった。まだ何も解決なんてできていないというのに。それでも、一歩進めたんだ。
フィーネの文には続きがあった。ただ……『その時にお父様の耳にも入ってしまったから、もしかしたら少し面倒な事になるかも知れない』とあった。もしもそうなったら、ごめんなさいと。
「面倒な事って何だろう?」
「ね、別にお父様の耳に入ってもいいんじゃないの?」
「ああ、そういう事か」
ギルマスが教えてくれた。フィーネ達の父親は第1騎士団団長。お兄さんが、第3騎士団副団長。
その父親とお兄さんはとても正義感が強いのだそうだ。特にお父上は、そうなのらしい。騎士団長なんてやっているのだから、それもそうなのだろう。
「それに何に対しても、めちゃくちゃ熱い人なんだ。俺も会った事あるけどな、圧が強いのなんのって」
僕達にとっては、ギルマスだって充分圧が強いんだけど。そのギルマスが、そう言うくらいに熱い人。
何にでも一所懸命で正義感が強い。それ故に、少し先走ってしまう事もあるのだそうだ。
そこがフィーネの言ってきた『少し面倒』なところらしい。
「ふふふ、そんな貴族もいるのね」
「こらこら、リア。そんな言い方をしたらいかんぞ」
「あら、そう?」
僕も姉上と同じ事を思った。だって、僕達が知っている貴族の中にはそんな人はいなかったから。
庶民になった僕達を見下し蔑んだ貴族しか知らない。
「まあ、良かったじゃねーか」
「うん、そうだね。ほっとしたよ」
そう言いながら、もう一通の文を開封する。これはフィーネのお兄さんからの文だ。
フィーネと同じレターセット。透かして見ると、家紋が入っているのが分かる。その上、家紋のシーリングもしてある。
確実にフィーネの家、アウグスト家からの文だと証明できると言う事だ。
その封筒に入っていた文を姉上と一緒に読む。
驚いた。思わず姉上と2人で顔を見合わせたくらいだ。
「ギルマス」
「おう、何て書いてあんだ?」
僕は答えずに、文をギルマスに手渡した。
「読んでいいのか?」
「うん、意見を聞きたい」
そうか、と言ってギルマスが文を読んだ。




