217ー作るのら
ふと、マリーがいるキッチンを見ると……まただよ。またまたディさんが、キッチンで立ったままお野菜を食べていた。
俺はちょっぴり冷めた目でディさんを見る。
「だって、お野菜が僕を呼ぶんだ!」
それは前にも聞いたのだ。だからね、ディさん。
「でぃしゃん、しゅわって、たべたらいいのら」
「ロロー!」
またお野菜を持ったまま、抱きつこうとしてくる。避けちゃうよ。
「まりー、りんごじゅーしゅも、ちょうらい」
「はいはい」
「わふ」
「ぴかものむ?」
「わふん」
「キュルン」
「はいはい、ピカとチロもね」
言わなくても、マリーはよく分かっている。
それにしても、この雨なのだ。直ぐに止むけど、毎日いつ降ってくるのか分からない。大抵午前中のこれ位の時間なのだけど。
だからマリーは、お洗濯を干すのに困ると言っている。折角干しても、雨の時だけ取り込まないといけない。雨が止んだらまた干す。二度手間なのだ。
1度降ればその日はもう降らない。お野菜や木々にとっては、必要な雨なのだろう。
クッキーを摘みながら、足をプランプランする。何だっけ? そうだ、マンドラゴラなのだ。
途中で、リカバマッシュの話になって、ププーの話になってしまったから忘れていた。
「どるふじい、まんどらごら、ろうしゅんの?」
「見つけたら殴って気絶させたらいいぞ」
「しょれから、どるふじいよぶ?」
「おう、そうだな」
よし、思い切りバシコーンと殴ってやるのだ。いつの間にか増えていたマンドラゴラ。
万が一、街の近くまで行ったりすると危険じゃないか。
バシコーンと! 殴るのかぁ。むむむと考える。もちろん、片手を顎に持っていき渋い感じでなのだ。
「ロロ、また何かするつもり?」
「でぃしゃん、ばしこーんなのら」
「ああ、マンドラゴラ?」
「しょうなのら」
これは、殴る武器が必要なのだ。俺のこの小さいプヨプヨしたお手々で殴ったりすると、手の方がやられてしまうのが目に見えている。
そんな事をしていたら、もう雨がカラッと止んだ。トコトコとお外に出てみると。
「また、くーちゃん」
「気持ち良かったのよーぅ」
またクーちゃんが、雨でびしょ濡れになっていた。小亀達は、池でスイスイと泳いでいる。
周りの土には、生き生きとした緑のマンドラゴラの葉っぱだ。雨が降ったから、緑が綺麗でとっても美味しそうに見える。いや、そんな事は良いのだ。
「くーちゃん、へいき?」
「大丈夫よーぅ」
「しょっか」
ならいいや。さて、俺は武器を作ろう。バシコーンとやってやるのだ。
軒下に座り、雨で柔らかくなった土と乾いた土を混ぜ混ぜして捏ねる。まあるい円柱を先ず作って。コネコネ。
コッコちゃん達やピカもお外に出て来た。俺の側に集まっている。
「わふ」
「ぶきをちゅくるのら」
「わふん」
「まんどらごらなのら」
「わふ」
「コッコ」
「クック」
なるほどね〜て、ピカが言うと、作るんだって。土で? と、コッコちゃんが話している。
俺の周りはいつも賑やかなのだ。プチゴーレム達はどこに行ったのかな? さっきはいたのに。最近はご飯の時くらいしか見ないぞぅ。
俺は土をコネコネして丸めて、持ち手をマルマルしてくっつけて。コネコネ。
あんまり大きいと持てないからな、小さくても良いのだ。飾りも付けてみよう。ふふふん。
「ロロ、また何をしているの?」
「でぃしゃん、てで、ばしこーんしゅるといたいのら」
「だからそれでするの?」
「しょうなのら。まんどらごら」
「その前にドルフ爺を呼んだら?」
「けろ、ボクもやっちゅけるのら」
いやいや、やっつけるのが目的なのではない。ブスッとぶっ刺したりはできないからね。
でも、気絶させてから呼ぶ方が安心なのだ。マンドラゴラは移動しちゃうし。
なにより俺も、バシコーンとやってみたいのだ。それにね。
「まちにいったら、たいへんなのら」
「そうだね。この辺の人達は、もう処理の仕方を知っているだろうけど」
そうなのだ。街の人達は冒険者でないと知らないだろう?
前に被害が出た時は、冒険者だって知らずに引っこ抜いて状態異常になっている人もいたのだ。
あの後冒険者達は、マンドラゴラの処理の仕方という講義を受けさせられたらしい。
そんな危険なものを移動させては駄目なのだ。
「れも、おいしいのら」
「ふふふ、そうだね」
そう、とっても美味しい。煮るとスープがよく浸みて、歯ごたえは残っているのに柔らかい。
ポトフには必ず入れたい。大根ステーキみたいにしても美味しいかも。食欲には負けてしまうよね。
だから、ちゃんと管理するのだ。ドルフ爺に言って、柵を作ってもらう方が良いかな?
「よし、れきたッ」
「ロロ、それコッコちゃんの羽?」
「しょうなのら。かわいいのら」
「ふふふ、本当に可愛いね」
乾かす前に細かい砂を掛けて、スリスリして艶を出す。軒下に置いておけば乾くかな。
まさか、今回は勝手に動いたりはしないだろう。
「ロロ、何て思って作ったの?」
「ちゅよくて、かたいの」
「なるほど。楽しみだ」
ディさんはまた何かを期待している。今回は流石に特別な事はないのだ。多分ね。
さて、俺は何を作ったのかと言うと。
「でも、これは何て言うのだろう? メイスってわけでもないし」
メイスって何だよ。物騒ではないか。もっと可愛いのだ。




