222ーディさんが!?
「すげーな、ロロには蛇まで懐くんだ」
「チロも守ってくれるんだぜ」
「にこにい、ひみちゅなのら」
「あ、そうだった」
そうなのだ。チロの能力も秘密なのだ。ピカさんとチロは大きな秘密なのだよ。
チロは蛇さんだけど、回復魔法全般が使える。それは大きな秘密なのだ。それに、ピカと同じ神獣なのだ。あの泣き虫女神の神使なのだよ。
少し、大きくなったかなぁ? 前より起きている時間は長くなったのだけど。
「ロロ、デカくなってるぞ」
「にこにい、しょお?」
「おう、ちょびっとだけどな」
やっぱちょびっとだけなのだ。だって俺の、お出掛け用ポシェットに入れるのだもの。まだまだ小さいのだ。
チロが無心でチーズケーキを食べている。
「ちろ、おいしい?」
「キュルン」
そうか、とっても美味しいのか。蛇さんってチーズケーキなんて食べるのか? いやいや、神獣だから普通じゃないのだろう。
隣でピカさんが、大きなチーズケーキを貰ってわふわふと食べている。一口が大きいから、直ぐになくなってしまう。
「ニコ、ロロ、お祭り行くんだろ?」
「去年は行けなかったからな、今年はみんなで行くぞ」
え? ニコ兄はお祭りの事を知っていたのか? 俺は全然知らなかったのに。
「だってロロは、家の前位しか出なかった頃だ」
ああ、そうなのか。去年の今頃だもの、そうなのだろう。
俺はルルンデに来て直ぐの頃は、家から出られなかった。何もかもが怖かった頃だ。
「俺も畑に出だした頃だったしな。リア姉やレオ兄も、冒険者にまだ慣れてなかったからお祭りどころじゃなかったんだ」
ニコ兄ったら、冷静に見ているのだ。マリーも同じような事を言っていた。
俺は怖かった事位しか覚えていないのに。俺はよく泣いていた。いつもマリーのエプロンの裾を持っていた記憶がある。
「お祭りの日は、お日様が出たら鐘を鳴らして教会を朝早くから開放するんだ。街の人達が花を持って、女神様に感謝を捧げにくるんだぞ。俺達は前日から花冠とレイを作るんだ」
ほうほう、それは楽しみなのだ。
「年に1回のビオ爺の出番だ」
年に1回だけなのか? たった1回なのか? 普段は何をしているんだよ。司祭様なのだろう?
「ビオ爺は不良司祭だからな。ああ、忘れてた。年末もだから年に2回か」
あらら、ニルスにまで不良だと言われている。ビオ爺、頑張ろう。
「にこにい、おはならって」
「おう、俺は植えてないからな」
「教会に来ればもらえるぞ」
「そうなのか?」
街の人達が持って来るお花を使って、孤児院の子供達やボランティアの人達で花冠とレイを作るのだそうだ。
男の子には白色の花冠を、女の子には黄色のレイを配る。
もちろん、自分達で作る人達も多い。このルルンデの街では、お祭りに使われる花がどの家でも育てられているらしい。みんな趣向を凝らして作るのだそうだ。
花冠とレイだけでなく、街中がその花でいっぱいになる。
女神像や、広場にある白い鳥さんの像にも、街の人達が沢山の花冠とレイを飾り付ける。その広場でパレードもある。
俺は全部参加したい。パレードも見るのだ。ふふふん。
「来年は俺も植えるぞ。ロロ、なんだ?」
「じぇんぶみたいのら」
「全部かよ」
「しょう、じぇんぶなのら」
お昼寝は抗えないけども。お昼寝は大事。とっても大事。
お昼寝しないと、眠くてフラフラしてしまうのだ。お目々が勝手に閉じてくるしね。
「ディさんは、どうすんだろう?」
「なんだ、知らないのか?」
なんと、ディさんはパレードに出る側なのだそうだ。
オープンタイプの白い馬車に、領主様と王家から代表で来る人と、そしてディさんが乗って花を撒くらしい。
ディさんはもしかして有名人なのか? エルフだからなのか? 美人さんだからなのか?
「アハハハ、ディさんはこの街で唯一のSSランクだしな! みんな少しはディさんに、世話になってんだ。ディさんを知らない人なんていないんじゃないか?」
ひょぉー! 思った以上だったのだ。今なんて俺は毎日お世話になっているぞ。
街の人気者を俺が独り占めしているのか? 何て贅沢なのだろう。しかも、師匠なのだ。
ふと、ディさんを見ると大きなお口を開けて、美味しそうにチーズケーキを食べていた。
「マリーはなんでも上手に作るね!」
なんてご満悦だ。そんな風には見えないのだけど。
だって最近ではキッチンで、お野菜をつまみ食いしているのだ。
そんなディさんが、街の有名人だった。驚きの事実なのだ。
「まあ、ディさんだしな」
「えー、にこにい、しってた?」
「知らなかったぞ」
だよねー。うちでは、ディさんはそんな立ち位置じゃないのだもの。
毎日元気にやって来る、お茶目で綺麗なエルフさんって感じなのだ。セルマ婆さんだって何も言ってなかったぞ。
「街の人達は、みんな当然の様に知っている事だからな」
と、ドルフ爺が言った。そうなのか? エルフ族なのにこの街に滞在しているディさん。
普段、うちに来ていない時は何をしているのかも全然知らないのだ。
「朝早くに、ここに来ている時もあるぞ」
「ニルス、そうなのか?」
「おう。それから『うまいルルンデ』で朝ごはんを食べているんじゃないか? いつも行っているから」
ああ、きっと『うまいルルンデ』で特盛サラダを食べているのだ。これからは、ドルフ爺のお野菜が食べられると喜んでいたもの。
「そうだよ、それから一度ギルドに顔をだして、ロロ達の家に行くんだ」
いつの間にか、ディさんがすぐ近くに来ていた。
もしかして、うちに来るのって無理をしていたりするのかな? 俺は来てくれると嬉しいのだけど。
「何をいってるんだよ。ロロ達兄弟から目が離せないよ」
その後に「おもしろくて」って、言葉が聞こえた気がするのは俺だけだろうか?




