219ーやり直し
「アハハハ! 一人でやると、何でそうなるんだ?」
「わかんないのら」
だめだ。迷宮にハマってしまったのだ。何故か一人だとスキップが上手くできない。
同じ様にしているつもりなのだけど。おかしいなぁ~。
平和なのだよ。そんな事をしながら教会にやって来た。俺の完璧なスキップのお披露目はまた今度なのだ。
「こんちはー」
元気よく教会に入って行く。奥からビオ爺が出て来た。
「おう、ロロ。みんなで来てくれたのか」
「ビオ爺、畑を見に来たんだ」
「ああ、ディもすまんな」
ビオ爺がドルフ爺にお礼を言っていた。コッコちゃん達のお野菜の事なのだ。
「息子が『うまいルルンデ』に野菜を卸す事になったんだ。だから序でだ」
「そうか? 助かるよ」
ドルフ爺の息子さんが『うまいルルンデ』にお野菜を配達する事になった。その時に教会の前に、コッコちゃん達のお野菜を置いておいてくれる。
子供達で息子さんの店に取りに行くと言っていたのだけど、量が多いからと息子さんが配達を引き受けてくれたのだ。
それはとっても助かる。この先、もっとコッコちゃんは増えるだろうし。
話しながら教会を抜け、孤児院の方へ向かう。裏庭に出ると小さな子達とハンナがいた。
みんながいる裏庭の片隅に小さな畑を作ってある。ドルフ爺とニコ兄の出番なのだ。
「こりゃロロの言う通り、基本が駄目だな」
「本当だな」
ほら、そうだろう? 俺の言った通りだろう?
俺はニコ兄の隣で偉そうに腕を組んで見ている。俺のお腹もポヨンと偉そうに出ているのは、見なかった事にしてほしいのだ。
「ロロ、偉そうだな」
「にこにい、らめらめなのら」
「そうだな」
ふむふむ、で? どうするのだ?
「ドルフ爺。どうする?」
「これは植え替える方が早いだろう。土からやり直しだ」
「そうだよな」
なんですと? 植え替える? 土からやり直し? 全然分からないのだ。
「ニコ、いけるか?」
「おう、任せろ」
答えたニコ兄が畑の地面に手をやり地面をジッと見つめる。すると、ボコボコと地面が波打った。
何なのだ、あれは!?
「あれは地面の表面を柔らかくしているんだ。ニコったらいつの間に、こんなに土属性魔法を使えるようになったんだろう? 凄いや」
ディさんが感心しているのだ。硬そうな地面がボコボコと波打っている。
植えられていた、ちょっとヒョロッとしたお野菜も根っこごと掘り返されている。
ニコ兄が、籠にお野菜を片っ端から回収していく。その後からドルフ爺が、大きな袋を抱えて畑に何かを撒いている。
「でぃしゃん、あれなんらろ?」
「あれは畑の栄養分だね。ずっとあそこで野菜を作っていたから、土に栄養が少なくなっているんだろう」
なるほど、先に土を作るのだな。土からやり直しとは、この事なのだ。
「ニコ、いいぞ」
「おう」
またニコ兄の出番らしい。ニコ兄が畑の地面に手をやると、またボコボコと地面が波打った。
池を作った時には、地面をどう掘ったら良いのか分からないと言っていたニコ兄。
なのに、これだよ。小さいとはいっても畑だ。その畑全部を土属性魔法で、あっという間に耕してしまったのだ。
やっぱ俺の兄2人は凄いのだ。
「凄いなぁ、あれで土を混ぜているんだ」
「ほぉ~」
次にドルフ爺は、肩に担いで持って来た鍬で畑に畝を作り出した。
本当に全部植え替えるつもりなんだ。
平らな地面に、植えてあっただけの畑に畝を作るつもりなのだろう。基本からやり直しなのだ。
「でぃしゃん、はやいのら」
「ね、2人共手慣れたもんだね」
そうなのだ。ドルフ爺が、慣れた手付きでどんどん耕して行く。ドルフ爺が畝を作ると、ニコ兄が野菜を植え替えて行く。しかも、手から水をシャワーの様に出しながらだ。
「ニコは土属性魔法だけじゃなくて、水属性魔法も使い熟しているじゃない」
「しゅごいのら」
「凄い早いですね。もう畑らしくなってきました」
ハンナも感心して見ている。ハンナとビオ爺だけだと、こんな本格的な畑を作るのは難しいのだろう。
ハンナは女の人だし、ビオ爺はもうお爺さんだし。て、ドルフ爺もお爺さんなのだ。いつも元気で、アグレッシブだから時々忘れちゃう。
俺は畑を、どうすれば良いのか分からない。
「ちゅれてきて、よかったのら」
「本当だね、流石だよ。土が蘇ったよ」
あれれ、ディさんの目までキラッキラしてきたぞぅ。
「でぃしゃんもやりたいの?」
「うん、僕は自然と共存するエルフだからね」
よく分からないけど。ディさんがウズウズしているのだ。なら手伝ってきても良いのに。
「僕が行くと邪魔になっちゃうよ」
あらら、それは残念なのだ。それくらいに、ドルフ爺とニコ兄の息がぴったりだった。
毎日一緒に、作業しているからこそのコンビネーションなのだ。
見る間に立派な畑が出来上がった。
「こんなもんか?」
「おう、上等だ」
かっちょいいぞぅ! 思わず拍手なのだ。パチパチパチ!
「どるふじい、にこにい、しゅごいのら!」
「本当に凄いよ! 立派な畑だ!」
ディさんやハンナも拍手をしている。まさかこんな短時間で、畑を作ってしまうなんて思いもしなかったのだ。
「ニコの土属性魔法があるからな」
「へへん、どうってことないぜ」
ニコ兄の隣で同じ様に胸を張ってみる。ふふふん。どうだ? 俺の兄は凄いだろう?




